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書籍「塩の常識」の概要

 

 今年、イギリスから150ページ以上にも及ぶ「塩の常識」(The Salt Fix)が出版された。著者は心血管研究者のジェームス・ディニコラントニオである。表紙の書名に下には「塩が全て悪いと専門家達が言った理由と、もっと食べる長生きの仕方」と書かれている。裏表紙には後で紹介するようにこの本を推薦する内容が書かれている。

この書籍の概要を著者自身がデイリー・メールのウェブサイトであるメイルオンラインで紹介した。その表題は「塩について聞いてきたことは全て間違い、トップ科学者は言う:塩で心臓発作は起こらず、減塩のし過ぎで太り、性生活を損ねる」である。本の内容をより具体的に表題で表している。どういうことなのか紹介する。

 

調査の背景と新しい視点

 著者は500件以上の医学論文と塩に関する研究データを調べた結果として次のように書いている。減塩を支持する信頼できる科学的エビデンスはなかった。塩摂取量が少ないとインシュリン抵抗が増加し、脂肪蓄積が増加し、糖尿病の危険率を増加させることもあり得る。性欲を減退させるとは述べていない。しかし、その後では次のように述べている。減塩食は性欲を減退させ、妊娠の機会を阻止し、幼児の誕生時体重に影響を及ぼす。減塩食は勃起不全の危険率を増加させ、疲労、女性が妊娠できるようになる年齢を上昇させることを臨床研究は示している、と記している。

(減塩が脂肪蓄積による肥満の一因であり、また勃起不全の危険率を増加させ、女性の妊娠可能年齢を上昇させることについて筆者は初めて知った。この辺りのことは減塩の危険性を伝える海外マスメディアでも報道されたことはなかったように思う。今後、情報収集の課題としたい。)

 

塩を悪者とした仮説と間違ってそれを是とした経緯

 塩に関する伝統的な意見は簡単な仮説に基づいている。それは塩の食べ過ぎは血圧を上昇させる。と言うだけで、それでお終いである。しかし、非常に多くの極端に単純化された理論と同じ様に、これは間違った科学と一体となった基本的な誤解に基づいている。

 間違った仮説は次のように理論を発展させる:塩を食べると、喉が渇き、多くの水を飲む。過剰な塩は血液の塩分を薄めるための水を保持させる原因となる。その水は血液量を増加させ、それで血圧が上昇することになり、したがって、心疾患、脳卒中、他の重大な疾病状態となる。

 これは理にかなっているが、問題がある:事実はそれを支持していない。医学文献のエビデンスは、塩摂取量を増加させても正常血圧者の約80%は血圧上昇の兆候を示さない。

前高血圧者または高血圧者の中で3/4は塩に対して感受性ではない。そして完全な高血圧者の中でも半分以上-約55%-は全体として塩の効果に対して免疫である。(筆者としては、この理論に当てはまるのは、腎臓の排泄機能が悪い人達であることを付け加えたい。大半の人々の腎臓は正常で水分も塩分も十分に排泄でき、血圧が上がることはない。)

塩は血圧を上昇させると言う危険な神話はフランスの科学者アンバードとボーシャードにより100年以上前に始まった。彼等はわずか患者6人の研究に関する結果を基にしていた。後継研究者達は彼等のデータを誤解し、間違って使い、確実な事実に基づかないでメディアの注意を引く理論を作り上げた。

最初の50年間にダール博士は科学を彼自身の偏見に合わせようと決めた。‘日本人は高血圧者が多く、一方、イヌイットはそうではなく、それは食事中の塩の量のためであると主張する人種理論の提案者であった。(疫学調査の結果として有名な塩と高血圧発症率との関係図を発表したが、筆者に言わせればフェイク・サイエンスとも言うべきデータである。)

彼はラットの実験でこれを証明することを提案した。しかし、通常のラットは塩に対して感受性ではなく、塩は血圧に何の影響も及ぼさなかった。そこで彼は塩感受性ラットを作り出し、塩が血圧に影響を及ぼすと言う仮説を証明するためにそれらを使った。彼は塩感受性ラットに人の高い塩含有量の幼児食を与えた。それでラットは死んだので、ダールは、幼児食が人の幼児にも致命的であることを証明したとして宣言した。塩感受性ラットは高血圧で苦しむよう遺伝的に設計されていた。しかし、この研究に基づいて、幼児が塩を摂り過ぎているとして、製造者は全ての種類の幼児食中の塩含有量を下げ始めた、と小児科アメリカ・アカデミーの栄養委員会は結論を下した。高血圧と塩との関係は最も偽りの口実に基づいて国民の心に確立された。

 

