たばこ塩産業 塩事業版 2010.3.25
塩・話・解・題 60
東海大学海洋学部非常勤講師
橋本壽夫
食用塩の品質規格
国際的には食用塩の規格がある。しかし、日本には食用塩の品質規格はない。塩専売制度により国が塩の品質を専売品規格として保証していたからだ。日本塩工業会は業界として食用塩の自主品質規格を定めており、食用塩公正取引協議会は消費者保護の観点から商品表示について食用塩公正競争規約を定めている。それらについて解説する。
食用塩の国際規格
消費者の健康を守り、公正な食品交易の実行を保証するために食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は共同して食品規格を作成するCodex Alimentarius委員会を1963年に設置し、各国政府と非政府機関が全ての食品規格・基準(品質、表示、包装、輸送、貯蔵、試料採取・分析)を検討して決めてきた。その中に食用塩の規格(CODEX STAN 150)がある。規格を決めていく段階で筆者も1985年前後に2回、会議に出席した。1985年に規格案が決定された。
その後、多くの項目が追加・検討され、1997年には改定案が決定され、1999年、2001年、2006年と3回修正されて現在の規格となっている。
ここでは2001年に修正された品質に関する規格概要をいくつかの国内塩銘柄の規格と共に表1に示す。
表1 塩の規格または基準 | ||||||
食塩 | 並塩 | 食卓塩 | 精製塩 1kg | 白塩 | CODEX食用塩 | |
純度 | 99%以上 | 95%以上 | 99%以上 | 99.5%以上 | 95%以上 | 乾物基準で添加物を除き97%以上 |
ヨウ化物(I) | ヨード欠乏地域ではNaI, NaK,ヨウ化物を添加すべき | |||||
重金属(Pbとして) | 10mg/kg以下 | 10mg/kg以下 | 10mg/kg以下 | 10mg/kg以下 | 10mg/kg以下 | |
カリウム(K) | 0.25%以下 | 0.25%以下 | 35mg/kg以下 | 35mg/kg以下 | ||
マグネシウム(Mg) | 基準0.02% | 基準0.08% | 0.13%以下 | 0.11%以下 | ||
カルシウム(Ca) | 基準0.02% | 基準0.06% | 30mg/kg以下 | 27mg/kg以下 | ||
硫酸イオン | 70mg/kg以下 | 70mg/kg以下 | ||||
K4[Fe(CN)6]orNa4[Fe(CN)6] | 検出せず | Fe(CN)6として10 ppm以下 | ||||
他の固結防止剤、例えばCaCO3など | 塩基性炭酸マグネシウム基準0.4% | 塩基性炭酸マグネシウム基準0.3% | 化合物として20 ppm以下 | |||
銅(Cu) | 2mg/kg以下 | 2mg/kg以下 | 2mg/kg以下 | 2mg/kg以下 | 1mg/kg以下 | Cuとして2 ppm以下 |
鉛(Pb) | 2mg/kg以下 | 2mg/kg以下 | 2mg/kg以下 | 2mg/kg以下 | 1mg/kg以下 | Pbとして2 ppm以下 |
ヒ素 | 0.5mg/kg以下 | 0.5mg/kg以下 | 0.5mg/kg以下 | 0.5mg/kg以下 | 0.2mg/kg以下 | Asとして0.5 ppm以下 |
カドミウム | 0.5mg/kg以下 | 0.5mg/kg以下 | 0.5mg/kg以下 | 0.5mg/kg以下 | 0.2mg/kg以下 | Cdとして0.5 ppm以下 |
水銀 | 0.1mg/kg以下 | 0.1mg/kg以下 | 0.1mg/kg以下 | 0.1mg/kg以下 | 0.05mg/kg以下 | Hgとして0.1 ppm以下 |
一般生菌数 | 300ヶ/g以下 | |||||
大腸菌群数 | 陰性 | |||||
備考 | 塩事業センター | 日本塩工業会 | 国際規格 | |||
注:1 mg/kgは1 ppmまたは0.0001%に相当する。 | ||||||
