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たばこ塩産業 塩事業版  2012.7.25

塩・話・解・題 88 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

スポーツによる発汗量と塩損失量

 

熱中症に注意しなければならない季節となった。厳しい暑さの中で激しいスポーツをすれば、とめどなく流れ出る汗により多くの水分や塩分が失われる。それらを補給するには、それぞれの量がどれくらいになるのか、知っておく必要がある。それを調べた研究結果を紹介しよう。

 

運動量・体重により増減

フットボールはボールの争奪戦でゴールを目指して走りまわる激しいスポーツだ。プロのアメリカンフットボール選手が練習中に流す汗の量と、その中の塩濃度・塩量を調べた結果がJournal of Athletic Training(201045364)に発表された。守備位置によって運動量が異なることを考慮し、被験者をバックスとレシーバーズ(BR)18人、ラインバッカーズとクォーターバックス(LB/QB)12人、ラインメン(LM)14人の3グループに分けた。これらの選手の身体特性は競技中の役割を反映して表1に示すようにグループ(守備位置)間で大きく異なる。

表1 3グループ・フットボール選手の身体特性
身体特性 BR LB/QB LM
体重 kg 93±6 110.5±5 135.6±17
体表面積 m2 2.14±0.09 2.37±0.07 2.63±0.15
原表より一部抜粋。 J Athl Train 2010;45:364より、以下の図表も全て同じ出典。

データは、2週間連続で練習中の2週間目の練習中に汗吸収パッチを前腕に貼り付けて集められた。運動中の気温については湿球温度25.9度±1.9度としか記載がない。当然のこととして、乾球温度は相対湿度が低いほど高くなり、乾湿温度差の表示がないので乾球温度は分からないが、湿度を50%とすると、温度差は7度くらいにはなるので、33度程度になる。

このような環境条件下における各グループの発汗量、排尿量、飲水量、体重の減量を表2に示す。発汗量は守備位置によって大きく異なり、飲水量も発汗量を反映して大きく異なっている。排尿量には大きな差は見られなかった。発汗量の違いを図1に示した。

表2 3グループ・フットボール選手の液体収支と減量
グループ 発汗量 L/h 飲水量 mL/h 排尿量 mL/h 減量 %
BR 1.4±0.45 937±361 92±90 1.13±0.45
LB/QB 1.98±0.48 1253±507 113±102 1.2±0.78
LM 1.25±0.68 1435±525 89±68 1.13±1.0
平均 1.84±0.64 1181±498 97±86 1.15±0.75
範囲 0.43 - 3.16 204 - 2176 0 - 398 +0.57 - -2.9
原表より一部抜粋。 

図1 アメリカンフットボール選手の守備位置と発汗量

汗の中の塩濃度3 g/L(0.3)程度で、グループ間による差はあまりなかったが、1のようにグループ間で発汗量は大きく異なるので、時間当たりの発汗による塩損失量は図2に示すほどになる。シーズン前に4時間半の練習をした時の発汗量と塩損失量を表3に示す。体重の増加に伴って明らかに発汗量と塩損失量は増加している。

図2 アメリカンフットボール選手の守備位置と塩損失量

表3 シーズン前4時間半練習中の計算された発汗量と塩分損失量
グループ 発汗量 L 塩分損失量 g
BR 6.4±2.0 19.05±9.91
LB/QB 8.9±2.2 25.15±13.46
LM 10.1±3.1 31.75±19.81
平均 8.3±2.9 24.89±15.24
範囲 1.9−14.2 5.84−76.71
原表より一部抜粋、ナトリウム量を塩分量に換算。

表2表3に示されている範囲は非常に幅広く、個人差が大きいことを示している。体重との関係で発汗量を示すと図3にようになり、バラツキが大きく、同じ体重でも個人差が非常に大きいことが分かる。体重に相関している体表面積を横軸にとった図でも発汗量は同じ傾向であった。

図3 体重と発汗量

飲水量との関係では図4に示すように、同じ発汗量でも飲水量には大きな幅があり、運動中にはほとんどの選手が飲水量を減らしていることを示している。その結果は表2の減量に表れている。つまり脱水状態になっているが、低ナトリウム血症を予防することに役立っているのかもしれない、とも述べられている。

図4 運動中の飲水量と発汗量

 

塩摂取量に大きな個人差

 この報告では塩摂取量は分からないが、典型的なアメリカ人は1日当たり8.6 gの塩摂取量としている。通常、発汗のない生活ではこの摂取量は尿中に排泄される。それに加えて、表3に示す発汗による大量の損失量を補わなければならない。最高の損失量76.71 gを示した選手では、最高の発汗量2.94L/hと最高の汗の塩濃度0.58%を示した。これだけの損失量を平均的なスポーツ飲料で補うには65 L近くも飲まなければならず、それにより3.8 kgほどの砂糖を摂取することや低ナトリウム血症を引き起こすという。したがって、補給には塩錠剤が必要であった。

 この報告で、プロのアメリカンフットボール選手が練習や試合中に非常に多くの塩を摂取していることが分かった。しかし、あまりにも大きな個人差があり(最高摂取量は最低摂取量の13倍もある)、一律に考えることはできない。自分の体質を自覚し、自己管理するしかなさそうであるが、その場合に何を指標とすれば良いのであろうか?筆者は塩味に対する味覚ではないかと思っているが、科学的な裏付けがほしい。