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たばこ塩産業 塩事業版  2014.1.22

塩・話・解・題 106 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

アメリカ人の減塩への意識

大半が関心示さず摂取量変化乏しく

 

 アメリカでは減塩運動が行われてきたにもかかわらず50年間も塩摂取量は変わっていないと言われている。このような状況から、国際食品情報会議は2011年に塩摂取量に関する消費者の意識を調査した。アメリカの消費者は塩摂取量についてどのように関心を持ち、認識し、行動しているかを理解し、時間をかけて塩摂取量を変化させる可能性があるかどうかを判断することが目的であった。報告書から要点を紹介する。

 

米国 多すぎる塩摂取量 指針定め減塩促す

 アメリカでは1969年の栄養と健康に関するホワイトハウス会議で塩摂取量と高血圧との関係が注目され、減塩政策が始まった。

1972年には消費者に対して減塩するように教育し始めた。ほとんどのアメリカ人は多すぎる塩摂取量を避けるべきであるとしてアメリカ農務省(USDA)と保健福祉省(HHS)が共同で1980年に「アメリカ人の食事ガイドライン」を定めた。

以後、5年毎に改訂されて、現在は2010年版で栄養指導している。(日本でも1980年から食事摂取基準は定められて5年毎に改訂されており、2005年からは「日本人の食事摂取基準」と変更されて、現在は2010年版が用いられている。)

 当初、5年毎の改訂では加工食品業界に製品中の塩を減らすように要請し、1990年までに20%減らす具体的な目標値を設定したが、ガイドラインでは具体的な摂取目標値を設定せず、商品を購入する際に表示への注意を促すだけであった。2005年版で初めて5.8 g/d以下の塩摂取目標値を、また高血圧者、黒人、中高年者には3.8 g/d以下を設定した。

 

消費者対象に意識調査 塩摂取量への考え探る

 減塩政策で様々な施策を行ってきたが、その効果が現れず、塩摂取量が変わらないので、消費者が塩摂取量に対してどのように考え行動しているかを理解し、時間をかけて減塩をさせられるかどうかの可能性を探るために全国で1003人について意識調査を行った。以下、いくつかの項目についての結果を述べる。

 

「関心ある」のは4割程度

 アメリカ人は塩摂取量についてあまり真剣には考えていない。表1に示すように関心度は低く、関心を持っている人は40%程度。2年間の期間を置いての結果でもあまり変化がない。高血圧者と肥満者は一般的にわずかに高い関心を持っている。表2に示すように健康的な食事に寄与する3つの重要な因子と思っている中でカロリー摂取量や砂糖摂取量には高い関心を示すが、塩摂取量については第三階層でしか認識されていない。塩摂取量に対する認識は低く、1日当たりの塩摂取量について尋ねてもほとんどの人は知らない。表3に示すように健康な人々にとって5.8 g/dという適正な塩摂取量を知っている人は8%しかおらず、知らない人が46%もおり、知っていると答えた人でももっと低い値と思っている人が多い。

表1 塩摂取量の関心度 (%)
2009年 n=1005 2011年 n=1003
非常に関心が強い 11 9
多少関心がある 30 33
あまり関心がない 18 18
関心がない 23 23
まったく関心がない 19 18

 

表2 健康に良い食事と思う項目 (%) 2011年調査
第一階層 果物・野菜の増加 70
第二階層 砂糖の制限 48
食物繊維の増加 47
飽和脂肪酸の制限 46
カロリーの監視 45
第三階層 トランス脂肪の制限 39
塩の制限 38
コレステロールの制限 38
第四階層 ビタミン・ミネラルの増加 32
炭水化物の制限 30
タンパク質の増加 27
脂肪の少ない肉を含める 26
人工材料の制限 23
不飽和脂肪酸の増加 20
アルコールの制限 19
人工甘味料の制限 16
低脂肪乳製品を含める 13
カフェインの制限 12
カルシウムの増加 11


