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たばこ塩産業 塩事業版  2011.12.25

塩・話・解・題 81 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

岩塩鉱床の形成と品質について

 

 塩専売制度が廃止されてからいろいろな岩塩あるいは岩塩を原料にした塩製品が輸入販売されるようになった。岩塩がない日本では岩塩に関する知識に乏しく、何となく自然物でミネラルの多い良い物のように思われている。インターネットによる岩塩情報は販売促進に向けた優良誤認表示に当たるものが多い。岩塩鉱床の形成と岩塩の品質について述べ、資料提供とした
い。

 
海水由来 中生代に形成

 岩塩は海水に由来する。図1に示すように内陸に閉じ込められた海水が蒸発して塩湖を形成し、雨水が周囲の陸地から溶かした塩類も河川を通して流れ込む。

海水が蒸発するにつれて海水の体積は減り、それにつれて溶解度の小さい塩類の順に化合物が析出してくる様子を図2に模型的に示した。左に記載されている海水の体積が約50%になると右に記載されている炭酸カルシウムが析出し始める。3%以下になるとにがりと呼ばれる領域となり、さらに濃縮されると硫酸マグネシウム等の塩類が析出する。

岩塩鉱床の生成と形態および海水濃縮に伴う塩類析出

 図1の最下部に示した岩塩鉱床は地殻変動や地圧の影響を受けて様々な形態に変化する。中でも中央に記載されているソルトドームは大きな地圧によって岩塩層が押され、比重の軽い岩
塩層
(塩の比重は2.16)が地表に向って押上げられてできた塩の柱とでも言うべきものである。その大きさは直径3 km、深さ15 kmにもなるものがある。枕状に隆起した鉱床はソルトピローと言われる。                                                                               岩塩鉱床が出来たのは中生代に当たる三畳紀、ジュラ紀、白亜紀と呼ばれる時期とされるが、表1に示すようその前後でも出来ている。中生代の25100万年前から6550万年前に出来たことが良く分る事例がメキシコ湾岸にある岩塩鉱床で、それを図3に示す。小さな点で示されているのがソルトドームで300ヶ所以上あると言われている。南北に引かれている直線部分の断面を表したのが図4である。下の方から古い地層が積み重なっており、塩鉱床がソルトドームやソルトピローとなっていることが良く分る。

表1 岩塩鉱床の生成時代
地質年代 年代
(百万年)
造山運動、海進・海退 岩塩産地
新生代 第四紀 沖積世 氷河の消長による海面の上昇 エチオピア、イスラエル
洪積世 2
第四紀 鮮新世 5 (アルプス造山期)陸地の広範囲にわたる水没 スーダン、シリア、トルコ、コーカサス、ユーッゴスラビア、アルジェリア、キプロス、ドミニカ、エジプト、イタリア、イラン、イラク、ポーランド、ルーマニア、スペイン
中新世 22.5
漸新世 38 フランス、ドイツ、イラン、ルーマニア、スペイン、トルコ、コーカサス
始新世 55 パキスタン、ルーマニア、スペイン、アメリカ
暁新世 65 チリ、イスラエル、パキスタン、アメリカ
中生代 白亜紀 141 世界的大海進 ブラジル、ボリビア、コンゴ、パミール、アメリカ
ジュラ紀 195 チリ、、アメリカ、カザフ東部
三畳紀 230 オーストリア、フランス、ドイツ、メキシコ、オランダ
古生代 二畳紀 280 (バリスカン造山期)インド・太平洋地域大海進 オーストラリア、オーストリア、ドイツ、メキシコ、オランダ、ペルー、ポーランド、イギリス、アメリカ
石炭紀 345 カナダ、アメリカ、ブラジル
デボン紀 395 (カレドニア造山期) オーストラリア、カナダ、アメリカ、ウクライナ
シルリア紀 435 海進反復、北米岩塩層 カナダ、アメリカ
オルドビス紀 500 大海進 アメリカ
カンブリア紀 570 大規模な海進、海退(ガリニア造山期) カナダ、イラン、パキスタン、バイカル湖北
原生代 2,600 (アルゴマン変動)
始生代 3,000〜
塩の科学 表1.13より一部抜粋 朝倉書店 2003


メキシコ湾岸のソルト・ドーム分布
切断面で見たソルト・ドームとソルト・ピロー

 多くは食用塩以外に

 前述したように岩塩は約2億年前に生成しているが、地殻変動、火山活動、気象変動などで大きな影響を受け、均一な岩塩層になっていることは少なく、ほとんど岩石や他の鉱物が混じっている。例えば、表2に岩塩組成を示すが、一般に純度は低く、赤色、黒色、青色、桃色
など様々に着色している。装飾用に赤色系の岩塩塊が販売されている。通常そのまま食用にはされず、溶解精製後、煮詰めなおして食用塩にする。しかし、稀には非常に純度が高く透明な岩塩もあり、粉砕・篩別して食用にすることもある。

岩塩組成表

 ブラックソルトと呼ばれる紫色から黒色までの岩塩様の塩が販売されている。この塩はインドやパキスタンから輸入されているようだ。この塩は岩塩ではないと思っているが、筆者には確証がない。輸入者によって言うことが異なり、他の岩塩と比べてあまりにも性質が違う。溶かすと硫化水素の微細な泡が発生し、硫黄臭を伴い酸化還元電位が低いが、どうしてそうなるのか理解できない。これらの性質は竹塩の特徴と一致する。竹塩は竹筒に塩を詰め焼いて作る。焼いた塩を砕いて再び竹に詰めて焼くことを反復するにつれて塩の色は黒くなり、酸化還元電位も下がってくる。ブラックソルトの輸入販売者に聞いたところでは、岩塩とハーブを混ぜて焼いて作るとも、自然に産出する岩塩だとも言う。インターネットでは植物の種をかん水に入れて煮詰めるようだ。焼いて作るものであれば溶融塩であり人工物で、天然岩塩ではない。岩塩に関する専門書にはブラックソルトの記述はない。

 岩塩を食べても害を被ることはないと思われるが、ほとんどの岩塩はCODEXの食用塩規格には適合しない。用途はソーダ工業、融氷雪、家畜飼料である。