たばこ塩産業 塩事業版  1998.11.25

塩なんでもQ&A

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

見直されつつある「味噌汁」の効能

 

私は30歳の主婦ですが、お味噌汁に関しては野菜やワカメなどの具もとれ、「健康食」というイメージがあります。ただ、両親は血圧が高めのせいか、「塩分控え目」を口癖のように言い、お味噌汁についても「薄味で作れ」とか「バカの三杯汁」などと言って、何となく敬遠する感じがあります。主人や私と同年輩の方々は「味噌汁は好きだ」「美味しく感じるかどうかで体調も分かるね」という意見なのですが、両親世代はそうではないようです。そういえば、「減塩味噌汁」という製品のCMも最近目にしました。両親世代の「味噌汁は健康(血圧)によくない」というイメージに根拠はあるのでしょうか?また、標準的なお味噌汁の塩分とはどのくらいなのでしょうか?         (大阪市・主婦)

 日本食には、味噌汁と漬物は欠かせない副食で、昔は三度三度の食事にどこの家庭でも用意されていた総菜でした。この二つのおかずで御飯が何杯でも食べられ、味噌汁も二杯三杯とお代わりをすると、バカの三杯汁と筆者も祖母にたしなめられたものでした。ところが、塩が高血圧の原因になるのではないか、と疑われ始めてから、減塩を奨めるために味噌汁や漬物が悪者にされ、また、食事の洋風化に伴って、これらの食べ物は次第に食卓から遠ざけられてしまいました。しかし、最近では味噌汁の良さが見直されて来つつあります。でもまだまだ、昔ほどには食べられていないようです。

味噌汁が悪者にされた背景

 味噌汁の塩分濃度については多くの研究報告がありますが、赤だし味噌汁、白味噌汁、ふくさ味噌汁など、味噌汁の種類によって、また具の入れ方によってかなり異なります。塩分濃度は大体0.8%から1.6%ぐらいの範囲であり、倍半分の開きがあります。塩分濃度の嗜好テストでは0.8から1.0%の濃さが好まれるようですが、一般的には血液中の塩分濃度に近い0.8〜0.9%が美味しく感じられると言われています。
 それでは一杯の味噌汁でどのくらいの塩分摂取量になるのでしょうか。いろいろと調べたデータがありますが、これも相当な幅があり、0.7から3.2グラムまでのデータを発表している報告があります。一杯の味噌汁から平均して1.5グラムを摂取するとしても、2杯で3.0グラム、それを三度の食事で食べるとすると、9.0グラムとなってしまいます。昔、バカの三杯汁と言ったのは減塩を奨めるためであったのかもしれないと勘ぐりたくなるような数値です。
 減塩を奨めるために目標値として、厚生省は昭和54年に1日当たり10グラムの食塩摂取量を定めました。その数値を考えますと、味噌汁は悪者にされ、減塩の効果を上げるためには味噌汁のお代わりをしないようにする、三度三度味噌汁を作らないようにする、となってきたのです。
 ちなみに、塩専売当時の統計値から見た味噌に使われる塩の消費量は、年間約7万トンで20年間ほとんど変わっておりません。また、統計値には現れていない自家用の味噌造りも次第に減ってきていると思われます。
  したがって、その間の人口増加を考えますと、味噌汁は次第に食べられないようになってきていると考えられます。

一律的な減塩は逆に危険?!

 これだけ味噌汁が悪者にされている背景には減塩運動があります。しかし、人間にとって適正な食塩摂取量はまだわかっていないとか、食塩感受性の問題から、遺伝子診断で食塩感受性が判定されるようになると、高血圧症の人でも食塩制限をする必要のない半数の人達が明らかになるなど、また、1日10グラム以下の減塩指導が日本人の伝統的な食生活を変えて、かえって危険になることも考えられることから、減塩運動は見直しが必要である、と東京大学の藤田教授は言っております。そして、味噌汁はカリウムやマグネシウムの摂取には最適な副食で、調理により汁へ溶解した成分も完全に摂取できますし、ナトリウムとカリウムの摂取量の比や、カルシウムとマグネシウムの摂取量の比をある値以下にすることが大切である、とも言っています。
 秋田県の衛生科学研究所が、栄養調査成績と漬物、味噌汁、煮物の食塩濃度を測定して整理した結果、食塩摂取量の多い人ほど食品総量と食品数を多く食べ、栄養素充足率が高くなる傾向を示した、と報告しています。裏を返せば、減塩すると栄養素が充分に摂取できなくなる恐れがあることを示しております。

