戻る

塩の複雑な歴史と本当の塩の科学

Salt’s Convoluted History and the Real Salt Science

By Shelby Miller

https://www.naturalgrocers.com/    2024.05.08

 

 「健康的な」ライフスタイルを送るために従うべき基本的な原則は、誰もが知っている。毎日運動し、少なくとも18時間は睡眠を取り、野菜をたっぷり食べ、瞑想し、十分な水を飲むこと、そして塩分の摂取を避けるか減らすことである。これらの推奨事項の大部分は、ほぼすべての人にとって枚違いなく有益であるが、塩分の摂取を大幅に減らすことが健康を促進するというルールを目的に採用することに疑問を抱くべき時が来ている。何十年もの間、塩を悪者にしてきたことで、我々は健康を害する本当の原因である白い結晶(砂糖)を無視するようになり、我々の健康に大きな犠牲を払っている。今こそ塩嫌いを克服するだけでなく、増やす方はほとんどの人にとって良いと言う主張をすべき時である。最後の一文に衝撃を受けた方は、現在のパラダイムを変え、我々の生活に健康と風味の両方を加えることを目的とした科学的根拠のある反論を読んで下さい。

 

塩:社会の敵No.1

塩の摂取は血圧を上昇させ、高血圧症を引き起こし、早死のリスクを高めると言われている。これが、農務省の食事ガイドラインが、脂肪、砂糖、アルコールよりも塩分をアメリカの健康状態の悪化の最も悪質な原因とみなしている理由である。疾病予防管理センターの所長が、長期的な健康には禁煙と同じくらい塩分の摂取量を減らす

ことが重要であることを示唆している理由である。

 現在の減塩ガイドラインでは、1日のナトリウム摂取量を2,300 mgに制限している。高齢者、アフリカ系アメリカ人、高血圧患者の場合は、さらに少なくなり、1,500 mgになる。疾病管理予防センターによると、現在、アメリカ人の50%以上がナトリウム摂取量を監視または減らしており、約25%が医療専門家からナトリウム摂取量を抑えるように指示されている。

 しかし、2011年にBritish Medical Journalに掲載されたレポートの著者は、「多くの国が無批判に減塩政策を採用していることは驚くべきことであり、これは予防医学史上最大の誤解である可能性が高い。」と述べている。

 

なぜ塩は誤って非難されてきたのか?

 1960年代後半以後、塩摂取量が国民の健康にどの程度悪影響を及ぼし、脳卒中や心血管疾患による死亡に寄与しているかについて、科学者間で激しい論争が繰り広げられてきた。塩の最近の歴史は、この記事では説明しきれないほど複雑であるが、健康における塩の役割に関する科学的不確実性の抑制が公共政策にも科学の目的にも役立っていないことが明らかになっている。塩を巡る長年の論争の徹底的なレビューについては、James DiNicolantonio博士の「The Salt Fix」、またはニューヨーク・タイムズ紙や権威ある科学誌「サイエンス」に掲載されたGary Taubesの受賞歴のある概要のいずれかを参照する。Taubesの物議を醸したサイエンス誌の記事(全米科学記者協会の「社会における科学ジャーナリズム賞」を受賞)は、塩と罹患率および死亡率を結び付ける明白な証拠があるという考えに異論を唱えている。Taubesは「減塩のメリットに関する論争は、医療界全体で最も長く続いている。最も辛辣で非現実的な論争の1つとなっている。」と指摘した。

 現在の塩摂取量の推奨を裏付ける最初の証拠は、塩が有害であることを証明できなかった。一方、過去数年間の証拠は、アメリカ農務省と疾病管理予防センターが推奨するほど塩を摂取しないと有害であり、早死にする可能性が高くなることを実際に示唆している。

 塩は、塩血圧仮説の単純さと「生物学的妥当性」のため、格好の標的となる。塩の致命性という考えは、理論的に都合が良いため、妥当に思える。その理論は、塩を多く摂取すると、体内のナトリウム濃度を一定に保つために、体が水分を保持するというものである。塩辛い食物を食べると喉が渇き、水分をより多く摂取し、より多くの水分を保持する傾向があるのは、このためである。その結果、血圧が一時的に上昇し、腎臓が塩分と水分の両方を排出するまでその状態が続く。すべて理にかなっているが、実際には仮説にすぎない。

 これは、「相関関係は因果関係ではない」というマントラを思い出す必要があることにつながる。あること()が別のこと(高血圧)につながることがあり、それが別のこと(心血管疾患)と相関しているからといって、必ずしも最初のことが3番目のことを引き起こしたことが証明されるわけではない。そして確かに減塩食の利点は証明されたことがなく、むしろ心臓病のリスクを増加させる可能性がより高いのである。

