2018.07.01
塩から微量ミネラルを有用に摂取できると本気で
信じている愚かな科学者達 2
先月は平島裕正氏と八藤眞氏の著書を取り上げた。引き続き佐藤稔氏・佐藤秀夫氏共著の書籍を取り上げる。この中で還元力を持った塩を持った塩の話が出て来るが、どうして還元力を持つようになるのか、なかなか分からなかった。その製造には硫黄を含む硫酸塩が関係しているらしく、もう一つは硫黄を含む植物との焼成により水に溶けて硫化水素を出す化合物(CaS)を作るらしい。分かっている方がいればメールでお知らせ願いたい。
佐藤稔 1970年生医学博士 東京家政学院短期大学助教授 専門分野は公衆衛生学、環境科学;佐藤秀夫 1959年生 塩の研究・開発を主とする(株)ハイメール代表取締役、著書「新・生命の創世記 いのちと塩」佐藤稔・佐藤秀夫共著 2001年出版 株式会社ココロ
フェイクな記述:誰もが「塩は、生命にとってなくてはならぬ食べ物である」という認識を持っている。しかし「なぜか?」と聞いても、納得のいく理由で答えられる人はいない。学者に聞いてみても同じである。一般的なミネラル栄養素という答えはあっても、生命とのかかわりを納得のいく理由で答えられないのである。24ページに記載
コメント:誰も生命にとって塩がないと生きられない理由を知らないとは、何とも国民や(医)学者を馬鹿にしている。何点かの理由で生命維持に塩が不可欠なことは分かっている。例えば、浸透圧維持、酸・塩基平衡、食べ物の消化・吸収、神経伝達などである。詳しくはhttp://www.geocities.jp/t_hashimotoodawara/salt6/salt6-97-08.htmlを参照して頂きたい。このフェイクな記述は後に述べる酸化還元電位の低い塩の効用を記述するための布石であるように思われる。
フェイクな記述:また塩は、製法によってさまざまな区分や呼称がある。しかし、基本的には、岩塩や天日塩、塩田塩、湖塩のような海からできた天然の塩と、イオン交換膜法という電気の力を利用して作られた化学製法の塩に分けられる。いずれも、もとは海水から作られる塩である。大きな違いは、天然の塩には塩化ナトリウム以外のミネラルが含まれ、化学製法の塩はミネラルを極力除く製法のため、99.99%が塩化ナトリウムである点にある。中略。天然塩の成分は、製法や採取する季節、環境条件によって異なる。中略。成分を平均化してみると、塩化ナトリウムが全体の96%前後、水分が2%前後、残り2%前後をその他のミネラル分が占めている。34ページに記載
コメント:岩塩を始め全ての塩が海水に由来しているのは正しい。しかし、湖塩を海からできた天然の塩とは言わない。化学製法の塩(イオン交換膜製塩法による塩)は化学反応によって製造している塩ではない。化学反応によって作る塩は、例えば、カ性ソーダ溶液によるごみ焼却炉の排煙処理で塩化ビニルなどに由来する塩酸との中和反応によってできる物である。イオン交換膜による陽イオンと陰イオンの分別は電気化学による反応(原子が持っている電子の授受によって他の化合物ができる)によるものではなく、電圧により電荷を持ったイオンが移動することに基づいており、電気化学反応を伴っていない。したがって、化学製法の塩という表現は間違っている。
イオン交換膜製塩法による塩、例えば、銘柄「食塩」の品質規格は99%以上であり、塩事業センター発行の市販食用塩のデータブックによると、純度は99.67%、その他のミネラルは0.239%であり、書籍に記載されている99.99%が塩化ナトリウムは全くの間違いである。なお、輸入塩を精製再結晶させた精製塩1 kgの品質規格の純度は99.5%以上であり、特級精製は99.95%以上である。したがって、小売店で純度が99.99%の塩を販売していることはあり得ない。ちなみに、通常岩塩は泥の混入で純度は低いが、中には非常に高純度で99.99%以上の岩塩もある。無色透明で光学プリズムや赤外線分光分析機で使われる試料を入れるセルに使われる。