塩を悪者にしている先生も味噌汁を推奨

 京都大学大学院の家森教授といえば、脳卒中易発症型の自然発症高血圧ラットと言う動物モデルを選抜しましたが、かつて食塩の摂取量と寿命との相関を求めて、1日当たり1グラムの食塩摂取量増加は××年の寿命短縮につながると新聞に発表したことがあります。そしてナトリウムを減らしカリウムの摂取量を増やすことを盛んに奨めました。
 この実験動物は成長するにつれて自然に高血圧症になって、しかも必ず脳卒中を起こして死んでしまうというラットです。しかし、このラットに大豆タンパクを食べさせると、血管が丈夫になって寿命が大幅に伸びることを見出しました。さらに大豆の中にはマグネシウムが多く含まれており、マグネシウムは細胞内のナトリウムを排除する働きを盛んにするため、血圧の上昇を抑える、と言っています。

  脳卒中易発症ラットに1%の食塩水を与えながら、大豆タンパク、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)を単独で、または組み合わせて添加して食べさせ、それぞれの効果を調べた結果をのように発表しています。1%の食塩水を与えられたラットの平均寿命は89日位であったグループ(■)が大豆タンパクを与えられると170日位に延び()、マグネシウムを与えられると177日()位に延び、カルシウムと大豆タンパクと組み合わせて与えると344日位に延び(◯)、さらにマグネシウムとカルシウムと大豆タンパクを組み合わせて与えると、なんと416日位まで延びて()、対照群の約4.5倍近くにも寿命が延びました。
 
大豆の中には食物繊維もありますが、味噌汁としてはワカメを具として入れるため、海藻由来の食物繊維が多く含まれることになります。脳卒中易発症ラットに海藻から抽出した食物繊維を10%ほど飼料に混ぜて与えたところ、1%の食塩水だけを与えている対照群では1ヶ月で脳卒中が発症したのに対し、食物繊維を与えたグループでは1%の食塩水を与えていても脳卒中の症状は認められなかったそうです。食物繊維がナトリウムを吸着して便に排泄させるため体内に吸収されないとのことです。
 家森教授によりますと、味噌汁と言えば、塩分の摂りすぎを心配する人もいますが、昔のように2%位の塩分濃度では濃すぎますが、0.8から1.0%位なら心配ありません。しかも、食物繊維の豊富な豆腐やワカメなどの海藻を具に入れますと、栄養的にも充実します。食塩を摂りすぎない上に食塩の害を減らすことが出来るので、一石二鳥だそうです。

味噌の発ガン・成人病予防効果

 広島の原爆による被爆者の中には、味噌によって被爆の後遺症が軽くてすんだとか、チェルノブイリの原発事故の際、北欧では放射能障害を予防するために、多くの人々がヨード剤の服用とともに味噌を食べたり飲んだりしたそうです。このようなことをヒントにして広島大学の伊藤教授は、味噌の成分が放射性のヨウ素やセシウムの排泄に有効であることをマウスを使って示しました。また、味噌には放射線による小腸の粘膜細胞の障害を早く回復させる作用があり、同じく放射線で誘発される肝臓ガンや自然に発生する肝臓ガンの発現を抑制する効果があることを明らかにしました。有効成分については、これからの研究が待たれます。
 味噌の特徴は野菜や肉、魚介などあらゆる素材に違和感なくなじむところにあり、味噌で調味することにより、いろいろな食材が美味しく食べられことが食品としての味噌の最大の魅力である、と大妻女子大学の青木教授は述べています。
 味噌の成分には、血管を若々しく保って脳卒中や痴呆症、心臓疾患を予防する作用があります。その有効成分はレシチンとサポニンです。レシチンには、血管壁からコレステロールをはがして血流を良くしたり、善玉コレステロールを増やす作用があります。
  サポニンにも、動脈硬化を防いで血流を良くしたり体内の過酸化脂質を細かく分解する作用、脂質が酵素と結合して過酸化脂質になるのを予防する働きがあります。その上、具だくさんの味噌汁を食べることにより塩分を排泄するカリウムの摂取量が増え、血圧が下がるとして、青木教授は味噌汁による成人病予防効果を期待しております。
 以上のように、日本の伝統的な食品の一つである味噌が、最近では複雑な働きをもつ機能性食品、健康食品として見直されてきました。したがって、ご質問にもありますように若い人々には健康食というイメージがあるのかもしれません。しかし、減塩指導や減塩志向は根強く、年を取るとどうしても血圧や健康のことが気になりますので、「味噌汁は健康によくない」というイメージをもたれるのでしょう。 減塩運動も見直しが必要、といった意見が出始めたように、食塩感受性の判定問題が解決すれば、高血圧症の人でも半数位の人は味噌汁を安心して健康食として食べられるようになるでしょうし、読者が高血圧症の家系ではなく、血圧も高くなく、腎臓も悪くなければ、何の心配もなく味噌汁を美味しく食べられる、と筆者は考えています。

脳卒中ラットにおける大豆たんぱくやカルシウム、マグネシウム食による寿命の延長効果