たばこ産業 塩専売版 1994.09.25
「塩と健康の科学」シリーズ
日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役
橋本壽夫
アメリカの高血圧治療指針における食塩の問題
食塩と高血圧の問題は統一的に片づけられないで、いろいろな場合があることからケース・バイ・ケースで処理すべきであるとの考え方から、一律に減塩を強いることの是非を問う意見がアメリカでは出ているが、減塩政策は依然として続いている。
高血圧の予防と治療、管理を目的として国民高血圧教育計画の二十周年会に当たり第五回高血庄診断、評価、治療に関する国民合同委員会報告書が一昨年に出された。高血圧の診断、評価、治療に関して科学的な事実に基づいて書かれており、地域社会の高血圧対策で医者や保健関係者のガイドラインとなるものである。
この中で食塩、その他ミネラルと他の食事要因について記載されていることを紹介する。
食塩摂取量
食塩摂取量と血圧との関係は疫学調査や臨床試験で明らかにされている。
1万人の調査で、食塩摂取量を平均して6グラム/日下げると最高血圧が2.2 mmHg下がり、47,000人の調査では、最高血圧が5〜10 mmHg下がるという結果がある。
25歳から55歳の年齢になるまでに、人は6グラム/日の食塩摂取量の低下で最高血圧の上昇を9 mmHg抑えられるという。多くの治療で減塩によって血圧が下がることがある。
短期間の試験では、高血圧者が程々に減塩すると、平均して最高血圧が4.9 mmHg、最低血圧が2.6 mmHg低下した。50歳から59歳の年齢の人による試験では、3グラムの減塩を5週間以上続けると、高血圧者で最高血圧が平均して7 mmHg下がり、正常血圧者で5 mmHg下がった。
食塩摂取量の変化に応じて血圧が変化するのは人によって異なる。黒人、老人、高血圧患者は食塩摂取量の変化に敏感である。
アメリカの平均食塩摂取量は9グラム/日以上であるので、程々に減塩する必要があり、その量は6グラム/日以下にすることが勧められる。適当な助言を得られれば、食事でこの量を達成することはできる。この程度の減塩によって血圧が管理されれば、薬剤治療をしなければならない第一段階の高血圧患者(最高血圧140〜159 mmHg、最低血圧90〜99 mmHgの軽症高血圧患者)では、薬を減らせる。
カリウム
高カリウム摂取量は高血圧の進行を抑える効果があり、カリウム欠乏は血圧を増加させる。したがって、できるだけ食事で血液中のカリウム濃度を正常に維持するようにする。
利尿剤治療中に低カリウム血症になれば、カリウムを含む食塩代替物、カリウム補給剤、カリウムの少ない利尿剤を使ってカリウムを補う必要があるが、塩化カリウムやカリウムの少ない利尿剤の使用は高カリウム血症にならないように注意しなければならない。
カルシウム
すべてではないが多くの疫学調査はカルシウム摂取量と血圧との間に逆の関係を示している。
カルシウム欠乏は高血圧発症の増加と関係があり、低カルシウム摂取量は血圧に及ぼす高食塩摂取量の影響を強める。
カルシウム摂取量の増加は何人かの高血圧患者については血圧を下げるかもしれないが、その効果は小さく、患者に利益があるとはいえない。
したがって、血圧を下げるために一日許容推奨摂取量800〜1,200ミリグラム以上のカルシウム摂取量を勧める理由はない。
マグネシウム
低マグネシウム摂取量と高血圧との間に関係があるといわれている。しかし、血圧を下げるためにマグネシウム摂取量を増やすことを勧める確かなデータは今の所ない。
その他の食事要因
脂肪摂取:脂肪の総摂取量や飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸との比は変わっても血圧にはほとんど影響しない。
大量のオメガ-3脂肪酸は血圧を下げるけれども、高血圧の治療や予防には勧められない。
しかし、低脂肪血症は冠状動脈疾患の危険因子でもあるので、降圧治療に付随して必要であれば食事や薬剤で治療する。
カフェイン:カフェインは急に血圧を上げるが、この上昇効果に対する耐性も急速に整えられる。したがって、心臓病やカフェインに対して過剰な感受性がなければ、カフェインの入った飲み物を飲むことを制限する必要はない。
炭水化物とタンパク質摂取:食事中の炭水化物やタンパク質を変化させた実験で血圧に及ぼす影響は示されなかった。
ニンニクとタマネギ:実験ではニンニクとタマネギを増やしても血圧に何の影響も与えなかった。
以上が記載されている内容で、専門家のガイドラインであるため一部専門用語があって分かりにくかったかと思われるが紹介した。
食塩については先月にも書いたが、1日当たり6グラムの摂取量が勧められており、減塩側の立場に立って、それに有利な文献を引用して6グラムの証拠としているが、減塩によって悪い影響が出るという科学的文献には触れていない。
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