戻る

本態性高血圧の発症における塩摂取量の可能性のある役割

L.K. Dahl

Intern J Epidemiol 2005;34:967-972

 (この論文は塩摂取量と高血圧発症率を関係付けた有名なダールの疫学調査論文が再掲載されたものである。この論文を読むと、有名な図のデータが如何に不明確なものであったかが良く分かる。この論文について現在の学術レベルで減塩懐疑派の学者減塩推進派の学者が論評しているので、是非読んで頂きたい。)

はじめに

 古くから食べ物に塩を加えているが、比較的最近まで香辛料として塩が広く使われることは一般的ではなかったことは確かなように思われる。現在、塩添加はどこでも行われており、少なくともアメリカ合衆国では料理前や料理中や料理後と同じよう食品加工前や加工中や加工後のいずれの段階でも塩は加えられる。しばしば、これらのいずれの段階でも塩を加えることがある。

 貴重な物として塩の昔の評価は今日でも同じであり、食べ物に塩を加えることは必要であり、便利なことでもあった。それにもかかわらず、20世紀になると食塩摂取量とヒトの高血圧との間に関係がありそうな事実が蓄積されてきた。本報では、我々が1954年以来集めてきた事実を総合してレビューしたい。原報はこの分野における他の人々の経験と関連していると同時に一次データとして考慮されなければならない。これらの研究は、例えば原因物質、発癌性物質、アテローム発生因子として潜在的で致命的な薬剤に対する最近の努力に沿っている。

 

塩の必要性、食塩摂取量、食塩欲求

 これらについての考察は他でも行ってきた。

必要性

 疑いもなく人間にとってある程度の塩は必要であり、成人に要求される通常の一日量の推定値は15 gまでである。ほとんどの所でそのような推定値は同意されており、尿中に排泄される塩の量は代謝収支を維持するために必要とされる摂取量と同じである。そのような意見と反対に多くの注意深い代謝研究があり、正常な腎機能の人々では塩収支は1日当たり1 g以下の食塩摂取量で容易に十分維持されることが明確に示されている。我々のグループは3-12ヶ月の期間で100-375 mgの範囲にある多くの人々を調査した。約2-5年間の期間、絶えず250-375 mg NaClに摂取量を制限されてきた3人を報告した。我々は最近、わずか10-12 mgの食塩摂取量で容易に塩収支を維持している17歳の少女を数ヶ月間調査した。我々はそのような低い摂取量が必要であり、望ましいかどうかを説明していないが、通常の環境下では身体の適応機構が塩を保持するのに非常に効果的であるので、1日当たりわずか1-2 gの摂取量でも、成長期も含めて代謝に必要な量を十分に満たしている。

摂取量

 数え切れない世代で食べ物に塩を加えないでも元気な人々がおり、自然に存在する塩だけを食べている。そのようなグループにはエスキモー、北西アメリカ・インディアンのいくつかの部族、アフリカのマサイ族がある。そのようなグループの食事を分析したり、通常彼等が自然に食べている食べ物の中の一定の食塩含有量に基づいた最高の推定値では、1日当たり最高5 g以下の摂取量であり、しばしば1 g以下の場合もある。飲料水が高塩分である地域を除けば、既知の食べ物中のナトリウム含有量の分析に基づく計算値は、食べ物に塩を加えないと食塩摂取量は1日当たり4-5 gを超えることは希であることを示す。

 塩消費量の推定値と比較して実際の測定量は全ての社会でほとんどなく、他の社会よりも西欧でも少ない。24時間尿中ナトリウム排泄量の測定は最少食塩摂取量の信頼できる指標である。汗に出る量が多い時を除いて、通常の人々ではそれは正確な食塩摂取量の指標でもある。近代的な食事中にはどこにでも入っていることから、私の考えではこの技術の誤りは他の方法の誤りよりも少ない。塩消費量を評価するこの方法には2つの批判がある。1.総合的に考えて避けられない損失と同様に皮膚からの損失は被験者の食塩摂取量を少なく推定する原因となる。2.塩消費量は日々大きく変わり、1回または何回かの連続24時間収集でも人々の平均摂取量の正確な指標にはならない。これらの批判は、最高消費量を測定するときには適応されるが、最低消費量を調べるときには適応されない。