天然塩の成分を平均化してみると、塩化ナトリウムが全体の96%前後、水分が2%前後、残り2%前後をその他のミネラル分が占めている、との記載でどのようなデータを使って平均化したのか分からないが、前記の市販食用塩のデータブックによると純度はもっと低く、水分はもっと高く、ミネラルの大半は身体に吸収されない硫酸カルシウム(石膏)である。ちなみに、輸入されて販売されている岩塩製品の純度は98%以上で99.92%の物まであり、決して塩化ナトリウム以外のミネラルが多いわけではない。
フェイクな記述:縄文時代の遺跡から出た土器の底に焼いた塩が残っていたことから、太古のヒトは塩を焼いて使っていたことがわかってきた。では、なぜ、太古のヒトたちは、塩を焼いて使っていたのだろうか。これは、推測するに、焼いて食べた方が体に良いことを既に知っていたということであろう。35ページに記載
コメント:推測で塩を焼くと体に良いことを古代人は既に知っていたのであろうと、都合良く解釈していい加減なことを書いている。医学博士であれば、どうして塩を焼くことの意義を調べてから書かないのだろうか?塩に含まれるニガリ成分の塩化マグネシウムは吸収性を持っているのでベタベタする。これを焼くことにより塩化マグネシウムは酸化マグネシウムに変化し、吸湿性がなくなるので何時までもサラサラしているからである。塩化マグネシウムは水に溶けやすく体に吸収されるが、酸化マグネシウムは前記した硫酸カルシウムよりも水に溶けにくく体に吸収されることはない。苦みがあって味の悪い塩化マグネシウムが水に溶けないので味がなく、味の良い塩になる。これが塩を焼く意義である。したがって、焼いて食べた方が体に良いことを既に知っていたということであろう、との推測は間違い。
フェイクな記述:「還元力を持った塩」の製造方法の項で、韓国の伝統的な天日製塩法を述べており、以下のように記載されている。:数日後、カン水の中で大きな結晶体に育った粗塩が集められる。不思議なことに、この粗塩からは、ニガリがほとんど出てこない。そのまま食べても苦味がなく、甘くておいしいのである。この粗塩は、800度以上の高熱で長時間焼成される。中略。この「高熱燃焼過程」(特許製法)で、塩に含まれている酸素や窒素などの非金属化合物の多くが気化し、ほとんどが単純な無機質の化合物に分断されてしまう。同時に、ダイオキシンなどの有害な有機化合物は消去され、あるいは無機化されてしまう。その結果、焼かれた塩は、生命にとって最も安全で安心なものに生まれ変わる。これが「還元力を持った塩」の現在の製法のあらましである。40ページに記載
コメント:大きな結晶体に育った粗塩からはニガリがほとんど出てこない。この現象は理論的にありえない。塩はイオン結合により結晶となり、その結晶格子の中にはカルシウムやマグネシウムは入ってこない。製品となっている塩の中のカルシウムは、塩が結晶となる前に炭酸カルシウム(貝殻の成分)と硫酸カルシウム(石膏ボードの成分)の結晶として析出する。これらの化合物は水に溶けにくいので味がしない。天日製塩法ではそれらを分離出来ないので必ず塩の中に混ざった状態となるが、塩の味にはほとんど影響を与えない。
次に塩の結晶が出来始め、硫酸カルシウムの析出も続いており、次に硫酸マグネシウムが析出し始める。これは苦味を示し、これも分離できないので、析出する前に製塩工程を終了し、残った液をニガリ(主成分は塩化マグネシウム)として排出する。収穫した塩にはこの時のニガリ成分が必ず付着する。飽和食塩水で洗い流さない限り除くことは出来ない。通常では収穫した塩を山積みにしてニガリを滴り落としてから塩製品とする。したがって、粗塩にニガリがほとんど出てこない、というのはフェイクである。
