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たばこ産業 塩専売版  1995.04.25

「塩と健康の科学」シリーズ

(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与

橋本壽夫

その後の食塩摂取量と疾患死亡率および受療率との関係(2)

脳出血による年齢別死亡率

 食塩摂取量の増加に伴って血圧が上昇して高血圧症となり、さらには脳出血により半身不随や死亡に至ると考えられている。食塩摂取量が最高の地区と最低の地区を比較した前回のグラフでは、高血圧症、脳出血ともに近年の調査は食塩摂取量による差がなくなってきていることが表されていたが、今回は全調査地区について食塩摂取量との関係をもう少し詳細にみてみる。

食塩摂取量と年別疾患別年齢調整死亡率の関係
  1980年、1985年、1990年にそれぞれ調査された脳血管疾患と脳出血による年齢調整死亡率について、全国12地区の食塩摂督量との関係を整理して食塩摂取量と年別疾患別死亡率として図1に示した。
食塩摂取量と年齢別疾患死亡率
   図1 食塩摂取量と年別疾患別死亡率

 この図から分かるように、脳血管疾患については、死亡率は年を追うごとに低下しているが、食塩摂取量の増加に伴って死亡率がほぼ同じ勾配で増加していることが分かる。しかし、脳血管疾患死亡率データの一部を構成している脳出血による死亡率は脳血管疾患と同様に年を追うごとに低下しているが、食塩摂取量の増加に伴う死亡率の増加は顕著ではなく一番最近のデータである1990年ではほとんど変化がないことが分かる。つまり、食塩摂取量と脳出血による死亡率との間には相関関係がないことを示している。

5歳刻みの年齢で整理した時の食塩摂取量と脳出血死亡率との関係
 これらの年には年齢を5歳刻みに分けて、各疾患による死亡率のデータが発表されている。その中で脳出血の50歳以上のデータについて食塩摂取量との関係を整理して、食塩摂取量と脳出血死亡率との関係として図2に示した。
食塩摂取量と脳出血死亡率との関係
         図2 食塩摂取量と脳出血死亡率との関係

 この図において、1980年と1985年のデータは昭和35年の人口モデルを基準として死亡率を訂正死亡率という言葉で示されており、1990年のデータは最近の人口に合わせて昭和60年の人口モデルを基準として年齢調整死亡率という言葉で示されている。
 この年には従来の80歳以上のデータを8085歳と85歳以上の二つに分けて発表されている。基準とする人口モデルを変えたことにより、脳出血については訂正死亡率よりも年齢調整死亡率の方が約80%ほど高い数字として表されるようになった。
 この図から分かることは、近年になるほど死亡率は低下し、また高齢になるほど死亡率は当然高くなっている。食塩摂取量との関係でみると、若年層では食塩摂取量の増加に伴って訂正死亡率は増加しているが、最高齢層では死亡率と食塩摂取量との関係がなくなっている。1990年の年齢調整死亡率では、若年層でも死亡率と食塩摂取量との関係はない場合があり、むしろ逆の関係になっている年齢層も見受けられる。高齢層では少し増加する傾向がみられる。
 このように、厚生省の調査データを組み合わせると、食塩摂取量と脳出血による死亡率との関係については、これまで常識的に考えられてきたこととは異なっていることが分かる。