 同様の問題が脂肪、たばこ、アルコールのような一般的な項目について個人の正確な消費量を推定するときにも存在するが、個人または国民に適用すると、過剰は良く認識されている。このことは塩に対しても適応されると思う。一回の24時間尿試料収集は不正確であるが、世界の異なった5か所の人々で最近の10年間におよぶ私の経験では、この方法は個人と同様グループでも平均食塩摂取量の優れた指標である。それは日本における塩購入量でチェックされた。日本では塩は専売制で、日本で実際の24-48時間食事収集で調べ、アメリカ合衆国では、太平洋マーシャル群島の土着民や、アラスカのエスキモーでは食べている自然の食べ物の中に含まれている食塩含有量を調べた。

 そのような方法を使用することで、同僚と私は、エスキモーが1日当たり平均4 g以下の食塩摂取量であり、マーシャル群島では約7 g、アメリカの白人男性では約10 g、南部日本の農民と労働者では約14 gであった。北部日本の農民は、日本の友人で研究者の千葉大学福田博士によると平均26.3 gであることがわかった。エスキモー、マーシャル人、アメリカ人(南部黒人を含む)に関する調査は現在進行中であり、定期的に報告される。

 食塩摂取量が異なった人々で非常に幅広く変動していることをこれらのグループの平均値は示している。しかし、そのような社会の全ての人々が同量の塩を消費していることを意味していると解釈されれば、これらの数値は誤解を生むこととなる。塩が容易に利用できれば、個人の塩消費量には幅広い変動があることを我々は観察しているからである。平均アルコール消費量に基づくデータが禁酒家や慢性アルコール中毒者のいずれをも示していないように、平均塩消費量は、我々が調査した社会の個別の人々の中で、ある人々は習慣的にほとんど塩を食べない一方で他の人々は塩を沢山食べることを示していないからである。

 表1は現在までに集めたデータを要約している。いくつかの社会における値の変動幅は平均値の変動幅と同様に有益である。代謝的な必要量を前に推定した値とこれらのデータを比較すると、いくつかの社会では必要量以上に過剰な摂取量を示している。この不一致の重要性は本報の論旨の基本である。

 

表1 1日当たりの平均食塩摂取量

 

 

 

塩摂取量

高血圧発症率

グループ

性別

平均値

範囲

(140/90 mmHg以上)

 

 

 

( g/d )

( g/d )

(%)

アラスカのエスキモー

1958, 1960

男女

4

1 - 10

0

マーシャル諸島 (太平洋)

1958

男女

7

1.5 - 13

6.9

アメリカ合衆国 (ブルックヘブン)

1954 - 1956

10

4 - 24

8.6

日本

 

 

 

 

 

  広島 (日本南部)

1958

14

4 - 29

21

  秋田 (日本北部)

1954

男女

26

5 - 55

39

 

 1日当たりわずか2,3グラムの食塩摂取量の平均的な差が重要であるかどうか、しばしば尋ねられる。これに関して、‘1日当たりのグラム’は量に反して率として定義されていることを忘れないことが重要である。うさぎと亀の寓話に示されているように、長い期間に渡って比較的小さな率の差が最終結果では大きな不一致をもたらす。発表のために用意されている現在のいくつかのデータから、我々のグループは、ヒトにおけるナトリウムの生物学的半減期は食塩摂取量の明確な関数であるというNa22のターンオーバー調査で明らかにした。2と5グラム、または5と10グラムの間ではターンオーバー率に2倍以上の差があり、2と10グラムの効果の間では5倍の差、2と30グラムとの間では10倍の差がある。そのような著しい差があっても生理学的に無関係であるという論旨は擁護できないようにみえる。

塩欲求

 食塩摂取量に関係しているように、塩欲求の役割を詳細に考察することは本論文の範囲外である。読者は誰でも個人的に証明できるように、明らかに塩欲求は存在する。塩欲求が先天的か後天的かが問題である。動物の間では塩を舐めるために長い旅をすることはよく知られているが、肉食動物よりも草食動物がそうするという事実はあまり知られていない。肉食動物の餌で5:1のK/Na比と比較して草食動物では約201の高いK/Na比が重要であるかどうかについては分からない。

 食塩摂取量が数ヶ月間、数年間劇的に減らされた被験者で我々は塩渇望の事実を見たことがない。ステファンソンとホルンベルグの報告は、原始的なエスキモーやボリビア・インディアンが最初塩を好まないが、成長するにつれて急速に好むようになることを示した。私の家族内では、子供達は塩を加えないで育てられたが、好きな友達から影響を受けるまでは塩欲求を示さなかった。さらに、生まれつき塩欲求があれば、驚くほど容易に変えられることは明らかに思える。1日当たり100-250 mgNaClを含んでいる食事をしている両親では、毎日の摂取量に0.5-1 gといったわずかな添加量でも‘塩辛い’というコメントが出るが、やがて慣れてしまう。厳密な比較では、1日当たり10-20 gの被験者では、5-10 gの追加は気付かれなかった。したがって、塩欲求は生まれつきよりも後で獲得されるらしい。これは基本的なことで、食塩摂取量は塩要求量とは関係ないことが分かっているので、塩欲求は要求量とも関係ないように現在では考えられている。

