たばこ塩産業 塩事業版  2006.6.25

塩・話・解・題 15

近頃気になるカリウム入りの塩

 

 昨年4月に危険性の高いカリウム入り塩商品について国内と海外を比較したところ、使用についてはまったく反対の表示で、日本の表示では危険であることを示した。行政に働きかけた結果であるかどうかは分からないが、適正な表示に是正されてきたことを述べた。しかし、最近の商品ではかつての危険性が懸念される表示に戻っており、しかも局所的であるかもしれないが、店の塩陳列でこの塩の棚面積が大幅に増え、販売量が増加しているように思われる。インターネットの塩人気コーナーではトップにランクされている。英国の学術誌ではこの塩の使用について警告を発している。この塩の販売について気になっている所以である。

最近の商品では「矛盾表示」を是正

表示の許可基準
 この商品は厚労省が定めた特別用途食品の病者用単一食品の中で低ナトリウム食品として許可されている。使用の表示についてはガイドラインが示されており、「ナトリウム摂取制限を必要とする疾患(高血圧、全身性浮腫疾患(腎臓疾患、心臓疾患など))に適する旨」を表示できる。また、必要的表示事項の一つとして「医師、管理栄養士等の相談、指導を得て使用することが適当である旨」を記載するように義務付けられている。
 海外製品では、「健常者用の塩で、医師の許可がなければナトリウムまたはカリウム制限食を食べている人は使ってはいけない」と記載されている。

表示の変遷
 この指針に基づいて最初の商品には「健康な方の健康管理用に、又医師に食塩(ナトリウム)摂取制限を指示されている方(高血圧、全身性浮腫、心臓・腎臓疾患、妊婦、肥満体など)におすすめする減塩です。食事療養中の方は医師にご相談ください。」と表示されていた。
 その後、行政に働きかけた結果による行政指導からか、カッコ内の具体的な疾患名が(高血圧など)だけとなり、[注意事項]として腎臓疾患の方は、お控えいただくか、医師にご相談の上ご使用ください。」と表示されるようになった。筆者が側線を引いた部分は赤字で書かれている。つまり、腎臓疾患に関しては前とはまったく反対の表示となったのである。
  ところが、最近では「(高血圧、全身性浮腫(心臓疾患など))に限り適しています。」となり、注意事項は同じ表示となっている。腎臓疾患は表記されていないが、全身性浮腫は腎臓疾患で起こるので、まったく矛盾した表示になっている。これは同一の商品に対する表示の変遷であることを考えると、行政は何を考えて指導しているのか、と言いたくなる。
 一方、最近販売されるようになった別の商品では「医師のナトリウム、食塩の摂取量の制限を指示された方におすすめです。医師・管理栄養士等の相談・指導を得て使用して下さい。腎臓疾患の方は、お控えいただくか、医師にご相談の上ご使用ください。」と表示されている。従来( )内に具体的に表示されていた疾患名がなく、腎臓疾患患者に対する注意事項も赤字で同じ文面となっている。ようやく行政も矛盾した表示を是正するように指導し出したのかな、と思っている。

人気の秘密
 インターネットの塩人気コーナーで某メーカーのカリウム入り商品がトップにランクされている。いろいろと評価基準はあるが、消費者からのコメントでは減塩商品であるのに、しっかりした塩味を味わえることと、高血圧によさそうということである。いろいろと減塩商品を使ってみた結果から意外に塩味が良く満足している様が伺える。強い減塩欲求があって、それに応えられる商品に行き当たったことが人気の源であろう。

