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2018.08.01


塩から微量ミネラルを有用に摂取できると本気で

信じている愚かな科学者達 3

 

 先月は佐藤稔氏と佐藤秀夫氏の共著書を取り上げた。酸化還元電位の低い塩がどうしてできるのか?その塩の摂取量が少ないにもかかわらずどの程度の有用な効果があるのか、確たる結論を出せなかった。この度は引き続き石原結實氏の著書二点を取り上げる。

 

石原結實 1948年生医学博士 コーカサス・グルジア共和国科学アカデミー長寿医学会・名誉会員、現在イシハラクリニック院長 著書「「塩」をしっかり摂れば、病気は治る」2004年出版 株式会社経済界

 

フェイクな記述:昔は、ほぼ99%が食塩(NaCl)からできている塩は「真塩」と呼ばれ、「自然塩」は、「黒塩」とか「差塩」と呼ばれて粗悪品と考えられていました。最近はミネラルの効果が明らかになり、また自然指向も高まり、「自然塩」が「健康塩」として、クローズ・アップされてきています。最近ブームのこの「自然塩」や「にがり」の効能について書いてある本を読むと、「高血圧や心臓病が解決した」とする症例がよく出てきます。それはNa(ナトリウム)と拮抗的に働くK(カリウム)や、心臓病を防ぐ働きのあるMg(マグネシウム)Ca(カルシウム)が、「自然塩」や「にがり」のなかに含まれているからで、何ら不思議ではありません。7677ページに記載

コメント:昔は、ほぼ99%が塩化ナトリウムからできている塩は「真塩」と呼ばれとの記載はフェイクである。次の図に示すように、江戸時代に一番純度の高い塩は「真塩」と言った。その塩は製造時には純度85%以下であるが、出来るだけニガリを落として純度が85%以上になると市販品としたが、純度には大きな幅があり、最高の純度では92,3%にもなった。差塩の純度は低く、製造時で75%程度から80%までの幅広い純度で市販品でも80%前後の純度しかなかった。この時代、粗悪品の「黒塩」や「差塩」は味が悪く、それらを自然塩と呼び有難がる概念はなかった。

 真塩の純度が99%もあれば、塩の専売制で塩の品質を上げるために技術開発をする必要はない。塩専売制度が始まった当時(1905年:明治38)からの塩の品質向上の実態は表に示す通りである。専売開始当時は前述した差塩が大半で、真塩はごく僅かであったことが分かる。1935(昭和10)になってやっと大半が真塩レベルの塩となった。品質規格で99%以上の製品銘柄「食塩」が販売されたのは1960(昭和35)であった。このように純度99%以上の塩を作れるようになるまで、塩専売制度の下でも55年間かかった。表を見ると分かるように戦後になって、かん水を煮詰めて塩結晶を作るせんごう工程が平釜、蒸気利用から加圧式、真空式の装置に変わり、結晶形が無定形の凝集晶から単独の立方晶になることにより、付着母液が少なくなり、さらに遠心分離機・洗浄工程の性能向上で付着母液はますます少なくなって純度が上がって、99%以上の塩が作れるようになった

 

上図と表は村上正祥 日本海水学会誌1984;38:236ページ:塩の組成と品質より引用

著者は「自然塩」や「にがり」の効能について書いてある本の内容を肯定しており、自然塩の礼賛者である。自然塩から微量ミネラルを有用に摂取できないことは、このシリーズでも述べてきた。したがって、自然塩を特に礼賛する理由は見当たらない。このことから公正取引委員会の指導で食用塩公正取引協議会が設置され、消費者に優良誤認させない商品には下記の公正マークが表示されるようになった

にがりは塩化ナトリウム(NaCl)以外の成分が多く、主成分は塩化マグネシウム(MgCl2)である。微量ミネラルも塩よりはずっと多く含まれているが、その摂取量が体にとって有効となるかどうか問題で、ニガリを1 mlも摂取量すればマグネシウムだけは有効となろうが、微量ミネラルについては全く期待できない

マグネシウムやカルシウムは血圧を下げる働きがあると言われていることを肯定して自然塩やニガリを勧めている。しかし、2013年に発表された高血圧管理におけるカリウム、カルシウム、マグネシウムの血圧低下効果をレビューした論文によると、カリウムについては効果があるが、野菜や果物から摂取すべきで、薬物(塩代替物として塩化カリウムを強化した塩)からの摂取を勧めていない。カルシウムについては、高血圧予防または治療でカルシウム補給の利益に関するエビデンスは弱いとしている。マグネシウムついては欠乏したからといって血圧が上昇したと言う結果はなく、マグネシウム補給と血圧低下とのあいだの因果関係については弱かったとしている。つまり、著者の記述はフェイクと言える。

 

石原結實 著書「「塩」は体を温め、免疫力を上げる!」2007年出版 株式会社経済界

 

フェイクな記述:海水中には3.5%の塩類が溶けていて、その80%までが食塩(NaCl)ですが、ほかにMgCl2(塩化マグネシウム)MgSO4(硫酸マグネシウム)KCl(塩化カリウム)というような塩類が存在します。また、海水の中にはNa(ナトリウム)Cl(塩素)以外にも人体が必要とする約100種類近くのミネラルが含まれています。中略。最近、「にがり」(豆腐をつくる時に、豆乳を固めるために使われるエキスのことで、海水を沈殿して自然塩を結晶させた後に残る液体)や「自然塩」の健康運動が脚光を浴びているのは、こうした人体に必要なミネラル分をすべて含んでいるからです。昔、ほぼ99%が食塩(NaCl)からできている塩は「真塩」と呼ばれ…(筆者注:以下は前述した書籍に書かれている同じことが書かれている。つまりフェイクな記載をバラまいている)

コメント:前半に海水中に含まれている塩類と人体が必要とする約100種近くのミネラルが含まれていることを述べ、にがりや自然塩にも人体に必要なミネラル分をすべて含んでいると述べている。これはフェイクである。これまでにがりや自然塩から塩化ナトリウム以外のミネラルを人体に有用であるほど摂取できることは期待できないと述べてきた。ミネラルがあるか、ないかと言うレベルではある可能性が高いとなるが、それが有用なほど高い濃度であるかとなると、ないと言える。有用でなくてもあれば良いと言うレベルでは論外である。このことを商品の優劣に利用した事例がある。A社は塩の中で検出されたミネラルの数は14種あったとギネスブックに申請し認められたので、その商品をミネラル世界一と強調した。2年後にB社が18種で申請し認められた。今度はその商品がミネラル世界一という訳である。分析技術が発達している今日ではこの数はどんどん大きくできる。しかし、微量になればミネラル1点当たりの分析費が高くなるので、経済計算で数は決まる物と思われる。この数には意味がないと言える。真塩についてのコメントは既に前述したので省略する。

 書名にある塩は免疫力を上げるかどうかについての学術論文は少なく、2107年に局部ナトリウム・イオンの蓄積が炎症を抑え、感染を防ぐことに役立つと報告されたが、塩が免疫力を上げることの確証はこれからの研究による。