 

食塩摂取量が高血圧と関係しているらしい事実

A) 実験的な高血圧

 実験的な高血圧のいくつかの形で、いずれも過剰の食塩摂取量が必要であるように見える。グロルマンと彼の同僚達は、塩が加えられれば各種のステロールが昇圧作用を示すことを最初に示した。特別な塩を加えて高血圧を発症させる上で酢酸デゾキシコルチコステロンの効果は良く知られている。唯一の液体源として当張塩水で液体を制限して加えた塩はニワトリ、ラット、ウサギで高血圧を発症させるのに使われた。最終的にメニーリと彼の共同研究者達は、慢性的な過剰の塩化ナトリウム摂取だけで形態的にヒトの高血圧と似ている高血圧をラットで発症させられることを示した。数年間我々の実験室でも同じ方法を使い続けて、慢性的な塩給餌が高血圧を発症させる可能性を確認した。メニーリの仕事で確認できないことは長期間の慢性的な実験を保証できないことに原因があると思っている。前の実験がいろいろな実験的高血圧を急速に発症させた研究者達に対して、慢性的な塩給餌は無視できないように思えた。それにもかかわらず、個人的な経験から、結局、ほとんどのラットで過剰の塩を慢性的に与えることが高血圧を発症させることを無条件に述べたい。その引き金は 

以下省略

 

B) ヒトの高血圧

 されヒトに移ろう。ここで減塩は高血圧症に対する治療法の一部として長い間使われてきた。初期の研究の多くは塩化物とナトリウムを分離できないか、塩化物に対する結果を率直に述べるかのいずれかであった。1945年にグロルマンと彼の同僚はナトリウム制限が重要であることを明らかにした。この考えは今日でも広く受け入れられ使われている。

 高血圧で減塩の有用性を確立した多くの注意深くコントロールされた代謝研究があるが、この事実が広く受け入れられるようになったのは、クロロサイアザイドのような効果的で比較的毒性の少ない利尿剤が最近開発されてからのことである。ここでもまた食塩摂取は応答を緩和するように見える。高塩分食はクロロサイアザイドに対する血圧降下応答を制限あるいは阻止さえするように思われる。

 初期の報告よりももっと広範囲になった我々の経験では、減塩に対して応答する個人の食事に塩を加えることは血圧上昇を起こす結果となる。さらに、短期間正常血圧者の食事に塩を加えることは著しい血圧上昇を起こす結果となることを示す2,3の報告を見つけた。塩がある時に糖尿病の子供は急速に高血圧になることをマッカリーは報告し、マクドナフとウィルヘルムは正常な若い成人男性で同じ様な観察をした。

 短期間の塩給餌で血圧上昇を観察できないことは私にとって2つの理由から驚くことではない。1.過剰の食塩摂取量がヒト高血圧の原因の主たる役割を果たすことが認められるとすれば、当時、40年前に少数の本態性高血圧症は、多分、生まれてから成人になるまでの長い間に塩の効果が効いているに違いない。メニーリのグループの経験と同様に我々自身の経験は、比較的若い動物で影響を受けやすく、重要な疾患の発症は通常、動物の予測寿命の1/3以上で起こる。2.個体群の一生を通して塩給餌が続けられても、ラットの約20%は正常血圧者のままである。スプレイグーダウエイ・ラットのような比較的近交系の種によって示される塩給餌に対する応答の変化は混交したヒトの祖先を持つ動物ではずっと高い度合いで起こるに違いない。塩に対する感受性は元の種に依存して孤立した異種集団間の繁殖で生じる可能性を推測することに興味をそそられる。

 本論文の最初で、飲料水が高塩分濃度でなければ、1日当たり4-5 gNaCl以上の平均摂取量は人工的に塩を加えた食べ物からでない限り起こりえない。通常はそれより少なく、特に菜食主義者ではそうであることを思い出して欲しい。食べ物に塩を加えなかったグループでは高血圧は見られなかったので、塩を加えたグループで高血圧は生じ、塩消費量が多いほど、高血圧発症率は高くなると我々は考えた。これはメニーリ等のデータと同じように我々の実験動物データと一致した。本報告の残りは、この仮説をテストする研究をすることに努める。