 最近の研究では、塩摂取量が少ないと、心拍数の増加、腎機能低下、副腎機能不全、甲状腺機能低下、トリグリセライド、コレステロール、インスリン値の上昇、そして最終的にはインスリン抵抗性、肥満、二型糖尿病などにつながることが示唆されている。このことから、血圧低下という1つの(そしてわずかな)潜在的な利点が、塩摂取量が少ないことによる膨大な健康リスクを無視する価値があるかどうか疑問に思わざるを得ない。最近の研究では、慢性的な塩枯渇が、内分泌学者が「内部飢餓」と呼ぶものの要因である可能性が高いことが示されている。塩摂取量を制限し始めると、体はパニックに陥る。防御機構として、体はインスリン値を上げる。インスリンは腎臓がより多くのナトリウムを保持するのを助けるからである。残念ながら、高インスリン値はエネルギーを脂肪細胞に「閉じ込める」ため、蓄積された脂肪を脂肪酸に分解したり、蓄積されたタンパク質をアミノ酸に分解したりするのが難しくなる。インスリン値が上昇すると、エネルギーとして効果的に利用できる唯一の主要栄養素は炭水化物である。

 

本当に何が原因なのか(ネタバレ注意-砂糖である)

 塩は血圧を上昇させ、その結果、脳卒中や心臓発作のリスクを高めると、我々は何度も聞かされてきた。しかし、人口データを見ると、高塩分の食事が脳卒中や心臓発作を引き起こすようには見えないことは明らかである。それどころか、研究では、高塩分の摂取は心血管疾患や早期死亡のリスクを下げることが分っている。

 例えば、平均的な韓国人は1日4,000 mg以上のナトリウムを摂取している。しかし、どう言うわけか韓国人は高血圧、冠状動脈性心疾患、心血管疾患による死亡率が世界で最も低い国の1つとなっている。これは「韓国のパラドックス」と考えられているが、「韓国」を他の13ヶ国のどれかに置き換えても、この「パラドックス」の証拠を見ることができる。地中海式ダイエットは心臓に良いと考えられているが、塩分が非常に多く含まれている(イワシやアンチョビ、オリーブやケッパー、熟成チーズ、スープ、貝類、ヤギのミルクを考えてみて下さい)。フランス人はアメリカ人と同じくらい塩を摂取しているが、冠状動脈性心疾患による死亡率は低い。ノルウェー人はアメリカ人よりも塩を多く摂取しているが、冠状動脈性心疾患による死亡率は低い。スイスやカナダでさえ、塩分の多い食事にもかかわらず、脳卒中による死亡率は低い。

 この論争の間ずっと、インスリン抵抗性と糖尿病が隠れていた。どちらも腎臓のナトリウム貯留と高血圧の発症と一貫して同時に起こることが分かっている。言い換えれば、糖尿病の原因は高血圧も引き起こす可能性があり、糖尿病の原因となる食事性物質は…砂糖である。

 砂糖の摂取量が多いと、膵臓によるインスリンの生産量が増える。インスリン・レベルが高いと、腎臓によるナトリウムの再吸収が促進されることが分っている(言い換えれば、糖尿病患者は尿中に塩分を排出するのではなく、体内に塩分を保持する)。さらに、インスリンはNa/K/ATPaseの活動(細胞内のナトリウム量を調節するポンプ)を妨害する。したがって、このナトリウム・ポンプはインスリン抵抗性になることもある。この研究は、ラットにメトホルミン(インスリン抵抗性を軽減する一般的な糖尿病薬)を与えると塩誘発性高血圧が予防されるという動物実験によってさらに強化されている。

 データでは、砂糖が血圧と心拍数の両方を上昇させることも示されている。1964年研究者達は、冠状動脈疾患の患者に見られる異常(脂質、インスリン、尿酸の上昇、血小板機能の異常)が、高脂質食を数週間続けることで引き起こされる可能性があることを何度も実証することができた。しかし、どう言うわけか、塩が責任を負い続けた。

 

我々には塩が必要である

 塩は、体内の血液量を最適に保つ上で重要な役割を果たすため、健康に欠かせない。心臓が血液を体中に送り出すのにも必要である。塩は、消化、細胞間のコミュニケーション、骨の形成と骨の強度、脱水症状の予防に不可欠である。ナトリウムは、生殖、細胞と筋肉の適切な機能、心臓や脳などの臓器との間の神経インパルスの最適な伝達に不可欠である。我々の体は、体液中の電解質と呼ばれる要素(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム)に依存して、体の多くの機能を制御する電気インパルスを実行する。適切なナトリウム摂取量がないと、血液量が減少し、脳や腎臓などの特定の臓器の機能停止につながる可能性がある。

