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たばこ塩産業 塩事業版  2008.1.20

塩・話・解・題 34 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

直近の疾患死亡率・受療率データを整理

「高血圧」や「胃癌」−食塩摂取量との関係は希薄

 食塩摂取量が高血圧や胃癌の原因になるように言われて減塩が勧められているが、疫学調査からそのような結果になるのかどうか疑問に思っていたことから、食塩摂取量と疾患死亡率や受療率について10数年昔に整理して第7回国際塩シンポジウムで発表したことがある。その結果は脳血管疾患による死亡率については関係があったが、受療率については関係なかった。その後データが蓄積されてきたので、最近の状況について整理した結果を紹介する。

「食塩摂取量調査」データ
急速な低下傾向から一転上昇
何故かない「05年個別データ」

 毎年発表される食塩摂取量については2005年までのデータがある。全国の300地区、5000世帯、約15,000人の抜取り調査結果であり、通常、11月には結果を整理した出版物が発行されるが、2005年については何故か概要だけの発表で全国のデータしかなく、個別の12地域データは発表されていないので、2005年についてはデータ整理ができないところがある。しかし、全国レベルの結果は図1に示すようにこのところの急速な低下から反転して4年前の水準にまで上昇して戻ってしまった。

            食塩摂取量の変遷

「人口動態特別調査」データ

 毎年の人口動態調査で各疾患死亡率が発表されるが、ここでは5年毎の国勢調査に併せて行われる人口動態特別調査のデータを用いた。その結果は図2に示すようにいずれの疾患死亡率も低下してきている。しかし、疾患死亡率は医師の死亡診断書により死因が決まり、心不全とか急性肺炎と診断されると高血圧とか脳血管疾患による死亡とはならないので不明確な部分がある。

              年齢調整疾患死亡率の推移

「患者調査」データ

全数調査で確度は高い

 受療率は3年毎に行われる患者調査のデータで、どのような疾患で入院あるいは外来で治療しているかの調査であるので疾患名が確定できる。最近の推移は図3に示すようにいずれの疾患も低下傾向にある。
 これらの調査結果は抜取り調査ではなく全数調査であり、非常に確度が高い。
         
         疾患受療率の推移

結果からの考察
各調査年とも関連性≠ネい

 図1と図2のデータから1980年以降について食塩摂取量と疾患死亡率との関係を示すと図4のようになる。この図からは食塩摂取量と図に示す各疾患死亡率との間には関係がないように思われる。

                食塩摂取量と年齢調整疾患死亡率

 図1と図3のデータから1996年以降について食塩摂取量と疾患受療率との関係を示すと図5のようになる。この図からは食塩摂取量の低下に伴って受療率は低下する傾向を示している。ところがこの中で一番関係のありそうな高血圧について、各調査年の食塩摂取量と疾患受療率との関係を示すと図6のようになり、いずれの年も関係のないことが分かる。図に示されてないが胃癌についても同様の結果となり、食塩摂取量とは関係ない。
 これらは疫学調査の結果と考えられ、広範囲な抜取り調査結果と全数調査結果の組合せとなっており、整理した年の結果は同様の傾向を示すので確度は非常に高いと思われる。

           食塩摂取量と疾患受療率
             
                  食塩摂取量と高血圧症受療率
             
食生活や生活様式の違いと深く関わるのでは?

 受療率の変動は食塩摂取量との関係ではなく、地域ごとに特徴のある食生活の違いとそれに伴う栄養摂取量の違いや生活様式に関係しているのではなかろうか。