 予備的な疫学調査で、この仮説が正式な研究に時間と費用を掛けて良いかどうかを判断するために、平均食塩摂取量を見積もる方法を考えた。我々の環境では、塩振り出し器はどこでもある。したがって、食卓で個人が使う塩からいくつかの推論ができる。我々は次のように3分割した。1.低摂取量-食べ物に塩をまったく加えない。2.平均摂取量-味を見たときに、塩が少なくて美味しくない時だけ食べ物に塩を加える。3.高摂取量-塩辛さを味見しないで、習性的に食べ物に塩を掛ける。

 その後、そのような分類には欠点があることを気づいた。1.定性的であり、定量的ではない。2.食卓で塩を加える程度が分からない。3.個人間または同じ個人でも時間の違いによっての塩辛さに対する感受性の差について何の容易もされていない。これら全ての条件にもかかわらず、予備技術は我々の手では有益な方法であることが分かった。それにもかかわらず、その後、現在でも一般的に応用できる技術であると言う示唆はなく、社会の塩摂取習慣に明らかに依存している。塩を加える習慣は、最初に研究が行われた北部と小さな田舎の社会で現在研究中のアメリカ合衆国の南部ではかなり違っているようである。塩消費量が多い日本では食卓に出される前に、元々食べ物やソースに塩が加えられたりしており、この技術は間違いを起こした。

 我々が塩振り出し器に関心を持っていると解釈されたのは不運であった。反対に、その給源が何であろうと、どのようにして食べられようと、我々が関心を持っていたことは基本的に実際の塩消費量であった。

 先行的な技術で我々は塩消費量と高血圧との関係を示唆する情報を得た。完成させるには、この分野を研究する上で一層の費用と努力が必要であることを示した。1953-1956年の間にブルックヘブン研究所のロバートA.ラブ博士は上記の分類に従って習慣的な塩添加に対して肉体的な試験を行った全ての雇用者に質問した。これらの3グループ間で高血圧発症率はランダム分布しておりかなり異なっていた(p<0.001)。生涯を通して低摂取量と分類された人々は有意に低い高血圧を示し(p<0.1)、高摂取量と分類された人々は時々摂取する人々よりも有意に高い高血圧率を示した(p<0.02)。6-38日間24時間尿収集に同意した28人の男性で食塩摂取量を推定するこの方法の信頼性を調査して、‘低’と分類された人々の平均値は‘高’と分類された人々よりも有意に低いことが分かった。さらに重要なことに、非高血圧者は高血圧者よりも有意に少ない塩(p<0.01)を食べていると思われた。この比較的若い男性グループ(40.3±10.6)で、‘低’の範疇にあると分類された非高血圧者でさえも1日当たり約9からその半分の平均摂取量であった。そのような摂取量に基づいて、これらの男性のある者は人生の後半で高血圧になると私は推定した。

 これらのデータは高血圧を発症させる可能性のあるグループであることを示している。与えられた量の塩を食べている人々はグループとして同じ可能性を持っていると推測することは一番間違っているであろう。明らかに原則として個々人は特別なグループを定義する分布のタイプにしたがうグループよりも高いか低いかのいずれかの可能性を持っている。

 高血圧の発症が変動しているグループの中で実際の食塩摂取量を調査したこれらの結果によって我々は励まされた。表1の拡張として図1と共にこれらのデータを表2に簡単に要約した。これらのデータは、平均食塩摂取量が高い時には高血圧発症が高い動物データと一致していた。これらのデータを入手できるようになった他の地域のデータと比較すると面白い。調査された少数のエスキモーは明らかに現在調査中の数を拡大することを要求している。しかし、本当に昔からの食事をしていて食べ物に塩を加えない人々の間では高血圧が一般的ではないか稀であることをエスキモーの経験は示唆している。

 

 

 

 

 

図1 異なった地域と異なった人種の高血圧発症率と1日当たり平均食塩摂取量(NaCl)との関係

 

表2 5か所の地域の高血圧発症率と食塩摂取量(尿中ナトリウム排泄量で測定)

表2 5ヶ所の地域の高血圧発症率と塩摂取量(尿中ナトリウム排泄量で測定)

 

 

 

 

 

塩摂取量

高血圧発症率

グループ

性別

人数

年齢

平均値

範囲

(140/90 mmHg以上)

 

 

 

 

(平均)

( g/d )

( g/d )

(%)

アラスカのエスキモー

1958, 1960

男女

20

38

4

1 - 10

0

マーシャル諸島 (太平洋)

