1.塩の生理作用

 生命を維持するためには
塩を必ず摂らなければならない。塩には次のような生理作用があるからである。

 1) 体液の浸透圧を維持する体液の浸透圧は主として塩(塩化ナトリウム)で生ずる。浸透 圧は塩の濃度で異なり、体液の塩濃度を一定に保つのは腎臓の働きによる。この濃度は約0.9%である。体液には細胞の外にある細胞外液と細胞の中にある細胞内液がある。細胞外液の主成分が塩化ナトリウムであり、細胞内液の主成分が塩化カリウムである。両者の濃度が一定に保たれることにより、細胞の形が正常に維持され、正常な機能を果たす。

 2) 酸・塩基平衡を維持する。血液のpHは0.74±0.05という非常に狭い範囲で酸・塩基平衡が維持されている。この範囲を超えて酸性になるとアシドーシス、塩基性(アルカリ性)になるとアルカローシスとなり、いずれも危険な状態になる。酸・塩基平衡を維持する働きを示すのは重炭酸ナトリウムのような緩衝剤である。重炭酸ナトリウムのナトリウムは塩化ナトリウムに由来している。食物が消化・分解されると炭酸ガスと水になる。食物の成分である炭水化物、脂肪、タンパク質が燃えて炭酸ガスと水になると考えられる。呼吸により酸素を摂り、炭酸ガスを排泄するが、食物が分解された結果である。炭酸ガスは血液に溶けた状態では酸性を示す炭酸であるのでpHを下げる。

 3) 消化液の成分となる消化液である胃液の主成分は塩酸である。塩酸は塩化ナトリウムから作られる。消化液には膵液、胆汁、空腸液などがあり、その主成分は塩化ナトリウムや重炭酸ナトリウムである。

 4) 神経の伝達に係わっている神経細胞が刺激を受けるとナトリウム・イオンやカリウム・イオン等が細胞内に出入りし、活性電位が生じて微少電流が流れ、神経細胞を通して刺激 が伝わっていく。

 5) 栄養素の吸収に係わっている炭水化物、タンパク質等が分解されるとブドウ糖やアミノ酸になる。それらの物質はナトリウム・イオンと結びついて腸の粘膜から吸収される。

 6) 食欲を増進させる塩味は食欲を増進させ、いろいろな食物が美味しく食べられる。体内に塩分が足りない場合には特に美味しく感じられ、沢山食べられる。しかし、足りている場合には塩辛さのために不味く感じられ、あまり食べられない。


 7) 熱中症を予防、治療する。発汗によって体温は調節される。汗の中には塩分が含まれており、塩分補給しないと低ナトリウム血症になり、発汗が抑制され、体温が上昇し熱中症になる。治療には輸液が行われる。スポーツ栄養ではスポーツの種類によって塩摂取量は大きく変わり塩摂取量の管理が重要となる。

 8) 身体のナトリウム収支:摂取した塩はその分だけ尿、便、の中に排泄され、収支が維持されている。体内のナトリウムは細胞外液、細胞内液、消化液、骨などに分布している。体内の塩分保持にはアルドステロンが重要な働きをしている。

 9) 塩の薬利効果:塩は薬として使われてきた歴史があり、最近では欧米で喘息呼吸器系疾患の治療に使用されるようになった。治療法として認定している国もあるが、その治療効果に疑義を呈する意見もある。

 10) 塩味:新生児は塩味を認識できない塩味認識は後天的に得られ塩味嗜好は変化する。塩味は塩化ナトリウムしか出せない。ハロゲン化物には類似の味を示す物もあるが、安全性に問題がある。塩化カリウムが一番よく使われ、塩化ナトリウムと半々に混合した製品が多いが、安全性に対しての使用表示は海外製品とは反対で、危険性を感じる。表示内容については事例で示されていたが、製品が特別用途食品から外れたので危険性は高まったと感じる。塩に含まれるミネラルから塩味のうま味を強調し過ぎたことから、優良誤認表示を防止する対策が取られた。塩には他の味を強調または抑制する作用がある。