 塩は生命に不可欠である。塩がなければ、我々は生きられない。我々の脳と体は、摂取するナトリウム量、再吸収、排泄量を自動的に調整する。塩分と水分を節約する体の能力は、我々が塩を欲しがり喉の渇きを感じるシステムの一部として、視床下部によって制御されていると考えられている。体内の水分とナトリウム濃度は常にバランスを保っており、これを浸透圧調節と呼ぶ。血液中のナトリウム濃度が上昇すると、腎臓が再吸収するナトリウム量が減少し、余分なナトリウムは尿中に排泄され、体は血清中のナトリウム濃度を正常に保つ。このメカニズムは、細胞内外の水分の移動による細胞損傷を防ぐのに役立つ。血中ナトリウム濃度が低くなりすぎると、血液中の水分が組織細胞に入り、血液中のナトリウム濃度を正常に戻そうとするが、この水分移動によって細胞が腫れることがある。血中ナトリウム濃度が上昇すると、組織細胞から水分が血液に入り、ナトリウム濃度を正常に戻そうとするが、これによって細胞が収縮する可能性がある。細胞の膨張と収縮はどちらも非常に有害であり、そのため我々の体は血液中のナトリウム濃度を正常に保つためにあらゆる手段を講じ、塩摂取量と塩分バランスが緊密に管理されている。

 

塩辛い解決策

 信じられないかもしれないが、塩摂取量を管理する最も簡単な方法は、塩の欲求に耳を傾けることである。身体の欲求を満たし、やり過ぎずに味覚を満足させるために、塩を欲するだけ摂取して下さい。体内の塩サーモスタットが味覚を制御し、全体的な塩摂取量を増減させる。塩辛いものをすべて欲しがり、塩入れを多用していることに気付いたら、身体は最適な健康のために余分な塩が必要だと伝えている可能性がある。これは、渇望と依存によって身体と脳を乗っ取り、砂糖の摂取量を危険なレベルまで着実に増加させる砂糖とは対照的である。ほとんどの人の場合、身体は常に1日当たり3,0005,000 mgのナトリウムを摂取するように指示しているため、食事で塩を避けると、身体が欲する塩を得るために、1日を通してより多くの食物を摂取することになるであろう。摂取したナトリウムが3,000kara5,000 mgに達すると、体は最終的に塩をもっと摂取するように促す。ナトリウムは塩の40%を占めるため、1日の塩摂取量は7.515 gに相当する。

 塩は食物を美味しくし、満足感を与える。塩をたっぷり取ることを勧めることで「ハッピーダンス」が生まれることを願っているが、塩の摂取は、たまたま塩が多い加工食品だけでなく、本物の未加工食品で構成された食事と組み合わせるべきであることも重要である。オリーブ、イワシ、アンチョビ、塩漬け肉、熟成チーズ、スープなど、我々のお気に入りの食物を考えて見て下さい。塩漬けのナッツ、ピクルス、ザワークラウト、魚介類、ビート、海藻、アーティチョークは控えよう。そして、健康的であるが一般的にあまり美味しくない食品(芽キャベツ、キャベツ、カブなど)に塩を加えると、体に良いと分かっているものをもっと食べることができる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

塩で運動のエネルギーを補給

 運動すればするほど汗をかくことで塩分が失われるため、体はより多くの塩分を必要とする。塩分を多く摂取すると、体はより多くの水分を適切に保持できるようになり、運動するためのエネルギーがさらに多く得られるようになる。塩を小さじ1杯摂取するだけで、血行が良くなり、スタミナが向上する。まだ熱心な運動家ではないとしても、十分な塩を摂取することは、エネルギー・レベルを高め、運動したいという気持ちを強めるのに効果的である。これは、体内の飢餓状態(ナトリウム・レベルが低すぎるとインスリンが増加する状態)を改善するためにできる最善策の1つである。塩または電解質タブレットを摂取したり、レモン汁とともに小さじ1杯の塩を水筒に加えたりすることでも、元気を取り戻すことができる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どのような塩が最適か?

 ほぼ100%である塩(塩化ナトリウム)である食卓塩とは異なり、精製されていない塩は、塩化ナトリウムに自然に含まれる他のミネラルが取り除かれていない。

これらの他のミネラルは塩に独特の色と味を与え、地域や採取方法によって異なる。良質の未精製塩を選ぶことは、食物の風味を改善し、全体的な健康をサポートする素晴しい方法である。しかし、最もミネラル豊富な未精製塩でさえ、大部分は塩化ナトリウム(98)であり、他のミネラルの摂取に大きく貢献しない(訳者注:塩からナトリウム以外のミネラル摂取量を期待することはできないので、全文の一部の内容とは矛盾している。)さまざまな食品源やサプリメントからミネラルを摂取することが、体に必要なミネラルを確実に摂取するための最善の方法である。

 「最高の」海塩というものはない。すべてに同様の量の追加ミネラルが含まれており、添加物なしで最小限の加工が施されているからである。下の表(省略)は、人気のある未精製塩の種類を比較したものである。