たばこ塩産業 塩事業版 1998.4.25
塩なんでもQ&A
(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事
橋本壽夫
粒度は効き目や用途の重要な要因に
先日、『塩の粒度』や『塩の粒径』という言葉を耳にしました。これは塩の結晶一粒一粒の大きさと考えていいのでしょうか?もしそうだとすると、料理の味付けでよく「お塩1杯」とか「小さじで2杯」とかいいますが、粒度、粒径が大きい塩と小さい塩とではすき間の違いがありますから、同じ大さじ1杯でも厳密にいえば分量が違うことになりますね。普通の料理ならともかく、塩分を制限されている人などにはちょっと気にかかる問題かな、と思います。それともごく小さいすき間のことで、そのへんはあまり気にしなくともいいのでしょうか? (千葉県・栄養士)
粒径や粒度は使用上の重要な判断材料
塩の品質を表す言葉の一つとして塩の粒径とか粒度が使われます。これは塩を使う上で重要な判断材料の一つです。例えば、塩を水に溶かす場合、粒径が小さければ、すぐ溶けてしまいますが、大きいとなかなか溶けません。また、スナック菓子に塩をまぶして付けようとすると、小さな粒の塩でないとお菓子には付きません。しかし、同じ付ける塩でもクラッカーとかプレッツェルにつける塩は大粒の塩でなければなりません。塩粒をカチッとかみ砕く感触と、口の中で塩味が混ざって広がっていく感触を楽しむお菓子であるからです。
さて、塩の粒径といえば、塩の結晶の大きさを表す言葉ですが、塩という商品は同じ大きさの塩の結晶でできているわけではなく、いろいろな粒径の塩が混じりあって入っていますので、通常、幅で表します。例えば、粒径300μm(0.3 mm)から400μm(0.4 mm)の塩といった具合です。
粒度という言葉は、多くの大きさの塩粒からなっている塩を代表する大きさを表していますので、例えば、粒径350μmの塩といえば、粒径350μmの塩を中心に上下300μmから400μmまでの粒径の塩が混ざったものです。
いずれにせよ、塩という商品はいろいろな大きさの塩が混ざった物であるため、使う上では粒度分布が重要になります。つまり、どれくらいの大きさの塩がどれくらいの割合で混ざりあった塩であるかによって、使い勝手が違ってきます。使い手の要望(粒のそろっていない幅広い粒度分布が良いのか、粒のそろった幅の狭い粒度分布が良いのか)にしたがった粒度分布を持つ塩を提供することが必要になってきます。
結晶の大きさなどで変わる「かさ密度」
一粒の結晶が全く同じ粒径でできている粒度の塩があるものとして、その粒度の違う塩を比較すれば、塩の一粒一粒が大きければ大きいほど粒と粒の間には大きなすき間ができることになります。しかし、実際には、いろいろな大きさの塩が混ざりあって折、大きな塩と塩の間に小さな塩が入ってすき間を埋めることになりますので、単純に粒径や粒度が大きければすき間が大きいとはいえません。
塩をかさで見た目分量で使う時には、このすき間は非常に大きな意味を持っています。料理のレシピに調味料として塩大さじ1杯などと書かれていますが、同じ大さじ1杯の塩でも、塩味の効き方が違うのは塩のかさ密度や水分の違いによることがあります。塩のかさ密度はかさ比重ともいいますが、すき間の大きさによって大きく変わりまして、同じかさの塩と水の重量を比べた値です。水の比重は2.16です。つまり塩は水の2.16倍重い物であることを表しています。しかし、商品としての塩は、そのような比重の塩の結晶がいくつも集まった状態で、結晶と結晶の間にはすき間がありますので、見掛けの比重(かさ密度)としては2.16のほぼ半分からそれ以下の値になります。結晶の大きさや形、粒度分布、詰込み方によってすき間の大きさが変わってきますので、かさ密度も変わってくることになります。
(財)塩事業センターが販売している塩と参考までに天塩、伯方の塩についても表に記載しました。料理をする時に使うクッキングソルトと新家庭塩や天塩を比較すると、ゆるみ密度でそれぞれ1.33/0.89=1.49倍と1.33/0.83=1.60倍、クッキングソルトの方が重いので、新家庭塩や天塩と比べてそれだけたくさんの塩が入り、クッキングソルトを使うと塩辛くなり、新家庭塩や天塩を使うと塩の効き方が悪いということになります。
