たばこ塩産業 塩事業版 2005.03.25

Encyclopedia[塩百科] 44

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

日本の塩専売制度廃止のその後とアメリカの状況

 平成9年4月に塩専売制は廃止されたが、5年間の食用塩輸入規制とその後3年間の関税措置が採られてきた。それもこの4月からなくなり、完全に自由化される。この間に大きな変化があった。当初心配された安価な中国塩の輸入に対する不安は、かの国の内需拡大で輸出余力がなくなったことから、当分の間なかろう。市場に氾濫する様々な商品に対する安全性、信頼性を裏付ける表示問題の検討は現在業界内で進行中である。固結防止剤YPS(フェロシアン化化合物)食品添加物が認可されたことは輸入攻勢に対して外堀を埋められた感じである。企業の買収・合併による巨大化は日本でも現実の姿となってきた。買収・合併はアメリカで盛んに行われてきた。現在、アメリカのせんごう塩生産状況はどうか、インターネットのホームページから垣間見た。

統廃合で5社に アメリカ

 かつてアメリカには多くの製塩会社があった。食用塩であるせんごう塩を生産している会社を見ると、企業買収・合併、統廃合により5社に絞られている。その内1社はホームページを持っていない。全体的には図1に示すように、400万トン強でほぼ一定している。売上高は図2のように単価の上昇を受けてか次第に伸びている。20世紀には蒸発缶のソルティングアップ(塩塊付着)防止、スケール防止でエネルギー消費量を低下させてきた、と述べている。

      アメリカのせんごう塩販売量と販売額

 日本の製塩会社はユーザー対応で包装形態を含めて塩種の多様化を進めてきた。アメリカでは個別会社の生産量は不明であるが、どのような品揃えで対応しているかはホームページを見ればわかる。

北米の有力企業 Morton Salt
 歴史を簡単にたどると、Morton Saltは中西部の小さな塩販売会社として1848年にシカゴで創業した。製塩装置による塩生産は1890年から始めた。現在でもシカゴに本社があり、北アメリカで家庭用、水処理用、工業用、農業用、融氷雪用塩の主要な生産者であり販売者である。この様な形態になったのは1910年のことであった。湿気の多い気候でもさらさら振り出される塩を開発し、1911年に「雨が降っても、振り出せる」と言うスローガンで食卓塩をこぼしながら傘を差して歩いている少女を描いて全国的な宣伝活動を始めた。1914年から食卓塩の包装を青色にし、少女のデザインも1921,1933,1941,1956,1968年と変わってきた。
 1924年に甲状腺腫を予防するため食卓塩にヨードを添加した。1950年代には高速道路の建設がブームとなり、1959年に融氷雪用塩を開発した。1951年には家庭の軟水器用にペレット成型塩の販売を始めた。1970年には食事と健康に関心が持たれ、食塩代替物の販売を始め、3年後には塩化カリウムとの混合物であるライト・ソルトを出した。この塩は日本にも輸入されている。1970年代には塩と胡椒を混合した調味塩を出し、1980年代の半ばにはニンニクを入れた調味塩を出した。
 Morton Saltではせんごう工場を8工場持っており、カナダにも3工場持っている。食用塩として表1に示す製品の品揃えをしている。この他に家庭で肉調理用に3種類の塩を製造・販売している。

現在は5工場 Cargill Salt
  歴史は1940年代にミシシッピー川を下って穀物を運ぶことから始まった。1955年に帰り荷としてルイジアナ岩塩を運び始めた。1962年にルイジアナで買収した岩塩を採鉱し塩を運んだ。1997年に北アメリカのAkzo Nobel Salt社を買収し、塩事業量が2倍になった。年間1,800万トン以上の塩製品(岩塩等を含む)を販売している。せんごう工場は5工場を持っている。Cargill Saltは表1に示すように食用塩と食品加工用の塩を販売している。これまで買収してきた製塩会社が販売していた銘柄名はそのまま残していることが表1から判る。

100以上の商品 North American Salt
 North American Saltについてはホームページに会社の歴史が紹介されていない。せんごう工場は2工場持っているだけである。また、食用塩の商品としてはSpecial Purity BrandPrivate Labelとしか記載されておらず、Private Labelについては100件以上の商品を小売店で販売していることを記載している。

動物飼料用を United Salt
 会社の歴史は紹介されておらず、せんごう工場はテキサス州ヒューストンに1工場あるだけで、動物飼料用の塩に力を入れており、食用塩製品は4銘柄しかない。

日本の現状

安全で品質が良くて安定生産の優れた技術〈イオン交換膜製塩法
 制度廃止後の8年間でイオン交換膜製塩法については現在までに1社廃業、投資会社へ2社買収された後合併されて1社となり、5社6工場となった。他に1社が輸入塩の溶解再製工場を操業している。制度廃止直後には中国のせんごう塩輸出攻勢が心配されたが、国内需要の拡大から今では輸出余力はなくなった。
  一方、アメリカの状況を見ると、ここでは述べなかったがアメリカの製塩会社がヨーロッパの製塩会社を買収しているので、やがて日本にも手を伸ばしてこないとの保証はない。
  制度廃止後、雨後の竹の子の如く、多くの高価な特殊製法塩が市場に氾濫してきた。当然のこととして塩事業センター塩(旧専売塩)の小物商品の販売量は漸減してきた。
  最近になって表示問題から販売量の減少に歯止めがかかり、食品展の塩ブースも減る傾向にある。消費者に誤解を与えないように表示問題が検討されており、正確な表示が行われるようになると、消費者も適正な判断を持って商品を買うようになるであろう。こうなると特殊製法塩製造者も適正な品質の表示をした商品を販売する者だけに自ずと淘汰されてくる。
  しかし、筆者としてはイオン交換膜製塩法は溶存物質による汚染海水に影響されにくく、安全で品質が良く、安定して生産できる優れた技術であると思っている。
  それだけでなく、地球温暖化防止の点からも優れている。
  1トン当たりの石炭消費量が2.15トンの平釜せんごう法よりも0.27トンの真空式せんごう法との組合せによるイオン交換膜製塩法はエネルギー消費量格段に少なくCO2排泄量の低減に寄与する。塩1万トンの差は石炭21,500トンと2,700トンの差になり、エネルギーの無駄使いと環境汚染を起こし、地球の温暖化を促進させているように思える。