国際規格で使用できる添加物としては、他にオルソ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、二酸化珪素、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ミリスチン酸・パルミチン酸・ステアリン酸のカルシウム・カリウム・ナトリウム塩、フェロシアン化カルシウム、ポリキシエチレンソルビタンモノオレイン酸、ポリジメチルシロキサンがある。 |
食用塩が国際的に流通できるように各国は規格の承認を要請され、承認すれば食用塩はこの規格を守らなければならない。この規格では、ヨード欠乏地域の塩にはヨード欠乏症を防ぐためにヨードを添加すべきとされている。日本ではヨードは食品添加物ではなく、固結防止剤の中にも食品添加物として認められていない物があるので、そのような物が入っている食用塩を流通させることはできない。したがって、日本がこの規格を承認することはないであろうが、非関税障壁になっているので海外からの批判や圧力に対してどう対処していくのかが注目される。
センター塩の自主規格
92年間続いた塩専売事業を引き継いだ(財)塩事業センターが販売している塩を生活用塩と称する。その銘柄の一部について品質規格を表1に示す。国際規格と比較すると、純度については、並塩の95%は水分2%として乾物基準に換算すると97%となる。
国際規格では有害汚染物として銅、鉛、ヒ素、カドミウム、水銀が指定され、それぞれの上限値が表1に示すように決められているが、塩事業センター塩ではいずれも同じ水準で定められている。また国際規格では多くの添加物が認められているが、塩事業センター塩ではそれらの多くが使用できない。
塩工業会の自主基準
日本塩工業会はイオン交換膜製塩法で塩を製造している4社から構成されており、塩事業センター塩ほか多くの塩種を製造している。塩工業会は塩の安全性を保証する立場から「食用塩の安全衛生ガイドライン」を定めた。製造工程における食品衛生上の管理を徹底させるため、安全衛生管理体制、原材料の管理体制、生産工程の管理及び製品の管理に関する検査を毎年1回以上行っている。
製造した塩の安全衛生基準は表1の白塩で示すようになっており、成分的な特徴は有害汚染物質の含有水準をすべて国際規格水準の半分以下に設定している。
公正競争規約4月本格施行 表示適正化へ
塩専売制度の廃止に伴い塩市場の競争は激化し、公正取引委員会から優良誤認表示として警告を受ける商品が出た。それまでに東京都消費生活総合センターは市販食塩の商品テストを行った結果、商品表示に問題ありとして国に対して適切な表示基準を検討するように求めた報告書を出していた。
公正取引委員会の指導を受けながら業界は「家庭用塩表示検討懇談会」を発足させ、表示適正化への活動を開始した。その後、食用塩公正取引協議会準備会を経て平成20年5月に食用塩公正取引協議会が発足した。
食用塩公正取引協議会は消費者の利益を守るため、虚偽表示、誇大表示など、消費者をだますような表示をしないよう業界が自主的に公正競争規約(公正取引委員会が認定)を定め、表示を審査する。正しく表示されている商品には図に示す公正マークが商品に付けられる。
そのような商品には名称、原材料名、内容量、原産国、製造者、製造方法(原材料名・工程)などが表示されているため、塩の由緒来歴が分かる。表示に用いる言葉も定められている。会員会社は3月1日現在で150社(団体含む)あり、塩の生産から輸入・販売まで関係する会社が加入しており、公正マークを表示できる承認を得ている商品は2月28日現在で約900件ある。このマークは、原料・製造方法・工程が適正に表示されていることを保証するだけで、成分品質を保証するものではない。この制度は平成20年4月21日から始まっているので、公正マークの付いた商品が市場に出回っているが、2年間の猶予期間の終了を迎え来月から本格施行となる。非会員の商品にはこのマークは付かず、会員の商品でもマークが付かない物もある。しかし、食用塩公正競争規約に反した表示、例えば、自然塩と表示すれば、消費者庁や都道府県から食用塩公正競争規約を基準として守るよう法的に規制される。
◇ ◇ ◇
多くの食品や酒類、家庭用電気製品、医薬品、化粧品など、多くの業界がそれぞれ公正取引協議会を結成して表示や景品についての自主規約として公正競争規約を制定している。しかし、塩のように公正マークを表示する例は希だ。公正マークの氾濫は塩だけで、このマークは何だろうと消費者は関心を持ち、改めて公正取引ルールの認識に一役買いそうだ。