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たばこ産業 塩専売版  1994.06.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社海水総合研究所所長

橋本壽夫

食塩と高血圧に関する海外の報道(7)

塩についてどれだけ知っていますか?

 塩と健康問題について塩のことをどれだけ知っていますか?と問われるとすぐマスコミ情報で、塩は高血圧の原因となるとか、自然塩は健康によいと反射的に答えてしまうのではなかろうか。
 今回はグラマーというアメリカの雑誌の199311月号に掲載された副題の記事を紹介する。次の記述でどれが本当だと思いますかと問いかけて、その後、簡単に解説され、答えが分かるようになっている。

塩は高血圧の原因となる。
 血圧と食塩摂取量との関係はかつて考えられていたほど簡単ではない。現在では、塩が高血圧の原因になるとは考えていないが、食塩感受性の人では血庄を上昇させる。ほとんどの人々は食塩感受性ではない。中程度のナトリウム制限をしていれば、先々、高血圧にならないですむと明らかにいうことはできない。

最良の減塩法は食卓に塩を出さないことである。
  調理で塩を使わないで食卓で塩を振りかければ、食塩の摂取量が少なくなるという研究がある。塩味を強く感じるからである。

塩は味つけをするだけである。
 塩の成分であるナトリウムと塩素は体液の電解質バランスを調整する重要な栄養素である。我々は生理的な必要量以上に塩を摂取している。したがって、もっと少ない食塩摂取量でも生存できる。しかし、塩がまったくなければ、生きていけない

海塩にはミネラルがある。
 アメリカで販売されているほとんどの海塩は高度に精製されている。その組成は他の食卓塩とほとんど同じで、約99%の塩化ナトリウムである。海塩を含めてほとんどの塩は流動化剤、固結防止剤を含んでおり、時には必須栄養素であるヨードが添加されている。

努力すれば塩をまったく避けられる。
 調理で塩を使わず、食卓に塩を出さなくても、塩を食べる機会は沢山ある。平均して食品に加えられる塩は1日のナトリウム摂取量のわずか15%である。ナトリウムのほとんど、75%はセリアル、パン、クラッカー、チーズ、冷凍食品のような加工食品に由来する。ファースト・フーズや塩辛いスナックのような明らかに塩の入っているものはいうまでもない。残りの10%は食品の中に自然に入っているナトリウムに由来する塩である。

塩は食品の味を隠してしまう。
 これは見解の相違である。ほとんどのシェフは塩が食べ物の味を強化するといって、調理で塩を使う。塩が味蕾(味を感じるところ)と接触すると、脳に電気信号が送られる。この刺激は塩だけでなく他の味でも同じように働く。
 食べ物をちょうどよい味で味わうか、塩辛すぎるか、水くさいかは塩分量に依存するが、体は味に慣れてくる。食べ物の塩味はだ液の塩分濃度に影響される。食べ物が塩辛いと感じるならば、だ液の塩分よりも塩辛いに違いない。

塩は水を保持する。
 これは必ずしも誰にでも当てはまることではない。しかし、腫れぼったく感じるのであれば、減塩して沢山水を飲むように努める。沢山食べた翌朝、目が腫れぼったければ、炭水化物とナトリウムの両方が水貯留の原因となっている。

生まれつき塩を欲しがるか。
 すべての嘱乳動物は塩を欲しがる。人間も例外ではない。よちよち歩きの幼児は二歳までに塩辛い食べ物を好むようになる。そしてその塩味を生涯味わい続ける。

野菜やパスタのゆで水に塩を加えることは栄養上してはいけない。
 新鮮な野菜やパスタは普通ナトリウムがあまりない。水に塩を加えてもナトリウム濃度が大きく変わることはなく、わずかに吸収されるだけである。塩を加えると味がよくなる。

セロリには塩がある。
 ある人々にとってセロリは塩辛い味がする。セロリは他の野菜や果物よりもわずかにナトリウム濃度が高い。
 しかし、比較すると、白パン一切れは150ミリグラムのナトリウムを含み、缶詰野菜スープ一カップは約800ミリグラムのナトリウムを含むが、セロリの茎はわずかに35ミリグラム含んでいるだけである。他の野菜はセロリよりも少ないナトリウムで、例えば、ゆでジャガイモは15ミリグラム、ピーマンは2ミリグラム以下である。
 以上であるが、記述のあとの解説を読めば分かるように、この記述はすべて誤りである。
 食塩摂取量、味覚、生理、固人差などの関係から一概に決められず、微妙な表現になっているところもあって分かりにくい部分もあるが、少なくとも記述のように簡単に決めつけられないということである。
 なお、生まれたての赤ちゃんは塩味が分からず、成長していくにつれて学習により塩味を好むようになる。