たばこ塩産業 塩事業版 1997.06.25
塩なんでもQ&A
(財)塩事業センター技術部調査役
橋本壽夫
海水からの製塩とにがり成分
「塩なんでもQ&A」─ 塩のうま味とは?─
で『にがりの成分はナトリウム、マグネシウム、カリウム、硫酸など各イオンの混合物』とありますが、その辺のところを詳しく教えて下さい。また、「天然の塩、自然の塩」という小見出しの部分に『自然にできる塩の中のにがり成分の量は、主として塩の結晶のまわりについているだけですから、4%程度になります』とあり、「自然塩の味」という小見出しのか所に『日本には自然につくられた天日塩が輸入されていますが、にがりを除くために洗浄されていますので、にがり成分としては0.2%程度となっております』とあります。洗浄をして本当に4%のものが0.2%にまで下がるのでしょうか?その際、どんな洗浄をしているのでしょうか?
(静岡県・会社員)
海水の主成分
海水の中には地球上に存在するあらゆる元素がいろいろな形で溶け込んでいると考えてよいでしょう。しかし、それらのほとんどは微量からごく微量、痕跡といった濃度でしか存在しておりません。
海水成分の大部分はもちろん水ですが、それを除くと塩化ナトリウム(塩)が一番多く含まれており、他に硫酸カルシウムや硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムや塩化カリウムなどが多く含まれています。これらの成分が主成分で、海水中の水分をすべて蒸発させれば、これらの塩類が固形物として残ります。海水中の固形物濃度は3~3.5%程度で、そのうちの78%が塩化ナトリウムです。
したがって、1 ℓの海水の中には、3~3.5%掛ける78%の答えである約23~27 gの塩化ナトリウムがあることになります。
海水の濃縮
海水を濃縮していくと、どのような結晶がどのような順序で出てくるのでしょうか?
海水から実験的に塩を採るために、鍋に海水を入れて炊き詰める記事をよく見かけますが、煮詰めども煮詰めどもなかなか塩が出てこないので、やっと採れたときの感動が書かれています。
それだけ海水から塩をつくることは大変な作業なのです。
海水100 mℓを常温で蒸発させたときに、結晶が析出してくる様子を図1に表してみました。
この図には天日塩田で塩づくりをする時の様子や、昔、日本で行われていた流下式塩田製塩法の様子も合わせて、温度条件が異なるので概念的に理解できるように記載しました。
まず、海水濃縮から説明します。
この図では海水100 mℓの中に3.35098 gの塩分が含まれており、図中の数字がそれぞれの塩類の含有量を表しています。
濃縮されて行く様子は対数目盛で(目盛りの幅が等間隔ではなく、だんだん狭くなっております。ただし、桁を表す目盛りは等間隔です)表されているので、読み取りにくいかと思いますが、できるだけ分かりやすいように数値をあげて説明します。最初に100 mℓあった海水は55 mℓぐらいまで減りますと、酸化鉄(Fe2O3)や炭酸カルシウム(CaCO3)が析出し始め、36 mℓぐらいまで減るまでに酸化鉄は100%の0.00012 gが析出してきます。
一方、炭酸カルシウムの方は11 mℓぐらいになるまでに、100%の0.01143 gが析出してきます。液量が20 mℓになると石膏(CaSO4)が析出し始め、液量が減るにつれて急速に析出しますが、100%析出させるには1.6 mℓぐらいになるまで減らなければなりません。
目的とする塩(塩化ナトリウム)の析出は、液量が10 mℓぐらい、すなわち最初の液量が10分の1ぐらいまで減ったとき、やっと始まります。液量が1mℓ以下に減るまで濃縮しますと、ほぼ100%の塩が出てきます。
しかし、この間に、石膏も一緒に出てきますし、液量が2.4 mℓぐらいまで減ったところから、硫酸マグネシウム(MgSO4)も出始めます。
海水濃縮製塩
図1を製塩の観点からみますと、まず、天日塩田製塩法では、海水を取り入れて溜めた濃縮池(蒸発池ともいいます)で、石膏が出始めるまで濃縮して行きます。