カリウム入り食塩代替物には明確な警告を

 イギリスの医学専門誌にBMJ(British Medical Journal)がある。その雑誌に「腎不全患者にカリウムを含む食塩代替物の危険性」と題して2003年カリウム入りの塩の危険性が発表された。それによると、高カリウム摂取量は脳卒中の危険性を減らし、ラットでは腎臓血管、糸球体、尿細管損傷を予防する。カリウム濃度の増加は心疾患、心不全、左心室肥大患者で心室不整脈に危険性を減らすと、カリウム入りの塩を評価している。
 その一方で、腎不全、低レニン性低アルドステロン症の糖尿病、閉鎖性尿路病ではカリウムの腎臓排泄が阻害されるので、高カリウム血症になる危険性を指摘している。
  いくつか専門用語が出てきて恐縮であるが読み飛ばし、結論だけそう言うこともあるのだと言うことを理解して頂きたい。さらに、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンU受容体ブロッカー、カリウム抑制利尿剤を処方されている患者はカリウム排泄が悪くなり、高カリウム血症の危険性が高くなる。高齢患者の骨関節炎に処方される非ステロイド系抗炎症剤もカリウム濃度を増加させる、としてカリウム入り塩の危険性を指摘している。
 以上のことから、このような薬剤を処方する医師は患者にカリウム入り塩の使用について尋ねるべきであり、栄養士もこのことを念頭において栄養指導すべきである。カリウム入りの食塩代替物商品には製品情報として明確な警告を記載すべきである、と主張している。
 高齢者はいろいろな疾患で様々な薬剤を処方されるので、カリウム入りの塩が危険になる確率が高くなる。カリウムは果物や野菜から摂取すべきで、食塩代替物からは摂取すべきでないと言う専門家もい
る。

 腎臓生理学が専門の今井正先生(自治医科大学名誉教授)は表示の変遷で最初に記載した商品の表示されている文言を見て仰天した、と日本海水学会誌の巻頭言に書いている。健康な人がナトリウムを制限するために半量をカリウムで置換したこの代替塩を使うのはまだ危険性は少ないが、表示のようなナトリウム制限を必要とする病態時に代替塩として使用するのは極めて危険である。ましてや腎不全時の浮腫に使うなどというのは殺人行為に等しい、とも書いている。
  塩化カリウム入りの塩を使っていながら通院して薬剤を服用している人は一度医者に聞いてみることをお勧めする。

(危険だが…)販売数量は増加中

 カリウムの危険性については、カリウム注射による尊厳死、殺人事件などで話題になる。カリウムには心臓を止める働きがあるからである。高カリウム血症になると心臓停止の危険性が高くなる。
  動物の薬殺にはカリウム注射が行われる。薬殺をインターネットで検索して、アメリカでは囚人の死刑執行にカリウム注射が行われることを知った。最初に麻酔で意識を失わせ、次に呼吸を止める注射を打たれ、最後に塩化カリウム溶液を注射して心臓を止めるそうである。
  たまたま「トゥルー・クライム」という映画で、無実の殺人犯が薬殺刑を受ける状況を見た。3本の薬剤が入った注射器が点滴注射装置にセットされており、最後に50 ccの塩化カリウム溶液が自動的に注射されるようになっている。最初の麻酔注射液が注射された段階で、無実であることが証明された緊急連絡が入って自動装置のスイッチが切られ、一命を取り留めるが、緊張したシーンであった。
  200011月号の雑誌「諸君」で麻生幾は、阪神・淡路大震災の教訓として医療や救急現場が想像もしなかった驚くべき人体の脅威を次のように記載している。長時間家屋の下敷きになっていた被災者が病院に収容され、外傷もなく、全身状態が回復していた矢先に心臓が突然止まってしまう奇怪な現象が連続した。後の調査で、この疾患が「挫滅外傷症候群」(クラッシュ・シンドローム)であることが分かった。この疾患には3種類あり、その一つが、物の下敷きになり細胞が破壊されたことにより細胞内にあった大量のカリウムが放出され、心臓を直撃することにより心停止してしまう症状である。これはカリウム・ショック死とも言われている。緊急対応処置が行われるようになった。
  最近の新聞記事によると日本の自殺率は世界でも際だって高いそうである。アメリカは日本の1/2以下で、西欧のほとんどの国は日本より低く、大部分の発展途上国もはるかに低いという。
  インターネットが普及した今日、多くの人々が好きなサイトを探して見ることができる。自殺サイトもあり、そこではカリウムの静脈注射を薦めており、あろうことかある製塩メーカーのカリウム入り塩の商品名まで出ている。
  無意識にあるいは意識して使用するにしても、カリウム入りの塩が危険であるのに、販売量が拡大している様子が伺える。気になり記事とした。