たばこ産業 塩専売版  1990.11.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

インターソルト・スタディの結果から(2)減塩効果の推定

 インターソルト・スタディの結果は文明社会に関する限り、誰がみても食塩の摂取量と高血圧有病率との間には関係はないことは明白である。しかし、もともと当然関係があるものとして研究に取り組み、大がかりな調査を推進した当事者にとっては関係が不明確で、どちらかといえば都合の悪い結果となったため、食塩摂取量と高血圧をなんとか関係づけて、やはり食塩の取りすぎの状態から減塩することは高血圧に関わる疾患死亡率の低下につながるとして、以下のように研究主催者は報告書に書いている。もちろんこの場合には無塩文化の4集団を含めての話である。
 各人が日常のナトリウム摂取量を1100 mmo1−食塩にして約6グラム減らせば、その集団の平均収縮期血圧は少なくとも2.2 mmHg低下すると思われる(実際問題として、1012グラム/日の食塩摂取量を46グラムにするのは不可能に近い)。この程度のわずかな低下でも死亡率の低下にどの程度貢献するかを他の研究成果と結びつけて推定している。
 それによると、この程度でも収縮期血圧が低下すれば、中年期の心疾患による死亡の危険率は4%、脳卒中による死亡の危険率は6%低下する。もし、日頃の食事でナトリウム含有量を減らすとともに、カリウム含有量を増やし、同時にアルコール摂取量と肥満率を下げれば、集団の平均収縮期血圧は5 mmHg低下し、これによる心疾患の死亡危険率は9%、脳卒中の死亡危険率は14%低下すると推定している。また、さらに生涯にわたってナトリウム摂取量を1100 mmol減らすと、25歳から55歳までの平均収縮期血圧上昇幅は9 mmHg少なくなり、その結果55歳の心疾患による死亡率は16%、脳卒中の死亡危険率は23%低下する、と推定している。
 このように食塩摂取量の問題だけでなく、カリウム、アルコール、肥満といった他の要因も絡めて期待される効果の数字を次第に大きくし、減塩を訴えている。その程度は1日当たり4.5グラム以下、人によっては3グラム以下にしなければ効果がないとしている。この数字は塩分をまったく添加していない加工食品を食べ、まったく食塩を使わないで調理し、食卓でも塩分を含んだ調味料をまったく使わない時にほぼ達成できる値である。
 また、調査結果が予想通りにならず、もっと明確に食塩摂取量と高血圧との関係があるはずであるとして、調査の不備な点を次のようにあげて言訳をしている。第一にインターソルト・スタディは横断的な研究で、現時点のことしかみていない。
 幼児から現在までの食塩摂取状態が重要な役割を果たしている可能性がある。第二に24時間尿採集一回だけのデータでは信頼性がない。同一人でも変動が大きいからである。この点を予測して補正できるように調査に組み込んだが不十分であった。第三に24時間の尿が完全に蓄尿されていない可能性がある。第四に研究に参加した多くの集団では減塩運動が行われている。第五に多くの被験者(特に高齢者)が降圧剤を常用している。
 以上第二から第五までは、いずれも食塩と血圧との関係の強さを弱くするように働いている、というものである。もともとこの研究は食塩仮説論者が用意周到な計画の下に大規模に行ったもので、これにより変動が平均化され、得られる結果は至上のもので食塩仮説の黒白が疫学的に明確になるとして始めたが、予想外の結果が出たため、前述のような言訳をしている。このようなことから食塩仮説論者は追い詰められて、振り上げたこぶしを下ろせないという見方がある。