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たばこ塩産業 塩事業版  1998.3.25

塩なんでもQ&A

(財)塩事業センター技術部調査役 

橋本壽夫

 

塩のネーミングについて

 

 商品名はその商品の売上げに大きな影響を及ぼす要因の一つです。現在、世の中には自然、健康、グルメをイメージさせる商品が氾濫しています。塩にもそのようなイメージを持たせる商品があり、ことに塩の専売制が廃止されてから、外国の商品も加わり販売合戦が激しくなりました。そのような中で国内で製造されている食塩、並塩はイオン交換膜製塩法でつくられた塩ということで、化学的なイメージを持たれており、言葉の難しさも加わって印象が悪いように思うのですが、何か良い印象を与える言い方はないものでしょうか。                     (大阪府・南海塩業且ミ員)

 商品の売上げに大きな影響を及ぼす要因の一つに、その名前があることはおっしゃる通りです。そのために、新商品の名付けに皆知恵を絞っております。また、その商品の製造法も、その商品に好感を持てるかどうか、が判断される大きな要因の一つです。
 かつて化学や工業が勃興し発展して、便利な文化的な世の中になってきた時代には、化学的なイメージ、工業的なイメージを持たせる名前や言い方が、進歩的な感触を与えたことで流行りました。しかし、今では、機械的製造法(手作りでない)、合成品(自然ではない)、化学工場の公害発生、環境汚染などで、かつてはもてはやされた名前や言い方は、特に食品分野ではマイナスのイメージを持たれるようになりました。
 そこで名前や言い方を今の世の中に合ったように言い換えられないか、ということですが、非常に難しいご質問ですので、ぴったりした答えにはならないかと思いますが、どのような言い方ができるか、外国でいわれている塩の種類などを参考にしながら考えてみましょう。

岩塩(ロック・ソルト、ハライト)

 岩塩は太古の海の海水が蒸発してできた物で、外国ではロック・ソルト、鉱物としての学名はハライトと呼ばれます。
 岩塩は純粋な物は少なく、大抵、異物である他の塩類や鉱物、重金属を含んでいます。したがって、食べられる塩にするには、岩塩を溶かして不純物を除去し、精製してから煮詰めてつくります。つまり食用塩の原料となるものです。
 岩塩からつくる方法はせんごう法(煮詰め法)を使いますので、できた塩はせんごう塩をいわれます。

天日塩(ソーラー・ソルト、エバポレイティッド・ソルト)

 海水、かん水、湖水を天日塩田で蒸発させてつくられた塩で、太陽熱を使うことからソーラー、水を蒸発させることからエバポレイティッド、という言葉が使われます。
 海水の場合,濃縮に伴っていろいろな塩類が混ざってきます(「海水からの製塩とにがり成分」)し、微生物も繁殖してきます。砂や泥も入ってきますし、海水が汚染されれば、できた塩も汚染されます。 したがって、食べられる塩のするには、岩塩の場合と同じような工程が必要です。すなわち、天日塩を溶かして不純物を除去し、精製してから煮詰めてつくります。
 しかし、天日塩をきれいな水で洗って乾燥し、食べられる商品とすることもありますが、塩の結晶の中に取り込まれたものは洗い落とせませんので、完全に衛生的な塩というわけにはいかないと思います。

海塩(マリン・ソルト、シー・ソルト)

湖塩(レイク・ソルト)

井塩(ウェル・ソルト)

 天日塩の中で、海水、湖水、井水といった原料の違いによってできた塩をそれぞれ海塩、湖塩、井塩という場合があります。これらの言葉は岩塩に対するものと考えられ、原料の違いを明確に表している名称です。

せんごう塩(パン・ソルト、バキューム〈パン〉・ソルト、オープン・パン・ソルト、グレーナー・ソルト、フレーク・ソルト、デンドライト・ソルト、エバポレイティッド・ソルト)

 塩水を容器(パン、グレーナー)に入れて真空(バキューム)または大気圧下の開放(オープン)で蒸発させて(エバポレイティッド)塩をつくりますので、できた塩はせんごう塩といわれ、外国ではせんごうの仕方でカッコ内のようにいろいろな言い方で表されます。この中でフレーク・ソルトは表面蒸発によってできる薄片(フレーク)状の塩ですし、デンドライト・ソルト(樹枝状塩)は塩水にある物質を入れて煮詰め、塩の結晶形を樹の枝のような形(デンドライト)にした塩につけられている名称です。
 せんごう法は食用塩の一般的な製造法であり、衛生的に問題のない塩です。

