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2017.10.01

                     

塩に関する100年間の重要な歴史的出来事

                                           

 先月、書籍「塩の常識」の概要を紹介した。その書籍の中に、塩が悪者にされ、減塩政策が行われるようになった100年間の経緯を整理した付表がある。塩が高血圧の原因物質ではないかと仮説を立て、今やそれがあたかも確定した事実かの如く全員に減塩を勧める政策が採られている。最近では糖類が高血圧の原因ではないかとの論文もあり、原表にはその経緯も記載されているが、省略してThe Salt Fix(By James Dinicolantonio  2017より)紹介する。

 

1904年と1905年:アンバードとボーシャードは塩-高血圧仮説と高血圧は塩貯留によって起こるとの信念を発して関与を認める。

1907年:ローウエンスタインは高血圧に対する低塩食の利益を確認しなかった。

1920年代:アメリカ合衆国で塩戦争が始まる。

1920/1922年:アレン、シェリルと共同研究者達は、腎臓疾患の有無で塩が血圧を上昇させると言う考えを進める。

1929年:ベルガーとファインベルグは、低塩食(1 g 塩/d 以下 )は本態性高血圧症者4人の内3人で高血圧治療に無効であると結論を下す。

1930 -1944年:低塩食は高血圧治療に有効であることを次第に明らかにする。

1944 -1948年:ケンプナーは彼のライス・ダイエット(他のこととの中で低塩)の有益性を示す。

1945年:グロウルマンは、血圧を下げたことはケンプナーのライス・ダイエット低塩食部分であったことを確認している。しかし、必ずしも全ての患者に有益であった訳ではなく、他の患者は障害を経験し(実際に1人の患者は死んだ)、他の患者は循環系の崩壊(患者に塩を提供することで固定化された)を経験したことを研究は実際に示した。

1950年代:レービス・ダールとジョージ・メニーリは、塩が高血圧と慢性疾患で重要であることを示唆し始める。

1960年:レービス・ダールはわずか5集団で高い塩摂取量と高い高血圧発症率との関係に関する有名な論文を発表。

1972年:ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンはジョン・ララフと同僚による論文を発表している。それは“本態性高血圧症患者の潜在的な危険要因として血漿レニン活性が明らかになった”ことを述べている。さらに、低塩摂取量が高い血漿レニン活性と関係していることを研究は示した。

1974年:高血圧は通常塩含有量の食事をしている人々で生ずる直接的なエビデンスはほとんどないことを食品栄養委員会は示す。

1977年:全てのアメリカ人は塩摂取量を3 g/dに制限することを食事目標は勧める。

1978年:高血圧患者の低塩食についてのエビデンスは一般国民にまで不適正に外挿され、3 g/dの塩摂取量は非現実的で達成できないことを示す1977年の食事目標の批判をA. E. ハーパーは発表。

1979年:低塩食からもたらされる有益性には疑いがあるとのレビュー論文をF. オラフ・シンプソンは発表。

1980年:集団全体に減塩を勧めるには時期尚早であると結論を下したレビュー論文をJ. D. スェールスは発表。

1981年:日本人でNa/K比が6以下(高い塩摂取量にも関わらず)である限り、平均血圧は高血圧でないことを家森は示す。

1982年:タイム誌は“塩:新しい悪者?”と題する論文を発表。

1985年:血圧に及ぼす無視できない効果を得るために減塩する必要のある塩の量はほとんどの患者にとって耐えられない、とブーンとアロンソンのレビュー論文は結論。

1988年:原始的な4社会を除くと(全部で48集団が残る)、高い塩摂取量は高い血圧中央値または高血圧発症率と相関していないことをインターソルトは示す。重要なことに、“体格指数は個別の被験者の血圧と強く有意な独立した関係を示した。”

1989年:血圧と塩枯渇/塩付加との間には何の関係もなく、“塩依存高血圧”は塩摂取量によって厳密には制御されないが、むしろ多分、アルドステロン、ノルエピネフリン、エピネフリンによって制御されるとハリエット P. ダスタンは述べる。

1991年:減塩と血圧との関係を調べた最初のメタアナリシス(ランダム化された研究、されない研究を含む)が発表される。血圧低下だけに基づいて、“5.8 g/dまでの減塩は長期間に推定30%まで虚血性心疾患による死亡率を減らす、”そして“2.9 g/24hの減塩は脳卒中発症率を1/5まで、虚血性心疾患発症率を1/6まで減らすだろう、”と著者達は結論を下した。

