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たばこ塩産業 塩事業版  1999.03.25

塩なんでもQ&A

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

人体に安全でやさしい塩

−イオン交換膜製塩法でつくられた塩−

 

 イオン交換膜製塩法による塩(以前の専売塩)は純粋な化学塩であると言われることがあまりなくなったと思っていました。ところが先日、幕張メッセで開催された国際食品・飲料展に出店して来客の対応をしていた中で、ある大学の先生が来られて、イオン交換膜製塩法で瀬戸内の汚れた海水を原料にして作られた塩は、外海のきれいな海水で作られた塩よりも品質の悪い塩ではないか、と専売塩(現在では塩事業センター塩)を非難されました。イオン交換膜製塩法の原理を説明し、現状程度に海水が汚染されていても人体に安全な塩ができることを説明し、一応納得してくれたように思えましたが、分かり易く納得してもらえる説明の仕方はないものでしょうか。    (キンカイ特殊塩株式会社)

 イオン交換膜製塩法で作られた塩は化学塩である、という言い方はNHKを始め各種のマスコミで使われますので、一般的にはそのように理解されていることが多いかと思います。汚染された海水から作られている純粋な化学塩が汚染された悪い塩というのは矛盾しており、議論するつもりはありませんが、このような問題については、これまでに新聞「たばこ塩産業」(塩事業版)で解説(「イオン交換膜製塩法で作られた塩は化学塩でしょうか?」)し、化学反応で塩を作っているわけではなく、物理現象を利用して塩が作られていることを述べました。
 汚染された瀬戸内の海水から作られた塩ときれいな外海の海水から作られた塩との人体に対する安全性の問題をどのように分かり易く説明するか、との問題については生活に密着した飲料水である水道水の例を引いて説明してはどうでしょうか。

水道水よりも厳しい濾過水準

 水道水になる水源の水質は、ほとんどそのまま水道水にしてもよいようなきれいな河川水や地下水から汚染された河川水、さらに汚染の進んだ池や湖の水までいろいろとあります。ちょうど太平洋の真ん中あたりの汚染が考えられないような海水と瀬戸内の海水を比較するようなものです。汚染された水質の水を水道水にするには曝気して酸素を供給し、微生物の力で汚染物を分解したり、凝集剤を添加して沈殿を促進させたり、砂で濾過したり、殺菌剤を添加して病原菌を殺菌するといった様々な浄化工程を通して水道水にしなければなりません。
 しかし、微生物で分解できない溶解している汚染物を取り除くことは出来ません。その汚染物が人体に有害な物であれば、そのような物質を含む水は水道水の水源として使えない、と言うことになります。

イオン交換膜製塩法の海水処理

  一方イオン交換膜製塩法では、原料となる海水は先ず砂で濾過されます。濾過の工程は砂濾過を2回行うとか、最初に砂濾過した海水を2回目にはさらに細かい濁質まで除去できるような濾過器にかけております。したがって、濾過の程度は水道水で要求される濁度よりも厳しい水準になっております。このようにしなければならない理由は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との間が0.5 mmしかない狭くてしかも充填物が詰まったところに海水を何カ月間も流し続けなければならないからです。
  このようにして海水中の濁物はほとんど除かれますが、溶解している汚染物まで除くことは出来ません。しかし、汚染物があっても塩に入ってこないようにできる方法がイオン交換膜製塩法です。

イオン交換膜製塩法の電槽写真

溶解汚染物を混入させない

 イオン交換膜製塩法では、電気が持っている物理的な性質を利用した現象と細孔で物を篩い分ける現象を利用しています。つまり溶解している物質でもイオンとなっていない物質は、電気によって動くことはありません。例えば、砂糖は水に溶けますがイオンになってはいません。
  したがって、砂糖の水溶液に電流を流しても砂糖の分子は水の中で動かないのです。ほとんどの有機物は水に溶けていてもイオンにはなっておりません。
 しかし、塩は水に溶けると、陽イオンであるナトリウム・イオンと陰イオンである塩化物イオンになります。このような物質の水溶液に電流を流しますと、ナトリウム・イオンと塩化物イオンはそれぞれ反対の方向に動きます。塩化マグネシウムというにがりの主成分がありますが、この化合物も水に溶けると陽イオンであるマグネシウム・イオンと陰イオンである塩化物イオンになります。したがって電流を流しますと、それぞれのイオンは反対の方向に動きます。 ここでイオン交換膜という篩がありますとナトリウム・イオンとマグネシウム・イオンをある程度篩い分けることが出来るのです。しかし、完全には分離できませんのでイオン交換膜製塩法で作られた塩にもマグネシウムやカルシウムは入っておりますので純粋な塩にはなりません。したがって、イオン交換膜製塩法をまとめますと、海水に電気を流し、イオン交換膜によって海水の中から塩となる成分のナトリウム・イオンと塩化物イオンを効率よく振るい分けて集める方法といえます。
  このような方法ですから、重金属や有機化合物のような汚染物が海水中にあってもイオン交換膜によって阻止され、塩の中には入って来ないのです。 

イオン交換膜の性質をマンガで表現

原料海水の水質が問題だが−

  海水を原料にして製塩するには海水を約10倍の濃度になるまで濃縮して初めて塩が出始め、さらに30倍40倍と濃縮を進めることにより塩を取り出せます。海水中の汚染物はそれだけの濃度に濃縮されてにがりの中に残ります。したがって、天日塩製塩法や流下式製塩法と平釜や真空式蒸発缶による濃縮の組み合わせで作られた塩には、そのようなにがりが塩のまわりに付着しますので、塩にも汚染物が入り込むことになります。この汚染はきれいな食塩水で塩を洗浄しない限り避けられません。洗えばにがり成分も少なくなってきます。したがって、原料海水の水質が問題となります。いかにきれいな海水といえども、現在のように大気汚染、河川水の汚染、船舶からの汚染物の投棄がありますと、なにがしかの汚染が進んでいるといわざるを得ません。
 イオン交換膜製塩法で作られた塩は人体に安全でやさしい塩である言えます。