減塩の危険性

 低塩摂取量には心疾患の危険性を増大させるいくつかの副作用がある。例えば、脈拍数の増加、腎機能の損傷、異常に不活発な甲状腺、コレステロールの上昇と同様にインスリン濃度の増加-糖尿病の危険因子-である。全て塩欠乏による。数十年間も不公正に悪者とされてきたこの白い結晶はこれらの疾患の本当の犯人を見えなくしている。

 (本当の犯人は砂糖であるとして、糖代謝の関係からそのメカニズムを次のように解説している。)減塩を始めると、体は塩を保持するための機能が働く。塩保持の主たる防衛機構の一つはインスリン濃度を増加させることである。つまりインシュリン自身に対する抵抗性を高くすることになる。それにより体はグルコースを細胞にあまり送り込めなくなる。これは血中グルコースを制御するためにより多くのインシュリンを分泌させることを意味している。こうなると蓄積されている体脂肪はエネルギーに転換されないで維持される。さらに減塩はレニン、アンジオテンシン、アルドステロンのようなホルモンも刺激する。それらのホルモンは塩濃度を下げて維持することに役立つが、脂肪吸収も増加させることで事態はさらに悪くする。

 もっと悪いことに、塩摂取量を劇的に減らせば、ヨード欠乏症を発症させることもある。(ヨード欠乏症を予防するために欧米の家庭用小物塩商品にはヨードが添加されている。)塩は最良のヨード供給源である。甲状腺機能の適正化にはヨードが必要であり、それがなければ、代謝速度が低下するかもしれない。遅い代謝速度は体、特に器官に脂肪を蓄積させる結果となり、それはインシュリン抵抗を促進させる。それで再び体重が増加する。その上、低塩食は総合的な脱水の危険率を増加させる。十分に水のある細胞はあまりエネルギーを消費しないので、これは問題となる。脱水された細胞は疲れを感じさせ、そのことでもっとカロリーを摂取させるように働き、それは直ちに体重増加につながる。

 

適正塩摂取量

それではどれくらい多くの塩を摂取すべきか?多くの健康な人々は摂り過ぎについて心配する必要はない。体はどのような摂り過ぎにも対応する。健康な成人についての最適塩摂取量の範囲は7.6 – 15.2 g/dであることを示唆している。体に聞いて見て下さい。体には‘塩サーモスタット’が組み込まれている。それは塩供給飢餓ホルモンの活性化を避ける作用で塩供給をモニターしている脳センサーの受信機で、相互に連絡しあっている。脳は体の損傷を受け易い部分から塩を除去するよりもむしろ塩を摂取量する方を選ぶ。

 (適正な塩摂取量になるように体に組み込まれている塩サーモスタットで自然に調整されている、と言う訳である。)

 

裏表紙の内容

 「Grain Brain(小麦、炭水化物、砂糖は脳の殺し屋とする内容の本)の著者デビッド・パールムッターは次のように書いている。

 一流の心血管研究科学者は低塩神話をひっくり返す、つまり塩は慢性疾患発症の原因と言うよりもむしろ一つの解決策であるかもしれないことを証明している。

 我々はみんな健康な心臓のためには一日茶さじ1杯以下の塩摂取量と言う勧告を聞いてきた。しかし、我々の大多数は塩摂取量を監視する必要はないと言う大きな問題がある。ほとんどの人々にとって、塩は内部飢餓、インシュリン抵抗、糖尿病、心疾患を含む多くの病気から守り、非常に美味しく感じる。一世紀もの間の騒がれた自己意識と関心のドラマであり、ジェームス・ディニコラントニオ博士はどの様にして塩が不当に悪魔扱いされ、別の白い結晶である砂糖に有罪判決が下されたのかと言う決して語られなかった物語を明らかにする。

 ディニコラントニオ博士は、正しい塩摂取量が砂糖渇望から守り、減量を達成し、運動能力を改善し、出生率を増加させ、健康な心臓に資することを示している。この歴史的に貴重な物質についての対話を確実に変えるために、The Salt Fixは、健康における塩の不可欠な役割を魅力的に新しく理解させる研究と、十分に摂取できないと何が起こるかを科学的に正確に書いてある。

 ‘ディニコラントニオ博士は塩に関しての誤魔化しと誇張から合理性のある道筋に導く。この広範囲に調査されたテキストは、この重要なミネラルについて満足するまで食べるときに感じる罪の意識を最終的に消し去る。’

 

 減塩の勧めや減塩レシピーに関する図書は洋書、和書を問わず数多くある。しかし、減塩の無効性や危険性を訴えた書籍は皆無と言ってよい。この話題はこれまで学術論文、それを受けて専門書でコメント、解説、レビュー論文で書かれ、欧米ではさらに科学雑誌、マスメディアで報道されるようになった。この度、初めて一般書としてこれまでの塩が悪いと言う常識にまでなっている固定概念を覆す書籍が出版された。今後、この種の書籍の出版が続き、塩摂取量に対して適正な判断が出来るようになって行くことを期待する。