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2018.03.01

書籍「長生きできて、料理もおいしい!すごい塩」の

フェイクな記載 2

 

 これまでに表記の書籍で白澤卓二氏は大きく間違った認識でフェイクな記載をしていることを指摘してきました。引き続き今月も記載されている章見出し、中見出し()、小見出し()で整理し、ページ番号とそこにどう書いてあるかを示し、それに対して意見を述べます。

 

第2章 塩はこんなに体にいい

  塩を摂ったほうが長生きする42ページ

 「アメリカは、平均10グラムほどです。(アメリカは減塩信仰が強いので、塩の摂取量

をさらに減らして5グラム程度にすべきという説まであります)。」

コメント:アメリカ人の食事ガイドラインでは塩摂取量を5.8 g/d以下としております。51歳以上の老人、アフリカ系アメリカ人、高血圧患者、糖尿病患者、慢性腎臓疾患患者ではさらに3.8 g/d以下としております。これは政府の方針ですが、国民は減塩信仰が強いとは言えません。減塩に対する関心は薄く、政府が減塩政策を勧めても50年間の塩摂取量は変わらないと報告されています。

  塩が不足すると脳卒中、心筋梗塞になる49ページ

「最近行われたインターソルト研究という研究で、塩の摂取を制限することで一般的に

死亡率が高くなり、心臓循環疾患を引き起こすことになるという結果が出ました。しかも、塩分の摂取量がすくなくなればなるほど危険率は高くなるのです。」

コメントインターソルト研究は大規模(32ヶ国,52センター、1センター200人以上延べ10,079人の被験者)で厳密な手法による国際的な研究です。これにより塩が高血圧の原因であることを疫学的に証明することを目的としました。その結果は30年も前の1988年に発表されましたが、塩摂取量とは関係なかったので減塩政策に対して論争が起こりました。そこで研究者達はデータを再整理して前の発表とは正反対の結論を出して発表しましたので、ますます激しく論争されるようになりました。

しかし、これだけ大規模な疫学調査を再度することはなく、これまで収集したデータを整理して発表するしかありません。この研究グループは前述したように塩が高血圧の原因であると仮定している減塩推進派ですので、記載されている「塩の摂取を制限することで一般的に死亡率が高くなり、心臓循環疾患を引き起こすことになるという結果が出ました。」というような減塩は危険であると言った記載をするはずがないのです。しかし、改めてインターネットで検索してみましたが、その結果を記載した論文には行き当たりませんでした。

 

第3章 「塩が悪者」には根拠がない

コメント:全ての人に対して一律に「塩が悪者」として認識させる減塩政策が政府によって進められています。この政策には科学的根拠はありません。その意味でこの章見出しは真実です。しかし、ごく一部の人では塩が悪者である場合があります。日本では「塩が悪者」には根拠がないと言う学者は皆無と言えるほど少ないのです。

「塩が悪者」に違いないと仮定した論文に基づいてアメリカで減塩政策が勧められ、日本もそれに追従し、国際的に広がってきました。しかし、その仮定が真実であることは未だに証明されておりません。「塩が悪者」とすることに反する研究論文が発表されるようになると、海外のマスメディアはそれらを積極的に紹介しています。そのことを本書でもニューヨーク・タイムズ(65ページ)やオーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド(83ページ)の記事として紹介しています。これらについては筆者のホームページでも紹介済みです。

72ページには「できることなら健康のために、今日から摂取する塩の量を増やしていただきたいと思っています。そのときに気をつけるべきは、「塩の質」です。」と書かれています。「塩の質」について別のところで「選ぶべきオススメの塩はミネラルが多くそのバランスが良い海塩と岩塩です。」と書かれていることはフェイクです。その根拠は前回述べました

 基本的には本章の内容に賛同しますが、それでもフェイクな部分がありますので、その部分を以下に示してコメントします。

  「塩感受性」が高い人は確かにいる

〇 塩感受性が高いかどうかを調べる方法76ページ

コメント:この小見出しで取り上げられている内容は筆者のホームページで紹介した塩感受性の確認法です。その後、筆者が入院を機に経験した記事を参考にされる方が良いと思います。

  すべてはアメリカの発表が間違っていること85ページ

 「アメリカで『塩の摂りすぎは体に悪い』という説が出たきっかけは、戦後の日本がアメリカに統治されていた時代の1954年に、GHQのダール博士が東北地方と九州地方を選んで、塩を消費する量と高血圧・死亡率について調査をし『高血圧の発症は塩の摂りすぎが原因である』と結論づけたことから始まっています。

  このときの調査では、鹿児島県の塩分の平均摂取量は14グラム、青森県は28グラムでした。高血圧の発症率は鹿児島県が20%、青森県は40%です。」

コメント:有名なダールの疫学調査の結果で塩摂取量と高血圧者との関係が非常に分かり易いグラフとして示されました。ここで記載されていた二ヶ所の日本のデータは北部日本と南部日本です。この図の元になった表では秋田県(北部日本)と広島県(南部日本)と書かれています。

 つまり東北地方が青森県は間違いで、正しくは秋田県です。九州地方は間違いで正しくは南部日本ですが、具体的な地方は鹿児島県ではなく広島県です。また、塩が高血圧発症の原因とは結論づけられていません。原因ではないかと疑い塩仮説を立ててそれを証明しようとラットで実験を行いました。その結果、塩感受性と塩抵抗性のラットがいることを示しました。

 白澤卓二氏は元の論文に基づいて書いたのではなく、何かの論文を参考にしたのでしょう。元の論文が古いとなかなかそれにアクセスできません。ジャーナルであれば比較的簡単にアクセスできるようになってきました。しかし、シンポジウムなどで発表したプロシーディングスにはなかなかアクセスできません。筆者もアクセスできないで、参考にした論文により、九州地方と間違って記載したことがありました。

 国際疫学雑誌(International Journal of Epidemiology)2005年にダールの論文をリプリントして発表してくれたことにより正しい情報を得ることができました。

  国が「食べられない塩」だけにした105ページ

「日本における塩とは、1971年以前では伝統的に伝わってきた方法に則って作られる抽出塩でした。海水を干潟で干したり、塩田を作って天日干しをしたりして自然の力を借りながら海に含まれるミネラル成分をそのまま取り込んだ、栄養素が豊富な塩を作っていたのです。」

コメント1971年以前の伝統的な塩作りは入浜式塩田から1945年頃から省力化された流下式塩田が導入され、1960年頃には入浜式塩田はなくなりました。その頃からイオン交換膜による海水濃縮法が導入され始め1972年には完全にイオン交換膜製塩法に転換されました。流下式塩田時代の商品である食塩とイオン交換膜製塩法になってからの食塩の成分を下図に示しました。この図を見て流下式塩田時代の食塩が栄養素の豊富な塩と言えるでしょうか?このデータは2002年に食品科学工学会誌に発表しておりますが、2009年に東京堂出版から発売された「塩の事典」には同じグラフが1994年の「保健の科学」から引用されております。白澤卓二氏の本は2016年に出版されております。執筆時に事実を確認しないで思い込みだけでフェイクな内容を書いて読者を騙したと言われても言い訳できないことになっております。

製法が変わってから食塩の成分で大きく変わったのは硫酸イオンが大きく下がり、カリウム・イオンが大きく上がったことです。この理由については、硫酸イオンはイオン交換膜を通りにくく、カリウム・イオンは通りやすいからです。製法が変わってから消費者から塩の味がおかしいとのクレームがあり、調べたところカリウムが多いことが分かりました。このことから品質規格でカリウムの含有量を抑えるようにしました。