2017.12.01
減塩政策に国民は騙されていないか?
日本では全員が塩摂取量を一律に減らす減塩指導が行われている。減塩政策の妥当性について論評する専門家の学者はおらず、マスメディアは両論併記の立場に立たず、一方的に減塩を勧める情報しか流さない。しかし、海外ではマスメディアに早くから減塩政策に対して疑問を呈する論文が掲載され、減塩には危険性があるとの学術論文が発表されると、専門学術誌で減塩政策の妥当性についての論争が始まり、それらをマスメディアが取り上げ、ジャーナリストも数多くの寄稿をしている。今では専門家は国民に誤った健康指導をしたのではないか?国民は騙されているのではないか?と言った記事まで発表されている。
日本の現状
日本では2015年から向こう5年間に使う「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で塩摂取量を男性で8.0 g/d未満、女子で7.0 g/d未満とし、一律に減塩することを勧めている。これらの値は10 g/d以下であったが30年ぶりに2005年版から男性10.0 g/d未満、女性8.0 g/d未満に下げられ、2010年版ではさらに、それぞれ9.0 g/d未満、7.5 g/d未満に下げられた。
これは毎年行われる国民健康・栄養調査による食塩摂取量調査の結果を見て定められてきた。その塩摂取量の変遷は図1に示す通りで、一時、増加した時もあったが全体的には着実に減ってきている。日本人の性格を示しているようにも見える。アメリカ人は50年間変わっていないとの報告がある。これには後述するように別の理由があるようにも思もう。
年
図1 塩摂取量の変遷
ところで、毎年調査される食塩摂取量の平成24年の県別データと平成25年の平均寿命の県別データとの関係をプロットして男性については図2に、女性については図3に示した。いずれの図も食塩摂取量と平均寿命との間には相関がありそうに見えないが、強いて相関線を引くと男性ではわずかにネガティブな関係、女性では逆にわずかに
ポジティブな関係を示しているが、これくらいでは塩摂取量と平均寿命との間には関係ないと言える。つまり、減塩しても寿命が延びる訳ではない。これまで塩摂取量と高血圧との関係で減塩政策が勧められてきたが、最近、塩摂取量と全ての死因との関係で減塩しなくても現在の塩摂取量が一番低い死亡率であるとの論文が発表された。
塩が高血圧に対して悪者とされる基となった論文のフェイク性
塩が高血圧の原因物質ではないかとの食塩仮説を立て、それをラットで証明する実験をしたダールの動機となった疫学調査の結果が下図である。このようなきれいな相互関係を示すことはあり得ないが、その素になっているデータは下表の通りである。個別データの出典が明確ではなく、調査年、被験者数はバラバラで、被験者の特性もバラバラで、塩摂取量は非常に幅広く変動しているが、その状態は不明である。しかし、その平均値と高血圧者の%を相関させてプロットすると非常にきれいな図になったと言う訳である。
現在の専門学術誌では、データを裏付ける根拠がない、または不十分で掲載を受け付けられないであろう。つまりフェイク論文と言える。しかし、塩が高血圧の原因であると説得するには非常に都合のよい解り易い図であるので、今でもしばしば引用され、騙されてしまう。なお、ダールが立てた仮説は今でも証明されておらず、実験で明らかになったことは、食塩で血圧が上がる塩感受性のラットと、上がらない塩抵抗性のラットがいることであった。これは人でも当てはまることが川崎によって発表された。
減塩に対する血圧応答は図10.4に示すように正規分布を示すことをワインバーガーらは1986年に発表した。つまり、減塩で血圧が下がる塩感受性の人と大体同じ程度に逆に上がる人がいる。塩感受性の人は大体30%程度であり、その人達だけが減塩すれば良い。つまり、大半の人は減塩で血圧は下がらず、逆に上がる人もいる。それなのに、全ての人に一律に減塩を要請することは人を騙していることになる。
減塩には危険性がある
世界には1 g/d程度の塩摂取量で生活している民族がおり、それに比べると10倍以上の摂取量は多すぎることから減塩には危険性がないと考えて、減塩すればするほど良いように考えられてきた。しかし、減塩には危険性があることが発表された。この発表がされる前に、すでに前述したように減塩による血圧応答で血圧が上昇する人にとって減塩は危険であるが、論文が発表された当時、このことは議論されることはなかった。
1995年にオルダーマンが下図に示すように減塩するほど(横軸で右になるほど)、心筋梗塞になる危険率が高くなる結果を発表した。これ以来、減塩政策に対する妥当性が激しく論争されるようになった。
米国の医学研究所は2013年に報告書「集団のナトリウム摂取量:エビデンスの調査」を出した。その中で減塩を支持するエビデンスはなく、あまりにも低い塩摂取量まで減塩することは有害であるかもしれないとした。
減塩政策で国民は騙されている日本
以上、述べてきたように国民全員一律に減塩を勧める保健政策を妥当とする科学的根拠はない。1960年にフェイク論文ともいえるダールの疫学調査で食塩仮説が提案されて以来、減塩効果についての研究論文が多数発表され、その後中で効果がないどころか有害性を示唆する論文まで発表されてきた。このようなことから早くも1982年のTIME誌に「塩:新たな悪者?」が掲載され、1998年のScience誌にジャーナリストのトーブスは記事「(政治的な)塩の科学」で減塩政策には科学的根拠がないことを述べた。海外ではこのような情報を始め減塩論争の記事が流されるためかと思われるが、一番始めに減塩政策が行われて来たにもかかわらず、前述しようにアメリカでは50年間塩摂取量は変わっていない。
一方、日本では減塩政策を疑問視する情報は一切流されないことから、図1で分かるように40年間で4 g/dも減塩が進んできた。減塩する必要もなく、騙されているとも知らず減塩が出来ないことで不安に悩みながらの食生活で、家族間でも減塩に対する認識の程度から意見の相違で悩んでいる人は多いのではなかろうか。
この間の平均寿命を厚生労働省は世界の諸国と比べて下図に示している。50年間塩摂取量が変わらないというアメリカ合衆国でも平均寿命は延びている。寿命が延びる勾配はアメリカ合衆国が一番小さそうであるが、これを50年間塩摂取量が変わらなかったためと言えるであろか?他の諸国でもほぼ同じような勾配で平均寿命は延びていることから塩摂取量は関係なさそうである。
筆者が望むのは日本の医学界、マスメディアに両論併記の公正な情報を提供してもらいたいことである。