1958

男女

231

41

7

1.5 - 13

6.9

アメリカ合衆国 (ブルックヘブン)

1954 - 1956

1124

36

10

4 - 24

8.6

日本

 

 

 

 

 

 

  広島 (日本南部)

1958

456

43

14

4 - 29

21

  秋田 (日本北部)

1954

男女

5301

45

26

5 - 55

39

収縮期血圧と拡張期血圧は別々に報告された。この数値(39)90 mmHg以上の拡張期血圧に基づく

 

スコット等の最近の報告は、高血圧がアメリカ合衆国の男性と同じ発症していたことが分かっているエスキモーに関する初期の報告と対照的である。この報告は現在の研究に対して適切であるようだ。これらのエスキモーはもはや原始的ではない。彼等はアラスカ州兵になって十分に文明化されてきたからである。しかし、彼等の食塩摂取量に関しての詳細は分からない。

 日本では、高血圧は一般的な疾患である。食塩摂取量の平均値は高く、興味深いことに、北から南に向かって減っていることである。これと関連して、高血圧発症率と心臓血管疾患発症率は北から南に向かって減っている。図2で、日本の平均食塩摂取量と脳出血死亡率に関する既知のデータを要約した。1951年から高血圧の心臓血管疾患合併症は日本では主要な死因となっており、20世紀ではその国で主要な死因の一つである。

図2 日本各地の脳出血死亡率(30-59歳の男子100,000人当たり)の分布。4地域の農夫の1日当たり平均食塩摂取量を原報に加えた。Takahashiら、Human Biol. (U.S.A.) 29, 139 (1957.)から追加分を採録

 

 塩以外の要因は何であろうか?本シンポジウムの優秀な方々は、この議論から他の可能性のある要因が省略されていることに気付いているであろう。いくつかの中で我々にとって最も興味のある物は塩と感受性のある組織との相互作用、すなわち遺伝と環境との相互作用がありそうなことである。この例で環境因子は食塩摂取量として表される。

 遺伝因子がヒトの高血圧で関連していることを示す多くの事実がある。これは近代の著者の中でベチャード、プラット、ソベイ、シュローダー、ピカリングによってよくレビューされてきた。初期の発表では、遺伝的な感受性として重要な疾患としてリューマチ熱を挙げてこの可能性を考察したが、付随したストレプトコッカス感染がその疾患の発症には必要であった。わずか2,3しか引用されていないが多くの同様な事例がある。ブタクサに曝された後、花粉症になる家族の例はこのアレルゲンに対して遺伝的な感受性を示唆しているが、ブタクサ花粉がなければ花粉症は起こらない。パーキンソン様の症状はマンガン埃を吸い込む鉱夫で見られるが、特別な化学薬剤にもかかわらず、それを与えられた個人の病気は、同様に曝された一般集団よりも比較的容易にその後発症するロディアーを示す。さらに、クロルプロマジンで慢性的に治療された個人の約7-10%で悪性の合併症を発症させるパーキンソン症に対する感受性は個人の家族で‘自然に’発症するパーキンソン症の発症と最近関係付けられた。

 これらの考察から、食塩摂取量が高血圧発症に関係しているかも知れない致命的な投薬の概念を我々は評価しなければならない。毒性または感染性薬剤のLD50投与量は、生物学的な応答が高度に近親交配された生物内でも一定していないと言う確立された事実を前提条件としている。抗生物質に対する細菌やDDTに対する蚊の同じ種について応答が異なることを引用できる。明らかに応答の大きな変動は、ヒトで通常の強制的な異系交配の条件下で1人の個人で起こる可能性がある。最も悪性な流行病下でも、ある人々は被害を受けないで生き残る。1日当たり2箱以上のたばこを吸う多くの人々は気管支腫瘍を発症させないで老齢まで生きのびる。同じことが慢性的な過剰の食塩摂取量にも適用されると我々はあえて言う。私見では、ほとんどの人々で慢性的な過剰の食塩摂取量で高血圧を発症させられないことは、病原となる薬剤に慢性的に曝されることが必須条件として確立されている他の通常の疾患を発症させている個人でも発症されないことと比較できる。塩が関係していないことを意味しているのではなく、むしろ塩だけが関係していないことを意味していない。

 

要約

 我々がこれまでに言ってきたことを我々は繰り返したい。低食塩食(多分、1日当たり5 g NaCl以下)を食べている社会やグループでは、本態性高血圧症は一般的でない。高食塩食(1日当たり10-15 g)を食べている社会やグループでは本態性高血圧症は一般的である。個人の感受性は、グループの個人が疾患を発症させることで決定される。