たばこ産業 塩専売版  1996.10.25

「塩と健康の科学」シリーズ

(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与

橋本壽夫

食塩摂取について率直に語る

 アメリカ塩生産業界の業界団体である塩協会(Salt Institute)は業界発展のためにいろいろな活動をしている。塩と高血圧の問題は業界に大きな影響を与えることから、先月紹介したように、塩と高血圧に関する疫学調査の結果に疑義ありとして論争の火付け役となっている。このように塩と高血圧の問題についてよく情報を収集しており、それらをまとめて消費者、業界向けに広報活動の一つとして「健全な食生活のために食塩摂取量について率直に語る」と題する小冊子を出している。今回はそれを紹介する。

食品はどうして食塩を含んでいるか?

 食塩は歴史上多くの目的を果たしてきた
 風味強化剤として食品の味を良くし、保存剤として腐敗菌の増殖を抑えて食品の品質を維持する。食塩は肉、チーズ、パンの歯応えを良くし、漬物などの製造で発酵速度の調整剤として使われ、ハムやソーセージで肉片を結着させる働きをする。その結果、食品は自然のままよりも多くの食塩を含むようになる。

食塩の働き

 食塩はナトリウム40%と塩素60%からできており、必須の栄養素で、体の中では製造できない。生きるためには規則正しく摂取する必要がある。ナトリウムは細胞の外にある液の主成分で、栄養素はその液を通って体の細胞に入る。ナトリウムは血圧、体液量、酸・アルカリのバランスを含めて、体内で多くの機能の働きを促進する。
 塩素も必須の元素で、体内の酸・アルカリのバランスを維持し、カリウム吸収を助け、消化液の胃酸となる。

どれぐらい食べているか?

 世界の大部分の集団は1611グラムの食塩を消費している。食塩が容易に手に入らない人里離れた所に住む原始的な人々は非常に低い摂取量である。国立科学アカデミーはアメリカ人に最低1.3グラムの食塩を消費することを勧めている。ほとんどのアメリカ人はこの最低量で問題を起こさないが、体の機能維持のために必要以上に過剰な食塩を食べている。健康な人の腎臓は、この過剰な食塩を効率的に処理し、体外に排泄する。
 アメリカ人は約9グラムの食塩を消費し、男子は多く、女子は少ない。食事ガイドラインは中程度に食塩を食べることを勧めている。健康な人々では、その値は1日当たり511.5グラムの範囲である。高血圧症であれば、医者は摂取量をずっと下げるように勧める。

食塩と健康

 食塩と血圧との関係が注目されたのは今世紀の後半であった。ダールは食塩仮説を唱え、減塩は集団の血圧を下げることにより、脳卒中や心臓発作の危険率を下げるであろう、という仮定に基づいて1980年代初期に減塩運動が始まった。
 幾多の論争が続いた後、仮説の確認のために食塩仮説支持者たちは、大規模で統一された方法で国際的なインターソルト・スタディを行った。その結果については、ナトリウム仮説が崩れたという人と、加齢に伴う血圧上昇に寄与しているという人に意見が分かれた。
 減塩は一部の高血圧者の血圧を下げるが、食塩が高血圧の原因であることを示せなかった。減塩は食塩感受性の人々で高血圧の食事療法として有効であるが、高血圧予防戦略としての減塩効果は証明されていない。食塩感受性といわれる人々は高血圧者の約3分の12分の1である。
 研究者たちは減塩によって効果が得られる人々を明らかにするために、簡単で安く、信頼性のある食塩感受性の試験法を研究中である。
 あなたが高血圧者であり、医者によって食塩感受性であることが確認されれば、食品の栄養表示を読んで低ナトリウムの食品を選択する。1日の食塩摂取量が1.3グラム以上、6グラム以下になるようにする。医者に低塩食を勧められなければ、アメリカ人の食事ガイドラインの勧めに従って、中程度の食塩を摂取する。アメリカ人の平均食塩摂取量は1日推奨摂取量の150%であるので、これは達成できない挑戦のようにみえるが、主治医や公認の栄養士または食事療法士は、どうすればそれを達成できるかを示してくれる。
 健康な人は肥満を避け、アルコール摂取量を制限し、推奨量のカリウム、カルシウム、マグネシウムを摂取することによって、自分の高血圧危険因子を修正することが、今日'常識となっている。
 減塩は一部の高血圧者にとって有効な治療法であるが、一律の減塩は公衆保健政策としては不適当である。

要 約

 これまで食塩摂取量に関する事実を述べてきた。次はあなた自身のことである。少なくとも三回血圧を計り平均値を求める。高血圧であれば、医者または公認栄養士とともに行動する。余分な体重を減らせば、血圧を正常化できる。十分なカリウム、カルシウム、マグネシウムのある食事でバランスをとる。規則正しい運動をする。アルコール飲料を減らすか止める。食塩摂取量について医者や栄養士の指示に従う。食塩感受性であるかどうか調べる。
 高血圧で食塩感受性であれば、この小冊子が低塩食を行うために有用な情報を提供し、減塩の目標を達成するために役立つものと期待している。
 以上が内容の概略である。食塩感受性の高血圧者のために、かなり詳細に日常の食塩摂取量への対応策を述べており、アメリカ人の食事ガイドラインに従うように勧めている。