たばこ塩産業 塩事業版 2001.07.25
塩なんでもQ&A
(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事
橋本壽夫
岩塩の多様な色とその理由
先日、「たばこと塩の博物館」へ行き、岩塩を見学してきました。岩塩というと茶色っぽいイメージがあったのですが、茶色だけでなく、濃い藍色やオレンジなどさまざまな色の岩塩が展示されており、思わず見とれてしまいました。塩の結晶は本来、無色透明であるとのことですが、岩塩にさまざまな色が付いているのはどのような理由によるものなのでしょうか。 (東京都・塩販売店)
純粋な塩化ナトリウム結晶(岩塩)の色は無色透明です。特殊なレンズとして使われるほどです。しかし、自然には質問に出てくる色だけでなく、いろいろな色の付いた岩塩があるようです。どのような色がどうして着くのか調べてみました。
なぜ岩塩に色がつくのか?!
現在採鉱されている岩塩は2,3億年まえに地殻変動で内陸に閉じ込められた海水が蒸発してできたものです。塩が析出し、岩塩として成長していく過程で結晶の中にいろいろな不純物が閉じ込められたり、結晶格子に構造的な欠陥ができたとき、岩塩に色が着きます。
表−1は岩塩のいろいろな色と着色理由を述べています。
表−1 岩塩の色 |
色 |
不 純 物 |
乳白色 |
気泡または液胞の混入 |
桃色 |
塩化カリウム部分に細かい赤鉄鉱の針状結晶が分散、マンガンの混入 |
赤色 |
細かい赤鉄鉱の針状結晶が分散 |
橙色 |
微量の細かい(150〜180 μm)塩化カリウム粒子が混入 |
黄色 |
微量の赤鉄鉱、微量の塩化カリウム、薄い瀝青が混入、130〜150 μmの細かい硫黄結晶が混入 |
緑色 |
緑塩銅鉱[Cu2Cl(OH)3]、110〜120 μmの緑泥石粘土、微量の臭化カリウム+金、微量の塩化カリウムの混入 |
灰色がかった黒色 |
粘土の混入 |
褐色がかった黒色 |
有機物の混入 |
青色 |
格子欠陥/着色中心、塩化カリウム層に臭化カリウム+金の混合物色素として鉛、銅、銀、金の90〜110 μm粒子、ナトリウム蒸気中で金属ナトリウム添加 |
青紫色 |
緩慢な成長、80〜90 μmの塩化カリウムまたは塩化ルビジウムを0.5% |
薄紫色 |
シルビナイト層にある |
紫色 |
シルビナイト層に陽極線照射 |
黒色から濃い青色 |
ナトリウム蒸気+圧力、陽極線による大量の二酸化鉄小板、シルビナイト層にある |
結晶中の混合物による着色
粘度粒、瀝青、または他の鉱物の微細な結晶が塩の結晶中に混合していると岩塩の色が変わります。色の強さは混合物の混入量によって変わります。
乳白色の岩塩は、最初に岩塩が析出沈殿する時に取り込まれた無数の小さな気泡による色です。
灰色から黒色は粘度が混入したことによるものです。黒い着色は赤鉄鉱の小板、または有機物が多く存在することによって生じます。
緑色は緑塩銅鉱の混合、緑泥石の粘度混入、または金色の臭化カリウムを含む微量の塩化カリウム混入によって生じます。
赤色または鮮やかな桃色は赤鉄鉱の針状結晶の混入によって生じます。また濃い桃色は少量のマンガンの混入によっても生じます。
黄色い色は微量の赤鉄鉱混入、少量の塩化カリウムまたは塩化ルビジウムの混入、瀝青炭の混入、などによって生じます。
結晶の欠陥格子による着色
岩塩結晶はいろいろな結晶格子欠陥を持っており、そこが着色の中心として働きます。青い着色は通常、各種のコロイド状金属が結晶格子の欠陥部に入ったために生じます。これらの金属には金、銀、銅、または二価のアルカリ土類金属(カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)があります。
岩塩が青色に着色する通常の原因は、結晶格子中で化学量論的に過剰な金属ナトリウムがあることです。結晶成長率が大きいと格子欠陥の発生を促進させ、濃い青色を生じさせる結果となり、透明でもっとゆっくりと成長すると青紫色になります。色相と色の濃さは粒子サイズに依存するだけでなく、極微小の亜塩化ナトリウムNa2Cl結晶またはコロイド状ナトリウム粒子の豊富さに依存しています。
色相の原因はコロイド分散度
色相はコロイドの異なった分散度に原因があり、コロイドの直径に左右され、80-90μm(マイクロメーター)の粒子サイズでは青色がかった紫色の色相、90-110μmの粒子サイズでは青色の色相、110-120μmの粒子サイズでは緑色がかった色相、130-150μmの粒子サイズでは黄色がかった色相、そして150-180μmの粒子サイズでは橙色がかった色相になります。紫色の岩塩は分散した小さな金属ナトリウムの粒子を含んでおり、青い岩塩は大きな粒子を含んでいます。
青色岩塩には異なった性質
通常の岩塩と比較して青色の岩塩は次のような色々と異なった性質を持っています。@貝殻状の構造をしている。A比較的硬い。B水により急速に溶ける。C溶けたときアルカリ反応を示す。D屈折率が比較的低い。E複屈折と多色性を示し、不規則な形の多色性輪光が現れる。FpHが比較的高い。G磁性の帯磁率が小さい。H単位容積当たりの中心色素の数が増加する。I350℃で独特の輝きを発する─といったことです。
人工的着色には7つの方法
青色の岩塩は人工的に次のようにして作られます。(a)320 g/lの塩化マグネシウムを含む塩化カリウムと塩化ナトリウムの両方の飽和溶液から全体の約10%を析出させます。(b)ナトリウム蒸気を加えます。(c)電気放電をさせます。(d)紫外線を照射します。(e)イオン化を通して塩素イオンを引き出します。(f)ガンマー線を照射します。(g)コバルト60からのベーター線または陰極線を照射します。
この度の質問にはカナダの地質学者が発表した「岩塩の色」と題したレビュー論文を参考にして答えました。様々な色の岩塩があるようですので、岩塩を採掘している鉱山を訪れる機会があれば、資料を集めるように心がけたいと思います。
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