たばこ産業 塩専売版  1993.05.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社海水総合研究所所長

橋本壽夫

食塩の薬利効果

 消費者から食塩の効用について問い合わせの電話があった。「食塩が身体に役立つことはないか」とのことであった。食塩が悪者にされていることに対して反論を書き続けている私にとって、待ってましたと思わんばかりの問い合わせで、食塩摂取量と高血圧のことを話し始めたところ、どうも様子が変であり、よくよく聞いたところ皮膚病に効かないかとのことであった。このようなことも塩を販売する上では情報の1つとして提供する必要を感じたので、今回は話題を変えて、塩を食べないで利用するときの薬利効果を述べる。しかし、このようなことについては学術的な報告は少なく、経験的な民間療法として記事にされるくらいなもので根拠が明確でないことが多いが、海外記事を参考にして紹介する。
 フランスにVitelという雑誌がある。
  一昨年夏に「生命と塩」という記事が掲載された。その中には塩と美容、健康についてこれまであまり開いたこともない次のようないくつかの話題があった。

フレグモーネの予防

 フレグモーネ(蜂巣炎)という病気は、日本の女性にはないそうである。具体的な症状は分からないが、血行が悪く脂肪が固まっている症状のようである。日本人は多くの食塩を摂取するが、塩分の排泄作用がフランス人より優れているそうで、食塩摂取量の多い日本の食生活がフレグモーネの予防効果を発揮すると述べている。

皮膚病の治療

 北欧諸国では、疥癬などの皮膚病にかかった人たちは治療のために死海に行くそうである。
 海水の4倍以上の塩を含む水が皮膚病に効き、切り傷や刺し傷に少し塩を塗ると治りが早くなる。
 海水浴はにきびにも効き、死海で水浴すればリューマチや静脈の循環障害なども治すことができるそうである。
 私にも塩で皮膚病が治った経験がある。毎年12月頃から5月頃までアレルギー性鼻炎で悩まされるが、ちょうどその時期、必ず両足の膝上の内側部分が痒くなる。今年もお正月頃次第に肌が薄赤くざらざらとなり、その部分が手のひらくらいに広がってきた。
 そこで入浴の時、一度暖まってから患部に塩をまぶしつけ、しばらくしてから洗い流して再び風呂に入ることを始めた。この時、猛烈に患部が熱く感じるので、ぬるめのお湯にした。
 これを毎日続け、あまりに熱さがひどく感じられる時はその後少し休みながらも続けたところ、1ヶ月ぐらい経つとお湯がしみなくなり、肌の荒れは取れて薄さもなくなり皮膚病は治った。

日焼けの促進

 皮膚を滑らかにし、日焼けしやすくするためには塩マッサージが最適である。
 家で手軽に行えるように二種類の塩が開発されている。
 エプソン塩(硫酸マグネシウム)と海塩を大きめのコップに入れ、香料入りのシャワー用ジェルを少し加えてパテ状になるまでかき混ぜる。これを肌の粗い部分(足、ひじ、ひざ)に重点をおいて円を描くように、あるいはヘチマで擦り込むように塗る。ぬるめのお湯で洗い流し、その後モイスチャー・ミルクを塗る。
 足の疲労を取り除くには、冷たい塩水またはぬるい塩水に足を浸すと良いそうである。

塩風呂

 風呂の中にひとつかみの塩を入れると、疲れをいやす作用がある。
 海塩に海草を混ぜた製品が販売されており、風呂に一袋入れればストレスや疲労が15分で解消する。
 風呂の温度により効果が異なり、摂氏38度ではフレグモーネに効果があり、摂氏37度ではリラックス効果があり、摂氏36度では身体を活性化するそうである。
 温泉による治療効果は泉質によって異なるが、日本でも温泉場には効能書きが置かれている。
 フランスにも温泉がいくつかあり、治療効果をうたっている。
 例えば、臭素やマグネシウムが含まれているので消炎鎮痛効果があるとか、小児性のリンパ体質、くる病、神経障害、発育不全、精神活動不全、夜尿症、婦人科系では無月経症、子宮後傾、不妊症に効くといわれている。
 無力症患者や骨の疾患を訴える患者、慢性的な関節炎の患者にも勧められる。

喘息の治療

 これはTribune Medicale19911月号に掲載されていたルーマニアとソ連の岩塩坑で行われているアレルギーや喘息の治療に関する記事である。
 ルーマニアでは、喘息の治療を行っている岩塩坑が二ヶ所ある。空気は新鮮でアレルギー抗原がなく平均気温は摂氏12度または摂氏14度で、喘息の治療には理想的な条件だそうである。
 1回の治療は18日間行われ、年間2回の治療を受けることができ、これを3年間続ける。患者は毎朝、岩塩坑内で4間過ごし、地上に上がって昼食を食べた後、散歩するという日課になっている。若い患者
90%以上完治するそうである。
 ソ連では、1968年から喘息患者専用の病院が岩塩坑内に設置された。
 気管支喘息、慢性気管支炎、鼻カタルの治療が行われている。治療は通常1ヶ月間続けられ、反復治療後1年ぐらいしてから効果が現れる。
 症例の86%に、良い結果が報告されている。治療効果を発揮するのは基本的に塩の天然エアロゾルで、坑内の空気中の塩分含有量は空気7立方メートル当たり10ミリグラムに達することもある。
 このような状態に空調した部屋を作り、気管支喘息の治療と予防を行う施設が、ソ連ではすでに250の都市にできているそうである。
 健康管理産業のブームにあり、新規産業の開発に熱心な日本では、このような施設は案外早くできるのかもしれない。