たばこ産業 塩専売版  1991.06.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

減塩教育の一例とその実態

 平成元年度の国民栄養調査の中で塩分摂取量が発表された。それによると12.2グラム/日・人で前年と変わっていない。昭和60年度からの値を毎年追ってみると、12.1グラム、12.1グラム、11.7グラム、12.2グラム、12.2グラムで、どうやら下げ止まりの感がある。
 この5月に開催された日本栄養・食糧学会で血圧に影響を及ぼす栄養学的要因の一連の研究発表の中で、食塩摂取量についての研究発表があった。その時、朝日新聞は東京医科歯科大の田中教授に取材し、その記事が515日付けの夕刊に掲載された。塩分取りすぎ→高血圧、必ずしも結びつかず、という表題で、従来のマスコミの論調とは180度転換しており、世の中の塩に対する見方が少しずつではあるが、是正されつつあるように思われる。
 しかし、減塩への取り組みには根強いものがあり、小学生の頃から減塩教育をすべきであるとして児童やその保護者、さらには地域社会へ減塩運動を押し進め、小学校で減塩教育を行うための手引書作りを目指して実態調査、研究を行っている例がある。その報告書を読むといろいろと参考になることがあるのでここに紹介する。
 大阪府大東市では大東保健所の柳先生らが中心となり、国立循環器センターの上島先生も加わり、昭和60年から減塩運動に取り組んでいる。その報告が公衆衛生、体力研究、日循協誌などの専門誌に掲載されている。
 減塩運動の取り組み方としては次の四つの対策を進めている。
 @学校給食で減塩運動を進める。昼の学校給食で児童が3グラム近くの塩分を摂取しており、これを半減させるとともに、朝夕の食事、おやつも含めて半減させる。
 A外食産業で減塩運動を進める。たとえばメニューに塩分量を書く。減塩定食などのメニューを用意する。
 B高血圧者に減塩教育を行い、意識向上と友の会を結成する。
 C減塩の市民運動化と地域組織への啓発を図る。例えば、ミニコミ誌による減塩PR、講演会、薄味講習会を実施する。
 大東市立の全小学校児童の保護者に対するアンケート調査(回収件数9,690件、回収率92.9)結果の中で、塩分に関する主な項目を抜粋すると、食生活では表1に示す通りである。

表1 食生活概要 (ハイと答えた%)
漬物はいつも食卓にありますか 52.7
家庭での塩分取りすぎに気をつけていますか 78.0
塩分の多い食事を続けると高血圧になると思いますか 92.7
厚生省の塩分摂取量指導値10/日人を知っていますか 55.3
子供さんはスナック菓子のような塩辛いおやつが好きですか 69.6

 塩分の多量摂取が高血圧につながると90%以上の人が認識しており、約80%の人が塩分控えめにと心がけているようであるが、厚生省の指導値については約半数しか知らず、どこまで減塩すればよいかの認識は低いようである。これを家庭の状況によってみると表2のようになる。

表2 家庭状況による子供の食生活の差 (%)
共働きを 祖父母と同居 高血圧者と同居
している していない している していない している していない
漬物がいつも食卓にある 53.8 51.7 67.4 49.8 55.0 52.4
塩分の取りすぎに気をつけている 76.7 79.1 82.7 77.0 85.6 76.8
塩分の多い食事を取ると高血圧になると思う 92.2 93.3 93.1 92.7 96.2 92.2
厚生省の指導値を知っている 55.4 55.3 57.7 54.8 64.4 53.9

 高血圧者と同居している人は、塩分が高血圧の原因となると思っている人数が一番多く、塩分の取りすぎに気をつけている人数も多いし、厚生省の指導値もよく知っている。しかし、意外に漬物に気をつけていない人が多い。老人がいると、やはり塩分に関心を持ち気をつけている人が多いが、漬物については老人のいる方が多く漬物が食卓にある。
 以上が実態調査の結果である。これらをもとに昭和63年度からは児童とその保護者に対する減塩教育と指導をさらに進め、秋にはモデル校492名と対照校337名を対象としてアンケート調査を行っている。その結果は家庭での味つけの濃さ、かけ醤油の有無、のり玉のようなふりかけ使用の有無、ラーメン食の頻度、スナック菓子の好き嫌いなど、いずれの項目についても両校で有意差はなかった。案外無頓着に過ごされているようである。一年後の平成元年秋にも同様の調査を行ったようであるが、その結果はまだ発表されていない。
 30年、40年先に100人の内の半数以下の人たちだけが高血圧になるかもしれないということのために、育ち盛りの子供全員に減塩を強要する全体主義的な教育には疑問を感じる。高血圧の原因は塩だけによるものではなく、塩に対する感受性も人によって大きく異なり、減塩による発育不良、不眠、情緒不安定、無気力などの症状が出る危険性があるといわれていることも念頭において調査、研究をしてもらいたいものである。