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たばこ塩産業 塩事業版  1997.04.18

塩なんでもQ&A

(財)塩事業センター技術部調査役 

橋本壽夫

塩のうま味とは?

 

 「天然の塩」や「自然のお塩」などとうたっている「○○塩」や「△△塩」と、(財)塩事業センターが供給する生活用塩との違いを教えて下さい。また、「○○の塩」の塩を使っている友人は、甘味がある、うま味がある、というのですが、塩の甘味やうま味とは、どんな味をいうのですか?                                         (東京都・一消費者)

生活用塩とそれ以外の塩との違い

 この4月1日から(財)塩事業センターが生活用塩を供給するようになりましたが、それは、日本たばこ産業(株)が供給している旧専売塩です。生活用塩以外の塩は旧専売法でいう特殊用塩、特例塩などですが、特殊用塩に限りますと、新しく制定された塩事業法では一部枠を広げて、そのまま特殊用塩として残っております。
 生活用塩には、原料である海水をイオン交換膜法で濃縮し、熱効率の優れた蒸発缶で煮詰めてつくられた塩(食塩、家庭塩など)と、海水を原料にしてつくられた天日塩を輸入して、それを一度溶かして煮詰め直してつくられた塩(食卓塩、精製塩など)があります。これらの塩については(財)塩事業センターが品質を保証します。
 特殊用塩等には、特殊用塩と特殊製法塩があります。特殊用塩は局方塩や試薬用塩です。特殊製法塩には、真空式以外の煮詰め方式(熱効率が悪い)でつくられた塩や、塩に食品とか他の添加物を加えて加工した塩があります。これには、平釜塩や香辛料を入れた塩など、さまざまな塩があります。これらの塩の製造者は自社製品について品質を保証します。

塩味の違い

 味の問題は正直いって、非常に難しい問題です。それは同じ塩でも、濃度によって、使う対象(食品)によって、人によって、同じ人でも生理状態によって違う(喉の渇いた時、水がうまいように、汗をかいて塩分が不足になった時、塩は一層うまく感じる)からです。また、このような問題に学問的に取り組んだ報告は非常に少ないからでもあります。でも、これでは答えになりませんから、少ない実験結果と数値データから考えて、できるだけお答えします。
 その前に、この質問の中で使われている言葉には曖昧なものがありますので、自然塩、うま味といった言葉の定義と、その内容をはっきりさせましょう。そうしないと、議論が混乱してとんでもない結論を出され、誤解の元になりかねないからです。

天然の塩、自然の塩

 地球上には自然に存在する塩、または自然にできる塩があります。自然に存在する塩は、例えば、岩塩ですが、これは数億年昔に海が内陸に閉じ込められて、海水が蒸発し、塩をはじめいろいろな鉱物が析出、沈殿してできたものです。
 岩塩には、ほとんど純粋でガラスのように透明なものから、純度が70%程度しかなく、黒っぽかったり、赤茶けたものまでさまざまなものがあります。これは塩ができてきた所の地質、気象条件、地殻変動によって影響されるからです。
 例えば、海水を容器に入れた場合、さらに、その中に粘土や黒い砂を入れた場合に、それぞれを静かに蒸発させたり、扇風機で風を送って波立たせながら蒸発させたり、また、ある程度結晶が底に出来たときに、容器を手で揺らして地震が起きたようにして、最終的に水分がなくなって出来上がった塩を見れば理解できるでしょう。
 自然にできる塩は、例えば天日塩です。メキシコやオーストラリアの乾燥地帯では、塩田に海水を汲み上げて置いておくだけで、太陽の熱と風の力で自然に塩ができます。原料である海水の組成はほぼ一定ですので、自然にできる塩の成分もほぼ一定になります。したがって、分析してみれば自然塩と称しても、本当に自然であるかどうかはすぐに分かります。
 自然にできる塩の中のにがり成分の量は、主として塩の結晶のまわりに付いているだけですから、4%程度になります。江戸時代に真塩として売られていた塩にも、この程度のにがりが含まれていました。
 自然につくる製塩法では、塩と一緒に石膏(カルシウムの成分)もできますので、自然にできる塩の中にはカルシウムもありますが、体に吸収利用できる物ではありません。

味覚の感度

 舌が味を見分ける能力は、例えば塩味であれば塩の濃度の薄い溶液から次第に濃い溶液の味を味わうことによって調べられます。塩の濃度が薄い(0.2%程度)と甘味を感じ、少し濃くなって(0.3%程度)初めてはっきりと塩味を感じます。この濃度を塩の閾値(いきち)といいます。
 すまし汁の程よい塩味は0.8%程度で、これは血液中の塩分濃度とほぼ同じです。海水中の塩分濃度は約3%ですが、とても塩辛く感じます。しかし、醤油の塩分濃度は18%もあるのに、うまい塩味に感じます。これは醤油の成分であるアミノ酸などによって塩味が弱められるからです。

塩のうま味

 一般的にうま味とは、昆布や鰹節、椎茸の味(うま味成分の味)をいいますが、塩のうま味はこれらの味とは異なり、はっきりとしませんが、塩辛さの刺激が少ない、やわらかいまろやかな塩味、料理に馴染んだ塩味をいっているのではないかと思います。にがりの成分はナトリウム、マグネシウム、カリウム、塩素、硫酸などの各イオンの混合物ですが、味が非常に苦いので嫌われ、にがりが多いと嫌味があったり、後味の悪い塩辛さとなるので、昔からにがりの少ない塩が喜ばれてきました。したがって、塩の中のにがりの量によって塩味は変わってきます。最近になって、健康志向や商品の差別化の観点から、にがりが入った塩が良い製品であるかのように売られるようになってきました。

自然塩の味

 さて、自然塩の味にうま味(学問的なうま味ではない)はあるのでしょうか。にがりが4%程度含まれている塩に似せてつくられた塩では、0.9%の濃度で塩味が弱く、甘味、うま味が強まり、刺激が弱いという試験報告があります。しかし、食品素材を変えて調理で使用したときの味の違いについては、試験報告がありません。
 日本には自然につくられた天日塩が輸入されていますが、にがりを除くために洗浄されていますので、にがり成分としては0.2%程度となっており、食塩(イオン交換膜法でつくられ、にがり成分が0.3%程度もある)との味の違いはないと思います。
 にがり成分が数%も入っている製品があれば、それは後で添加した物ということになります。また塩の純度表示を見て、残りがすべてにがり成分であると勘違いすることがありますが、残りの大半は水分です。
 4%のにがり成分を含む塩を1日当たり13g(国民の平均的な摂取量)食べるとして、マグネシウム摂取量を計算(4%すべて塩化マグネシウムと仮定)しますと、130mgの摂取量となります。厚生省は1日当たりのマグネシウム目標摂取量を150400mgとしていますので、それに近い量が摂取されることになります。ところが、にがりが洗浄されて少なくなっていたり、食卓、調理で使われる塩の量は1g強であったり、その他の要因を考えますと、自然塩である天日塩からのマグネシウム摂取量は100分の1くらいにしかなりません。
 以上のことから考えてみますと、自然につくられて輸入された塩もイオン交換膜法でつくられた塩も味に変わりはなく、塩からは、にがり成分であるミネラルも健康に良いと思われるほどには摂れないことが分かります。日本国内で市販されている自然をイメージさせる塩は、添加物を加えて自然にできる塩に似せた物で添加物の量によっては食塩と異なる味がすることもあると思われます。