たばこ産業 塩専売版  1990.09.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

インターソルト・スタディの結果から

(1)文明社会では食塩摂取量と高血圧発症率は関係なし

 インターソルト・スタディとは32ヶ国、52センター、10,079人を対象者として国際的に行われた食塩摂取量と血圧に関する疫学調査研究である。食塩摂取量と高血圧発症率に関してはダールの疫学調査を始めとして多くの調査研究があるが、調査方法、条件設定、交絡因子の取り扱い等がまちまちであり、結果を比較整理できなかったり、比較検討しても混乱するばかりで無意味なことが多かった。そこでこのようなことを避けるために、組織的、系統的、大々的に行うこととして手順書を作り標準化された方法で、また調査員の訓練により技術水準も揃え、交絡因子も考慮して各種因子と血圧との関係を明確にすることを目的としてインターソルト・スタディが行われた。
 具体的には各センターとも2059歳までの男女200人以上を性別、年齢層から無作為に選び、血圧測定、採尿、問診等により調査を行った。10,648人の対象者からの報告書を調査し、尿採取、報告書式、血圧測定に問題があったものを除き、10.079(5,045人、女5,034四人)のデータで解析が行われた。交絡因子としてはカリウム排泄量、N/K比、体格指数、アルコール摂取量を考慮している。
 食塩排推量(食塩摂取量とほぼ同じ)と高血圧有病率との関係はのような結果となった。この図を見て食塩摂取量と高血圧有病率との間には相関関係があると思えるであろうか。関係ないと言わざるをえない。特に低塩食の食生活を行っている未開社会の4, 5, 24, 28番の集団を除くと、全く関係がなくなってしまう。

インターソルト・スタディにおける食塩排泄量と高血圧有病率との関係
      図 インターソルト・スタディにおける食塩排泄量と高血圧有病率
      田中平三、「医学の歩み」 Vol. 153, No.13, 748 (1990)

 この図から明確に言えることは、文明社会では食塩の摂取量に関係なく1015%の高血圧患者がいるということである。
 高血圧症は収縮期血圧と拡張期血圧の値で定義されるが、インターソルト・スタディの調査でそれらの値とナトリウム排泄量との相関係数を性別、年齢別に計算するとのようになった。ここでABと区分されているが、Aは全集団、B塩食生活集団を除いた場合で、図でも明らかであるように表でもBの場合をみると相関係数が有意であるのは二点だけで、それも負の相関である(ナトリウム摂取量が多いほど血圧は下がるというこ)。他は有意な相関はまったくない。

表 24時間尿中ナトリウム排泄量の中央値と血圧の中央値との相関係数
20〜29歳 30〜39歳 40〜49歳 50〜59歳 全年齢 (20〜59歳)
男性 収縮期血圧 A 0.2892* 0.3675** 0.4579** 0.5718** 0.5037**
B -0.0546 -0.1122 0.0182 0.2362 0.0250
拡張期血圧 A 0.0298 0.2212 0.4919** 0.5184** 0.3753**
B -0.2427 -0.2234 -0.0426 -0.0071 -0.1685
女性 収縮期血圧 A 0.2389 0.3135* 0.4330 0.5247** 0.4776**
B -0.1294 -0.1941 -0.1007 -0.0321 -0.1365
拡張期血圧 A 0.1549 0.0285 0.3439* 0.5362** 0.3419*
B -0.1960 -0.3448 -0.2504 -0.1780 -0.3111
A:全集団(n=52)、B:“伝統社会”除外(n=48)、*:p<0.05、**:p<0.01
田中平三、「医学の歩み」 Vol.153 No.13 748 (1990)

 このようなことが分かってきたので、最近ではアメリカ、ヨーロッパで食塩の摂取量を一般的に規制するのは行きすぎであるという意見が出始めている。
(図表は田中平三、医学のあゆみ Vo1.153, No.13, 748 (1990)より引用)