ここまで濃縮された海水(以下、かん水とよびます)は調整池に移されて、石膏を沈殿させます。ここで80%近い大半の石膏が沈殿分離されて、塩は出始める前の塩の飽和かん水ができます。この飽和かん水を結晶池に移してさらに濃縮させますと、塩が結晶池の底に出てきます。
この時、石膏も塩の結晶の周囲に出てきます。しかし、あまり濃縮し過ぎると硫酸マグネシウムが出てきますので、それが出てこないところで濃縮を止め、残った液であるにがりを結晶池から排出します。大体、塩の85%が結晶池で析出し、残った15%はにがりの中に入ったままで捨てられます。
にがりを排出後、塩が結晶して出てきた塩結晶の層をすき起こし、掻き集めて採塩します。排出されたにがりの中には、結晶になっていない塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムなどがあります。
次に、流下式塩田製塩法では、液量が最初の5分の1から6分の1程度になるまで流下式塩田で濃縮し、できたかん水を真空式蒸発缶の濃縮缶で塩の飽和かん水になりまで濃縮し、飽和かん水を結晶缶に移して濃縮により塩の結晶を析出させて集めます。もちろんこの時にも石膏が一緒に出てきますが、これは沈降分離器で塩と分離されます。硫酸マグネシウムが析出する前に濃縮を止めにがりとして排出します。
にがりの成分
図1からにがりの成分はいろいろな塩類の混合物であることが分かると思いますが、にがりの中では、それぞれの塩類はイオンとなっておりますので、ご質問のような表現となります。
にがりの成分組成は、にがりの濃縮度によって異なりますが、概略的に図中の含有量から計算してみますと、各イオンの組成比は図2のようになります(ただし、臭化マグネシウムは除いてあります)。
図2 にがり組成の例
天日塩の洗浄
輸入されている天日塩は洗浄されたものです。
にがり成分のミネラルが4%もあるのに洗い流してしまうのは、もったいないではないかと思われる人もおられるかと思います。しかし、図1を見ればお分かりのように、石膏が塩と一緒に析出して混じってきます。
これはミネラルですが、人体が利用できるものではありませんし、塩をいろいろと利用するときに邪魔になる不純物ですので、洗い流さなければなりません。不純物という点では、塩の結晶のまわりについているにがり中のマグネシウム、カリウム、硫酸の各イオンも同じです。
また、結晶池では高度好塩性(濃い塩水の中で好んで繁殖する細菌類)が繁殖し、塩が赤色や淡紫色になることがあり、塩の外観品質を著しく損ねます。したがって、天日塩は飽和かん水と海水で洗浄されます。
塩を淡水で洗うときれいになりますが、塩が溶けてしまいますので、歩留まりが悪くなるため、洗浄には淡水は使いません。仮に使おうとしても、塩田は乾燥地帯にありますから、塩を洗うほどの淡水はありません。
まず最初に、洗浄で塩が溶けないように飽和かん水で洗います。塩の結晶に付着している石膏を落とさなければなりませんので、洗浄器にはスクリューが2本あるスクリュー・コンベアーが使われます。スクリュー・コンベアーによって飽和かん水の中を塩の結晶同士がこすれあって運ばれているうちに、塩結晶に付着している石膏は洗い落とされます。
スクリュー・コンベアーを出た塩はベルトコンベアーの上でも飽和かん水で洗浄されて不溶解物を洗い落とされ、その後、仕上げに海水をかけて洗い、塩に付着している飽和かん水を海水に置き換えます。 洗浄された塩は貯塩場に積み上げられて、時間をかけて水切りをされます。この洗浄で、塩に付着していた細菌類も洗い流され、真っ白いきれいな塩になります。
にがり成分の減少
にがりは図1から分かりますように、海水が40倍以上(100 mℓ/2.4 mℓ)にも濃縮された物です。したがって、塩の結晶に4%付着しているにがりの塩類成分が40分の1の濃度の海水と100%置き換わるとすれば、塩類成分は4%の40分の1の0.1%になるはずです。
これで洗浄すれば、にがり成分が0.2%程度に減少することがお分かりいただけたと思います。
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