銘柄別の「かさ密度」 |
銘柄または塩種 |
かさ密度 (g/cm3) |
水分 (%) |
軽く詰めた場合 |
固く詰めた場合 |
クッキングソルト |
1.33 |
1.33 |
0.01 |
食卓塩 |
1.38 |
1.41 |
0.01 |
食塩 |
1.16 |
1.30 |
0.10 |
新家庭塩 |
0.89 |
1.36 |
5.0 |
天塩 |
0.83 |
1.33 |
6.1 |
伯方の塩 |
0.83 |
1.15 |
4.4 |
フレーク塩 |
0.72 |
- |
0.01 |
微粒フレーク塩 |
0.85 |
- |
0.01 |
結晶の大きさや形、粒度分布、詰め込みによって変わる「かさ密度」 |
水分量の多寡で異なる正味の重さ
サラサラした塩は乾燥されていますので水分が少なく、シットリした塩は水分が多く入っています。
したがって、同じ大さじ1杯でも、水分量によって正味の塩の重さが違ってきます。クッキングソルト、食卓塩、食塩は乾燥された塩ですので、水分は0.01から0.1%ですが、新家庭塩、天塩、伯方の塩の水分はそれぞれ大体、5.0, 6.1, 4.4%あります。
したがって、水分の多い湿った塩を使う場合には、クッキングソルトのような乾燥された塩の95%前後の量しか使っていないことになります。
効き目を左右する「かさ密度」「水分」
新家庭塩や天塩のように水分の多い湿った塩でかさ密度が小さいと、見た目にたくさん塩を使ったように見えても、乾燥したかさ密度の大きいクッキングソルトと比べますと、同じ大さじ1杯の塩(かさが同じとする)でも、かさ密度と水分との相乗効果で実際にはクッキングソルトの3分の1ぐらいしか使われていませんので、クッキングソルトと比べますと塩辛さは和らげられます。クッキングソルトや精製塩に比べて天塩や伯方の塩がマイルドであるようにいわれるのは以上のような理由によるものと思われます。さらに天塩の場合には、塩化マグネシウムが1.6%ほど含まれていますので、一層塩の効き目が悪くなるというわけです。伯方の塩と新家庭塩は同じ程度の効き目になると思われます。かさ密度のもっと小さいフレーク塩(平釜で煮詰めた時に蒸発水面でできる薄い板状の塩)では、一層効き目は悪くなることが考えられます。このような塩は溶かして使うよりも、振り掛けて固形のまま食べるような使い方をすれば、少ない塩で塩を味わえて効果的です。塩分を気にされている方にはお勧めです。
日本では食品添加物の関係で食用塩としては販売されておりませんが、外国では樹枝状塩というかさ密度の小さい塩があります。通常、塩の取り引きは重さで行われますが、アフリカではかさで取り引きされる所があり、樹枝状塩が輸出されているそうです。
塩の性質にも影響する「かさ密度」
かさ密度は塩の効き目に大きな影響を及ぼすだけでなく、使う上で重要な要因となることがあります。例えば、家庭で赤飯に振り掛けるごま塩をつくった場合、ごまと塩は良く混ざらず困ったことがありませんか?ごまが塩の上の方に固まって乗っており、つまむ時にはごまが多くつままれ塩が少なく、振り出す時には塩が多く振り出されごまが出てこないことになります。これは、油と水が混ざらないで、水の上に比重の軽い(密度が小さい)油が浮いているのと同じことです。
塩のかさ密度よりもごまのかさ密度の方が小さいから分離してしまい混ざらないのです。
このようなときには、塩のかさ密度をごまのかさ密度と同じようにする必要があります。
そのためには、ごまのかさ密度と同じくらい小さなかさ密度の塩を使えば良く、手段としてはフレーク塩を使うとか(湿った塩では流動性が悪く振り出し容器では使えません)、すき間を持たせてかさ密度を小さくした顆粒状の塩を使うことです。
機会があれば、ごま塩の商品をよく観察して見て下さい。顆粒状の塩が使われていることが分かります。 このように小さいすき間といえども塩の性質に大きな影響を及ぼし、塩の効き目や塩の用途にとって重要な要因となります。塩の粒度から密度、塩味の強さ、塩との混合まで話を広げてお答えしました。
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