たばこ産業 塩専売版  1988.12.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩技術調査室室長

橋本壽夫

 

体内のナトリウムの分布と収支

 

 ナトリウムは、生命を維持するためには欠くことのできないミネラルである。通常、私たちはナトリウムを主として食塩の形で摂っている。しかし、ナトリウムは魚介類や肉類、牛乳の中にも、もともと入っているので、それらを食べれば、食塩という形ではなくても自然にナトリウムを摂ることになる。その量は一日に摂取するナトリウム量のだいたい3分の1に当たるといわれている。その他にもわずかだが、味の素とか、医薬品からも摂っている。
 ナトリウムと食塩の関係は、食塩の約40%がナトリウムなので、ナトリウムの量を2.5倍すれば食塩の量となる。厚生省が毎年発表する国民栄養調査の食塩摂取量は、摂取した食品中のナトリウムを合計して、その2.5倍を食塩として表しているにすぎない。
 また、に示しているように分かりにくい量の単位としてmEq(ミリグラム当量、ミリモルとも書かれる)という言葉がある。1 mEqを重さに換算する時は物質によって異なるが、ナトリウムの場合1 mEq23ミリグラム。したがって、mEqの数値を23倍すればナトリウムのミリグラムになり、それをさらに2.5倍すれば食塩のミリグラムになる。

体内のナトリウム分布と収支
           図 体内のナトリウム分布と収支

 さて、このナトリウムの体内分布と収支はどのようになっているのだろうか?これについて京都府立医科大学の森本教授は図のようにまとめている。図を見ると分かるように、体重を70キログラムとすると、体内には85グラムのナトリウムが含まれている。ナトリウムの分布としては、細胞外液に85グラムの約45%に当たる36.8グラム、骨格に同じく36.8グラム、その他の細胞に11.5グラムが含まれている。それらについてもう少し詳しくみてみる。
 細胞外液とは細胞の外にある液で、血漿(血液から赤血球,白血球、血小板といった細胞成分を除いたもの)と細胞の周囲にある間質液。血漿は血管内にあり、間質液は血管外にあって、毛細血管の壁を通して血漿と間質液との間でお互いに栄養物や老廃物の交換を行っている。量的には間質液は血漿の3倍ある。間質液は細胞膜を通して細胞内液とも物質の交換を行っている。
 細胞内液は細胞の中にある液であるが、この中の陽イオンは主としてカリウム。ナトリウムも細胞内にあるがカリウムの15分の1ぐらいで、生きている限りナトリウムは細胞内から細胞外へ出されてしまう。このナトリウムを細胞内から排泄する機構を専門用語でナトリウム・ポンプといっている。
 体内の水分は成人で平均的に60%で、その3分の2が細胞内液で3分の1が細胞外液であるといわれている。したがって、体重70キログラムの人の細胞内液はその40%に当たる28キログラム、細胞外液は20%に当たり14キログラムあるということになる。
 次に細胞外液に含まれているナトリウムとほぼ同じ量が骨格中に含まれている。骨格中には結合型と遊離型のナトリウムがある。骨格中のナトリウムの約半分は骨格構造と結合していて、簡単には血液中のナトリウムとは交換しないことが知られているが、細胞外液のナトリウムが減れば予備ナトリウムとして働くものと考えられている。
 体内のナトリウム収支は図に示すようになっており、一日6グラムのナトリウムを吸収し、ごく少量大便中に排泄されるものを除いて、そのほとんど全量を尿中に排泄して収支バランスを保っている。したがって、腎臓が重要な働きをしており、腎臓が悪くてナトリウムをよく排泄できないと、体内にナトリウムがたまり、二次的に高血圧になる。
 しかし、健全な腎臓であれば、十分な余力を持って排泄しているので、高血圧になる心配はない。
 ここでは、汗によるナトリウムの排泄は示されていないが、汗1リットル中にはナトリウムが0.7グラムから2.5グラム含まれており、急に激しい汗をかけば、体内からナトリウムが出ていき、収支のバランスが崩れてしまう。
 ナトリウムの補給が追いつかないと、骨格中の予備ナトリウムで一時的に補うことになろうが、厳しい減塩食を励行しておれば、すぐには補給が間に合わず、疲労、意欲喪失、めまい、痙れん、衰弱といった危険な状況になる場合もある。特に子供、幼児の場合はナトリウムの保有量が少ないので危険な状態に早くなってします。
 このようなバランスの崩れ方は下痢や嘔吐が続いても起こるし、怪我で出血がひどい場合にもなる。健康な体であれば、減塩を気にしないで通常の食生活をすることが体に抵抗力をつけ、何かの原因で一時的にナトリウムのバランスを崩した時でも回復が早いのではなかろうか。