表3 健常人の推奨塩摂取量
塩摂取量 認識率 (%)
約7.6 g 1
約5.8 g 8
約3.8 g 22
約2.5 g 23
知らない 46


「低塩」の表示をほぼ無視

 カロリー摂取量や砂糖摂取量を減らしたいと気にしているアメリカの消費者は商品購入時に食品表示を見て、何に関心を持って購入するかを表4に表している。関心を持って見る項目は低カロリー、低脂肪、低糖分で50%以上を占め、低塩には10%強しか関心を持っておらず、ほとんど無視されている。

表4 アメリカ人が食品表示で関心を持つ項目
2009年 (%) 2011年 (%)
低カロリー 19 20
低脂肪 19 19
低糖分 14 15
低塩 13 14
低コレステロール 12 11
その他 3 3
上記のどれでもない 20 18

 減塩表示されている食品や飲料水に対して肯定的に受け入れるかどうかの問いかけに対しては表5に示す結果となり、半数近くが肯定的に考えている。

表5 減塩表示製品を肯定的に考えるか? (%)
2009年 2011年
まったく考えない 5 4
あまり考えない 10 10
わからない 37 36
少しは考える 37 38
積極的に考える 11 11

 低塩食品に満足度少なく

 低塩食品の美味しさに対する感想は表6に示すように40%の人が美味しくないと思っている。まったく美味しくないと思っているのは75歳以上の老人が一番多く、年齢が若くなるにつれてそう思っている比率は減少している。

表6 低塩食品は美味しくないと思うか? (%)
2009年 2011年
非常に美味しい 9 12
少し美味しい 21 18
どちらでもない 31 32
少し美味しくない 31 29
まったく美味しくない 8 10

逆に非常に美味しいと思っているのは例外的に75歳以上では非常に少なく、74歳以下18歳までの年齢では10から15%の人々が美味しいと思っている。

 食事で減塩するとすれば塩嗜好を変えるかについての質問では、表7に示すように約60%の人が変えると答えている。変えると答えた人の割合は年齢層が高くなるにつれて大きくなる傾向にあるが、75歳以上になると急に小さくなる。

表7 塩嗜好を変えるか? (%)
2009年 2011年
まったく変えない 5 5
あまり変えない 10 10
わからない 24 26
多少変える 38 36
大いに変える 23 24

 

従来路線に変わる推奨摂取量作物を

 これまで述べてきたように減塩に対する関心は低く、減塩政策の効果が表れて来なかった様子が様々な結果で明確に読み取れるが、問題はこの調査で目的とした時間をかけて減塩できる行動が取れる可能性があるかどうかだ。

それには表8に示すうように現在の行動がどのようになっているかで判断できる。減塩に対して関心はあるが、まだ始めていない人は若年層に多く25%程度を占めており、年齢が高くなるほど比率は下がっていく傾向を示している。

表8 塩摂取量に対する現在の行動 (%) 2011年調査
年             齢 全体
18-24 25-34 35-44 45-54 55-64 65-74 75歳以上
被験者数 137 184 196 200 154 90 42 1003
減塩していない 29 26 31 18 13 33 16 24
減塩に関心ない 15 10 13 13 8 10 6 11
減塩に関心あるがまだ始めていない 24 26 22 16 14 7 13 18
減塩したことあるが今はしていない 7 6 5 4 1 1 2 4
現在、減塩を試みている 24 32 30 50 63 49 63 42

これとは反対に現在、減塩を試みている人は若年層で30%程度であり、高齢になるにつれて比率は上昇していく傾向を示しており、75歳以上では63%にもなっている。

しかし、全体数で見ると減塩を試みている人は40%強と少なく、減塩をせずに関心もない比率が合わせて35%もあり、関心があっても始めてない人と減塩の試みで挫折した人を合わせると22%ある。

つまり大半が減塩行動を起こす兆しが見られないので、これまでの減塩政策を推進する路線では減塩効果が現れることは期待できない。何らかの新たな施策を考える必要があろう。