8.疫学調査

 疫学調査は疾患の病因を仮定するために使われる。食塩摂取量と高血圧との関係もダールの疫学調査で食塩摂取量と高血圧発症率との関係は見事な相関関係を示す直線で表された。当時、採用されたデータは条件が同一でなはなく信頼性はなかったが、ダールは高血圧の発症は食塩摂取量が原因ではないかと仮定して、つまり食塩仮説を立ててラットに食塩を負荷する介入試験を行って仮説を証明しようとした。仮説は証明されなかったが、食塩感受性食塩抵抗性といった新たな事実が発見され、以後、食塩と高血圧との関係に関する研究が盛んに行われるようになった。

多くの疫学調査があるが、通常、方法論が厳密でないので結果に信憑性がない。そこで、食塩摂取量が高血圧の原因であることを裏付けようと、厳密な方法論に基づいて国際的に広範囲で大規模な疫学調査であるインターソルト・スタディが行われた。調査拠点は52ヶ所で、その内3ヶ所は日本である。結果は文明社会では食塩摂取量と関係なく減塩効果も推定しているが、後にその方法について異論が出た。この結果を受けてアメリカではWashingtonianという雑誌で食塩仮説は崩れ、減塩は行き過ぎとの意見を紹介している。インターソルト・スタディの研究者達はデータを再整理して食塩摂取量との関係が大きいと発表したので、食塩摂取量との関係を巡る論争で減塩推進について紛糾した。

筆者は1992年に第7回国際塩シンポジウムが開催されたとき、日本の厚生労働省が発表している各種統計調査のデータを組み合わせて食塩摂取量と高血圧、脳卒中、心疾患との関係を整理したところ、食塩摂取量とは関係ないことを発表した。また、減塩で高血圧や脳血管疾患による死亡率は変化しないことも分かった。その5年後に食塩摂取量と疾患死亡率および受療率との関係を疾患別年齢調整死亡率脳卒中による年齢別死亡率疾患別受療率脳血管疾患死亡率の内訳について整理し、食塩摂取量と胃癌平均寿命との関係についても整理してみた。また、食塩摂取量と脳血管疾患患者数および脳血管疾患との関係についても整理したが関係なかった。さらに2008年に直近の食塩摂取量と疾患死亡率および受療率との関係を整理したが、高血圧、脳血管疾患、心疾患、胃癌のいずれとも関係なかった。結果の再現性は良いので確度は高いと思われ、その後のデータについてもフォローしたいと思っているが、どうしたことか例えば、食塩摂取量については県別の詳細なデータは発表されなくなった。