蒸発塩(エバポレイティッド・ソルト)

 外国では、水を蒸発させてつくられた塩を蒸発塩ということがあります。太陽熱、木材、化石燃料、蒸気など、熱源に何を使おうとも水を蒸発させてつくった塩というわけで、これは岩塩に対する言葉と考えられます。

粉砕塩(クラッシュド・ソルト)

 岩塩や天日塩が粉砕機で粉砕された(クラッシュド)塩で、篩(ふるい)い分けにより粒径をそろえて製品とします。岩塩の粉砕塩で食用になるのはまれにしかありません。
 天日塩の粉砕塩で食用の塩はヨーロッパでかなり出回っております。

圧縮成型塩(コンプレッスド・ソルト)

 粉砕塩やせんごう塩に圧力をかけて圧縮し(コンプレッスド)、一定の形にした塩で、一般用には動物に与える塩や軟水器のイオン交換樹脂を再生するために使われます。
 まれに塩分補給のために携行用の塩錠剤とされることもあります。

強化塩(フォーティファイド・ソルト)

 栄養改善のために、塩にある成分を添加して栄養強化された(フォーティファイド)塩です。日本では見かけませんが、外国ではヨード欠乏症予防のためにヨード添加、虫歯予防のためにフッ素添加された塩があります。
 また、胡椒のような香辛料(コンディメント)を加えた塩はいろいろな種類の料理向けに数多くあり、コンディメント・ソルトといわれています。

その他の塩の呼び方

 これまでに述べた他に一般的で通常の(コモン)塩という意味でコモン・ソルトという言い方があります。
 また、使い方から食卓塩(テーブル・ソルト)、調理塩(クック・ソルト)という言い方もあります。

イオン交換膜製塩法でつくられた塩の呼び方

 以上、いろいろな塩の呼び方を列挙してきましたが、原料、製法、製品の形によって名付けられていることが分かります。
 そこで、イオン交換膜製塩法でつくられた塩の呼び方ですが、前例のような言い方では、原料を表に出せば海塩となり、製法を表に出せばせんごう塩となります。
 イオン交換膜は、海水の天日濃縮のよいにイオン交換膜による海水濃縮に使われるだけで、天日で塩の結晶までつくる場合と違って、イオン交換膜では塩の結晶ができず、濃縮で得られたかん水をせんごうして塩をつくるからです。
イオン交換膜製塩法の原理
 イオン交換膜製塩法は、その昔の入浜式製塩法、流下式製塩法という言い方と同じ発想でつけられた名称です。入浜式も流下式も海水を濃縮する方法を示しているだけで、その後に濃縮された海水をせんごうして塩をつくり、その塩はせんごう塩をいわれています。
 そこでイオン交換膜製塩法に替わる言い方としては、海水透析製塩法、電気透析製塩法、膜分離製塩法、膜透析製塩法、海水分離製塩法、などが考えられます。
 ここで透析という言葉が出てきましたが、これは血液透析で使われている血液中の老廃物を透析膜(人工腎臓の働きをする)によって腎臓の代わりに除く工程を表す言葉です。この場合、老廃物は拡散によって膜を通り抜け血液が浄化されます。
 製塩でも同じ現象で、海水を透析して塩分を海水から分離しますが、この時、電気を用いることにより拡散だけでなく泳動(電気を運ぶイオンを移動させる)を利用して効率を向上させることができます。 血液透析という言葉と同じ考え方を採れば、海水透析製塩法がよいでしょうし、短い言葉にするとすれば、膜を使って海水から塩分を分離するので、膜分離製塩法が良いのかもしれません。
 いずれにしても分かりやすい言葉になりそうになく、ご期待に添うような言い方を考え出せない答えとなりましたが、考え方を理解して頂きたいと思います。
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イオン交換膜製塩法

 この技術は日本で開発されたことから、外国の言葉を参考にすることができません。またイオン交換膜製塩法については、既にこれまで詳しく述べました(イオン交換膜製塩法でつくられた塩は化学塩でしょうか?)が、再度、誤解を避けるために言っておきたいことは、化学的合成による製塩法ではない、ということです。また、重要な特徴の一つは、環境汚染による海水の汚染に対しても安全な塩がつくれる、ということです。イオン交換は人間の体の中でも行われていることですから、そのような工程を経てつくられた塩に違和感を持つことはないのです。しかし、イメージが良くないとのことですので、言い方を考えてみましょう。その前にいろいろな塩について考えてみましょう。
イオン交換膜電気透析槽