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たばこ塩産業 塩事業版  1998.06.25

塩なんでもQ&A

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

フレ−ク塩、樹枝状塩ってなに?

 

 4月号の「塩なんでもQ&A」…「粒度は効き目や用途の重要な要因に」を読み、塩の粒度や粒径、かさ密度について理解することができました。かさ密度、そして水分の多少によって塩の効き目が違ってくるというお話には、なるほどな、と思いました。その中で、フレ−ク塩、樹枝状塩などが取り上げられていましたが、これらについて、どんな塩で、どのようにして作り、どんな場合に使われているのか具体的に教えてください。また、それらは市販されているのでしょうか?入手するにはどうすればいいのでしょうか?                   (山形県・主婦)

 特殊な形の塩について興味を持っておられるようですが、塩の作り方によって塩の形は変わってきます。大量に効率良く作るか、効率が悪くて少量しか作れないが、特別な付加価値があるので作る、と言ったことで塩の商品が出来てきます。少し理屈っぽくなりますが、まず、作り方によって塩の結晶形が変わることを説明し、それから用途、その他についてお答えします。

塩結晶の基本形は立方体

 塩が水に溶けているときには、プラスのナトリウム・イオンとマイナスの塩化物イオンになっています。水の中から塩が結晶してくるときには、プラスとマイナスのイオン同志が引き合って順序よく図1に示すように、ナトリウム・プラス・イオンと塩化物マイナス・イオンが交互に並びます。塩結晶中のNa+とCl-の配列

  図−1 塩結晶中のNa+とCl-の配列

このような結合をイオン結合と言い、塩の結晶は典型的なイオン結合をした化合物として化学の教科書に出てきます。四角い小さな磁石がいくつも規則正しくくっつき合って並んで大きな塊になるように、塩の結晶も成長していきます。
 この状態は、ナトリウム原子の回りを前後、左右、上下(六方向)に6個の塩素原子が取囲み、塩素原子の回りを同じように6個のナトリウム原子が取囲んだ形となっております。したがって塩の結晶の形としては立方晶であり、立方体、すなわち、サイコロの形となります。これが塩結晶の基本形ですが、結晶成長の仕方によって形が変わってきます。その様子を村上は図2のように整理しています。いろいろな塩の形

     図−2 いろいろな塩の形〈村上, 海水誌, 40, 17 (1986)より〉

 塩の結晶が水の中に浮かんでいる状態(真空式蒸発缶の中)で結晶が成長する時には、六方向に均等に成長して結晶は大きくなっていきますので、サイコロ形のままで大きくなります。しかし、結晶が大きくなってくると、液の流し方によって結晶の角が取れて凸レンズ状の塩や球状の塩になります。

成長の条件でさまざまな形に

 塩の結晶が底に沈んだ状態(天日塩田)で成長する時には、前後、左右、上方向、すなわち、五方向には成長しますが、下方向には成長しません。となりの結晶と接触してくっつけば、成長する方向はさらに減って四方向なり三方向に成長していき、結晶の隙間は埋め尽くされて、表面は角張った面が無秩序に並んでごつごつした結晶の塊となります。収穫した塩の塊を砕けば、結晶の形としては無定形になります。
 平釜塩は液が沸騰していますので底、液中、液表面で結晶は成長しますが、液中、液表面で成長する結晶は大きくなって重くなると底に沈んで、底の結晶と接触してくっつき、ごつごつとした表面を持つ塩の塊となります。
 アルバ−ガ−法のように液を沸騰させないで、別の加熱器で加熱した液を平釜に入れ、静かに液表面で結晶を成長させますと、結晶は前後、左右、下方向の5方向に成長し、液に触れている面だけが成長していきますので、液表面はかさ蓋が出来たように一面薄い塩の被膜で覆われ、フレ−ク(鱗片)結晶ができます。液表面の温度が下がってきますと、フレ−ク塩は沈み液表面に塩の単独結晶が浮かびながら成長し、結晶が重くなって沈んでいくにつれて、写真1に示すようなホッパ−形のトレミ−結晶ができます。
 産業的に塩を作る場合には、以上のような形で塩の結晶ができてきます。しかし、結晶の形を変える晶癖剤、例えば、フェロシアン化カリウムを加えると、結晶の形は写真2に示すような樹枝状となります。

「溶けやすさ」「付着性の良さ」で各種食品に使われるフレーク塩

塩商品の形

 通常、塩商品の結晶形は立方形、球形、フレ−ク形、無定形です。しかし、これだけでは消費者のニ−ズを満たせませんので、これらの形の塩をいろいろな形にプレス加工して成型した商品があります。例えば、牛に舐めさせるように大きな塊とした四角柱や中心に穴を開けた円筒形の塩、シ−ト状にプレスして砕いた塩、ア−モンド状のブリケット塩、錠剤としたタブレット塩などがあります。

塩結晶の形と用途

 一般的な用途には立方体の塩が使われます。しかし、この形の塩ではユ−ザ−の要求を満たしにくかったり、満たせない場合、あるいはより使いやすい用途では、別の形の塩が使われます。例えば、4月号に書いたように、かさ密度を小さくして他のものと混ぜやすくするにはフレ−ク塩が使われます。フレ−ク塩は溶けやすいのでバタ−やチ−ズの製造で使われます。また、付着性も良いのでポップコ−ン、ピ−ナッツ、プレッツェルなどに使われます。ブリケット塩は溶かしやすいのでイオン交換樹脂の再生用に使われます。タブレット塩は一錠の重さがほぼ一定ですので、決められた量を機械的に、あるいは缶詰などに自動的に添加する場合に便利です。
 球状の塩や粒の粗い粉砕塩は、凍結した道路表面の氷に孔を開けて路面から氷を剥離させるのに適しています。また、粉砕塩はざくざくした感じで鋭く尖った角があるので、魚肉に突き刺さるため、魚の塩蔵用に適しています。

塩の入手

 これまで述べた塩は樹枝状塩を除いて大抵の物は入手できます。しかし、家庭用で使われることが少ないので、小売店には置いてない物が多いと思います。塩の卸売りをしている塩元売店、または塩事業センタ−に問い合わせれば入手できると思います。
 樹枝状塩は国内では製造されておりません。樹枝状塩を作るために添加するフェロシアン化カリウムが食品添加物ではありませんので、食用塩としてはありません。しかし、塩の固結を防止するために食用ではない塩に使われることはあります。トレミー結晶と樹枝状塩の写真