1993年:高血圧予防、検出、評価、治療に関する合同国民委員会の第五次報告書は減塩を支持する最近発表された1991年のメタアナリシスを引用。

1995年:“低い尿中塩含有量は治療中の高血圧男性で心筋梗塞の大きな危険率と関係している、”ことを示す論文をミカエル・アルダーマンと同僚達は発表。

1998年:ニールス・グラウダルは低塩食をテストする厳密にランダム化された試験のメタアナリシスを発表。結果はわずかな血圧低下を示したが、低塩食で低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール、総コレステロール、ノルアドレナリン、レニン、アルドステロンは増加した。彼等の結論は“これらの結果は減塩を勧める勧告を支持しない”と言うことであった。

2001年:DASH-ナトリウム試験が発表される。これは、減塩は血圧を下げる有益性を示すかもしれないことを示す30日間のランダム化研究である。しかし、正常血圧者や45歳以下の高血圧でない人々にはほとんど有益性はなかった。さらに、減塩をしてコントロール食をしている人々では、トリグリセライド、低密度リポタンパク質(LDL)、総コレステロール対高密度リポタンパク質比(TC:HDL)は増加した。

2011年:ストラツースキチペックと同僚達は展望的な集団研究を発表し、“低い塩排泄量は高い心血管疾患死亡率と関係していた、”と結論。

2014年:テ・モレンガと同僚達はランダム化比較試験のメタアナリシスを発表し、高い塩含有量食は低い塩含有量食に対して血圧を上昇させることを示す(効果は塩摂取量を変えたことで明らかになったことの約2倍である)

2014年:アドラーと同僚達はランダム化比較試験の最新のコクラン・メタアナリシスを発表し、低塩食でわずかな血圧低下、全ての死因による死亡率または心血管疾患による死亡率で何の有意な低下も示さない。

2014年:グラウダルと同僚達は274,683人の参加者で23件のコホート研究とランダム化比較試験の2件の追跡研究のメタアナリシスを発表し、“通常の塩摂取量と比較して、低い塩摂取量と過剰な塩摂取量食は死亡率の増加と関係している、”と結論。

2015年:アメリカ人の食事ガイドラインは塩摂取量について厳しい限界値(すなわち、3.8 g/d)に動いたが、5.8 g/dの限界値は残る。

2016年:低い塩摂取量は高血圧者または正常血圧者で心血管疾患と死亡率の危険率増加と関係しているが、一方、高い塩摂取量は4研究のプールされた解析から高血圧患者だけでこれらの害と関係している。

2016年:高血圧でない患者は臨床研究のメタアナリシスに基づく減塩で全くの血圧低下を示さない。

 

付表に続いて下記の減塩の目標値としての塩摂取量の勧告値の変遷を示した表がある。

 

塩摂取量勧告値の変遷

 

1977年-食事目標の第一版:塩摂取量の上限を3 gに設定。

1977年-食事目標の第二版:塩摂取量の上限を5gに設定。

1980年-アメリカ人の食事ガイドライン:“食卓塩をあまり使わない、”“塩漬け食品、塩ナッツ”を避ける、“幼児食に塩を加えない、”我々は“必要以上に多くの塩を摂取している、”そして“過剰な塩摂取量の主な害は高血圧者についてである。”

1985年-アメリカ人の食事ガイドライン:“塩の摂り過ぎを避ける。”

1990年-アメリカ人の食事ガイドライン:“ほどほどに塩を使う。”

1995年-アメリカ人の食事ガイドライン:毎日の塩摂取量は 6g/d

2000年-アメリカ人の食事ガイドライン:“健康な子供と大人は必要量に合った少量の塩だけ-毎日茶さじ1/4以下を摂取する。

2005年-医学研究所(IOM)3.8 g/dと言う十分な摂取量(AI)5.8 g/dと言う上限値(UL)を導入。

2005年-アメリカ人の食事ガイドライン:全てのアメリカ人は(IOMの報告書に基づいて)5.8 g/d以下の塩摂取量にすべきである。“高血圧者、黒人、中年と老人”については、3.8 g/d以下の塩摂取量を目標とする。

2010年-アメリカ人の食事ガイドライン:“塩摂取量を5.8 g/d以下に下げる、さらに51歳以上の老人と年齢に関係なくアフリカ系アメリカ人、高血圧者、糖尿病者、慢性腎臓疾患者は3.8 g/d以下に下げる。”

2015年-アメリカ人の食事ガイドライン:厳しい減塩勧告(すなわち、3.8 g/d以下)を除くが、全てのアメリカ人は5.8 g/d以下に塩摂取量を制限すべきである勧告を守る。