粗塩を800度以上で焼いて還元力を持った塩を作るようだが、本当に出来るのだろうか?炭酸カルシウム(CaCO3)は800度以上では酸化カルシウムとCO2ガスになる。硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)は焼かれると2水塩から半水塩、無水塩と結晶水がなくなる。さらに1200度以上で焼くと酸化カルシウム(CaO)と三酸化硫黄(SO3)になる。塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)は加熱すると2水塩になり、さらに高熱で加熱すると酸化マグネシウム(MgO)と塩酸ガス(HCl)になる。硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)は70℃で1水塩となり、200℃で無水塩となる。1,124℃で熱分解を起こす。
以上に述べた塩に含まれている塩類を800度以上に加熱した時に生成する化合物の中で、常温で還元力を持った物質(酸化される物質)はない。したがって、ここまでのところ記載はフェイクに思える。しかし、現実に出来ているので、さらに調べた。
塩が還元力を持つ理由を理解できなくてインターネットで検索していると、石膏(硫酸カルシウム)は800℃以上で加熱すると、硫黄とカルシウムが熱分解を起こし、SOXが出てしまいます。と述べたサイトが見つかった。SOXとはSO、SO2、SO3の総称であり、この中にはSOやSO2のように還元力を持つ化合物である。これが還元力を持った塩となる理由と考えられる。こうなると、記述はフェイクとは言えなくなりそうだが、いずれもガスであるのでやはりフェイクとなる。
この書籍には還元力を持った塩の素晴らしさが記載されているが、その塩の商品名はあまり書かれていない。最初に記載されている「健康の決め手、還元力の強い自然塩」の中でキパワーオリジンといわれている韓国産の塩、69ページに記載されている「さまざまな塩のORP (酸化還元電位) 値」の表の中で前述の塩とともにキパワーソルトが出て来るだけである。具体的な商品に肩入れすることを避けて書かれているように思われる。このキパワーソルトのホームページを見ると、硫化水素による匂いがすると書かれている。硫化水素は還元剤であるので、還元力を持った塩になることは当然であるが、天日塩を800度以上で焼いただけで硫化水素ができる理由が分からない。また硫化水素は燃えるので800度の状態で存在することはない。記述はフェイクか?
ところで還元力を持った塩商品で硫化水素の匂いがする物は他にもある。竹筒に詰込んで焼くことを複数回繰り返して製造した塩である。インターネットでは硫黄成分の多い竹を使用するとある。ヒマラヤの岩塩やパキスタンの岩塩である。中には見た目は岩塩のように見えるが、実は溶融塩を砕いたもので、岩塩と見違える。容器に塩とハーブやスパイスを入れ約800℃で焼くと塩は融けて溶融塩となる。冷まして固まった塊を砕くと赤黒い岩塩のように見える塩となる。これらの塩はいずれも硫黄の臭いがする。実は硫黄の臭いではなく、硫化水素の臭いであり、これらの塩を水に溶かすと微細な泡が立ち上ってくる。硫化水素ガスだ。硫化水素は毒物であるが、塩から臭ってくるのは微量であるため毒性を発揮するほどのことはない。
水に溶けて硫化水素を発生させる化合物をインターネットで検索すると金属硫化物とあり、NaS、KS、CaS、MgSが考えられる。それぞれの反応性を見るとCaSだけが発生させるようだ。本当にこの化合物があるかどうか分析してもらいたいところである。キパワーソルトについて言えば、800度以上で焼くだけで硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムからCaS(硫化カルシウム)が出来るかどうか確認する必要がある。
以上をまとめてこの記述がフェイクであるかどうかを判定するにはCaSを分析で確認するしかなかろう。
なお、酸化還元電位の低い塩であることは確かである。しかし、その塩の摂取量はせいぜい5 g程度であろうから、その効果は疑われる。定性的には効果があると言えるが、定量的にどの程度の効果があり、それが人体にとって有用であるかどうか明らかにしてもらいたい。