たばこ塩産業 塩事業版  2005.04.25

塩・話・解・題 1

 

食塩代替物:カリウム混合塩

海外と日本の表示の違いを比較

 

 食塩の摂り過ぎによる高血圧症の発症を心配して、代替性のない塩味に近い物として食塩代替物が考えられた。その代表的な物は塩化ナトリウムと塩化カリウムを半々に混合した製品である。これはアメリカのある製塩会社が開発し、ヨーロッパ、オーストラリアでも販売されている。塩専売制度が廃止されてからその製品が輸入販売され、また、日本の製塩会社でも製造販売している。この塩の使用上の効能と注意書きについて、海外と日本の違いを比較し、日本では表示の文言が変わってきている。表示について厚生労働省の対応策に対して問題点を提起する。

アメリカ製品の表示

 いきなり英語で恐縮であるが、まず製品の表示を記載し、その後に拙訳を付しておく。For normal healthy people. Not be used by persons on sodium or potassium restricted diets unless approved by a physician. (健常者用。医師の許可がなければ、ナトリウムまたはカリウム制限食を食べている人は使ってはいけない。)と記載されている。
  つまり、健康な人が使用する塩で、減塩をしている人は医師の承認を必要とする、と書かれている。

オーストラリア製品の表示

 これも英語で次のように書かれている。Reduced sodium salt mixture for normal healthy people. Not suitable for diets requiring low or restricted sodium or potassium intake, without medical advice. Not suitable for use with certain diuretics. (健常者用のナトリウム低減塩混合物。医者のアドバイスなしに、低ナトリウムまたはナトリウム制限またはカリウム制限食を要求されている人には適さない。何種類かの利尿薬との併用には適さない。)と記載。
  アメリカと同じ記載の上に、さらに利尿薬との併用を禁じている。

表示内容が大きく変化

 日本では特別用途食品の中の病者用食品として厚生労働大臣が許可している低ナトリウム食品の1製品となっている。当然のこととして許可基準があり、この製品には許容される特別用途表示の範囲として次のように書かれている。「ナトリウム摂取制限を必要とする疾患(高血圧、全身性浮腫疾患(腎臓疾患、心臓疾患など))に適する旨」と。
 この基準に遵って各社は表示している。その内容は次のように変わって来ているが、これはアメリカから輸入されている製品に関するものである。いつ頃表示が変更されたのかは明確ではない。
  @       売当初(専売制度廃止の1997年頃)のプラスチック瓶詰め品
        健康な方の健康管理用に、又医師に食塩(ナトリウム)摂取制限を指示されている方(高血
   圧、全身性浮腫、心臓・腎臓疾患、妊婦、肥満体など)におすすめする減塩です。

       注意事項:● 本品を多用しても病気が治るわけではありません。● 食事療養中の方は医師
   にご相談ください。

A       数年後(2000年頃)の詰め替え袋品
   健康な方の健康管理用に、又は食塩(塩化ナトリウム)摂取制限が必要な方(高血圧、全身性  浮腫、心臓疾患、妊婦、肥満体など) に特におすすめする食塩です。
  注意事項:※ 本品を多用しても疾病が治癒するものではありません。※ 腎臓疾患及び食事   療養中の方はあらかじめ医師にご相談の上、ご使用ください。

B       最近(2004年頃)の詰め替え袋品
     塩分が気になる方、又は医師にナトリウム摂取の制限を指示された方(高血圧など)が使用   するのに適しています。
   注意事項:※ 本品は食事療法の素材として適するものであって、多くを摂取することにより  疾病が治癒するものではありません。医師、管理栄養士等の相談指導を得て使用して下さい  。腎臓疾患の方は、お控えいただくか、医師にご相談の上、ご使用ください。
                ※        ※        ※
 このように表示が大きく変わってきている。実はこの商品が出始めたころ、ビッグサイトで開催された食品展で、厚生省関連の機関が特定用途食品の宣伝のためと思われるがブースを出していた。
  担当者にこの表示の危険性(塩化カリウムが危険物質)について意見を述べたところ、それは許可基準に書いてある文言で問題はない。それを変えようとすることは大変なことで出来ない、とのことであった。帰室後、1999年5月に本紙に書いた記事「塩分50%をカットした塩?」、その他資料を送っておいたが、反応はなかった。

日本では海外とまったく異なる表示

行政機関への働きかけ
 政府機関が独立行政法人化し、国立健康・栄養研究所も独立行政法人となってから東京や大阪で講演会を開催したので、いずれにも出席した。
  東京会場では講演の合間に出席していた部長にこの商品についての意見を聞いた。この時には、現物を持っておらず、見せることが出来なかった。応対では、日本と外国との違いはあってもおかしくないが、塩化カリウムが問題であるようであれば、腎臓学会に諮問することも考えられる、とのことであった。
  大阪会場では特に相談コーナーを設けていたので、現物を持って行き表示の問題点を述べると、応対者は表示に対して懸念を示した。
  この件を担当している厚生労働省担当官の名前を聞き、意見を伺いに行った。担当官は筆者に組織代表として来ているのかと聞くので、個人として聞きに来た旨を告げると、現在は全身性浮腫などの表示をしないように行政指導しているとのことであった。
 その結果が上のような表示になったのであろうが、この商品はそれほど売れる物でもないので、未だに昔の厚生大臣許可の表示で販売されている。最後の詰め替え製品のように表示するのであれば、前の製品は回収されるべきであると思う。

警鐘を鳴らす専門家の意見

 腎臓の専門家である自治医大の今井名誉教授は「腎と透析、56巻4号、2004年」で、この商品について次のように述べている。
  「健康な人がナトリウム制限をするために半量をカリウムで置換したこの代替塩を使うのはまだ危険は少ない。ところが、これを上記のようなナトリウム制限を必要とする病態時に代替塩として使用するのは極めて危険である。ましてや腎不全時の浮腫に使うなどというのは殺人行為に等しい。妊婦や肥満体に使えというのも、いったいどんな論拠があるのかと説明に窮する。」
                     ◇         ◇         ◇
 以上、食塩代替物の表示について述べてきた。とかく食品の安全性が神経質(BSE問題)とまで思われるほどに問題とされる時代に、食生活に必須で身近な食品である塩に海外と日本では全く異なる表示がされており、海外表示の方に正当性があることから、厚生労働省のこの問題に対する処理対応は問題とされるべきであると考える。

戻る