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たばこ塩産業 塩事業版  1997.09.26

塩なんでもQ&A

(財)塩事業センター技術部調査役 

橋本壽夫

 

昔も今も変わらぬ自然の贈り物 塩

 

 日本たばこの塩はサラサラして、使い良い場合と、使い勝手が悪い場合があります。昔の専売公社の塩はシットリしていたように思いますが、つくり方にどのような違いがあるのでしょうか?また、日本たばこの塩は純粋でミネラルがないように聞きますが、シットリしていた頃の塩と成分ではどのような違いがあるのでしょうか?外国から輸入された塩が目につくようになりましたので、併せてそれらの成分についても教えて下さい。                                 (神奈川県・会社員)

 明治38年から続いてきました塩専売制度は平成9331日で廃止され、92年間の歴史を閉じました。この間、大蔵省専売局、日本専売公社、日本たばこ産業()と制度を運営してきたところが変わりました。現在では()塩事業センターが事業を引き継いで、日本たばこ産業()が販売していた塩の銘柄を引き続き販売しております。したがいまして、()塩事業センターの塩はサラサラして…ということになりましょうか。

気象条件などから解放
製塩法の変化

 日本では、海水から直接塩を採取できるほど気象条件が良くありませんので、二つの工程、海水の濃縮工程と塩の結晶化採塩工程で塩づくりがされています。最初の工程は、濃い塩水である「かん水」をつくることから「採かん工程」といわれ、後の工程は、かん水を煮詰めて塩を採ることから「せんごう工程」といわれています。
 採かん工程は、江戸時代より長年続いてきた「入浜式塩田方式」から、昭和
28年にはより合理的な「流下式塩田方式」に変わり始めました。
 しかし、その方式でも気象条件に左右されることには変わりなく、大きな問題でした。その問題を解決する画期的なイオン交換膜濃縮法が開発され、昭和47年に「イオン交換膜濃縮方式」による海水濃縮法に全面転換しました。これにより、日本の製塩業は、気象と広大な土地手当の問題から解放されたのです。
 一方、せんごう工程は江戸時代からの釜で煮詰める平釜方式から、昭和10年頃より数倍も熱効率の高い多重効用真空式蒸発缶が導入され始めました。
 戦後の一時期、塩の供給不足を解消するために平釜方式による自家製塩が行われたことがありますが、昭和35年頃まで真空式せんごう法になり、今日まで続いています。
 この方式によってできた塩は、一粒ずつ塩の結晶が分かれていますので、サクサクした感じ、乾燥すればサラサラした感じになります。
 そこで昔風のシットリしてザラザラした感じの塩を望む人達が出てきて、特に、イオン交換膜方式になってから、塩を水に溶かして平釜で煮詰め直した特殊用塩が出回るようになりました。
 この方式によってできた塩は、塩の粒がいくつもくっつき合っていますので、ザラザラした感じになり、水分も分離しにくいうえに乾燥させませんので、シットリするというわけです(写真参照)

塩の形状

消費者の関心とニーズ
シットリした塩

 世界的にはサラサラした塩が主流で、欧米の先進国では、塩は乾燥されてサラサラした状態で売られています。日本ではサラサラした塩もシットリした塩も売られています。(財)塩事業センターのシットリした小物包装の塩には、新家庭塩、つけもの塩があります。
 塩をシットリさせる正体は水分です。業務用に並塩という商品があります。これは煮詰められて出てきた塩を遠心分離機で脱水したものです。水分が2%弱残っていますので、シットリしております。これを0.1%程度まで乾燥させると、サラサラした食塩という商品になります。
 「昔の専売公社の塩はシットリしていた」ということですが、昭和34年に乾燥された塩である食塩が小袋包装商品として販売されるようになるまで、湿った塩が大半でした(一部、食卓塩、精製塩としてサラサラした塩もありました)。シットリした上質塩がカマスや紙袋から小分けされて秤(はかり)売りされていましたので、40代以上の年齢の方々には、その印象が強く残っているのではないでしょうか。そのような塩を使い慣れた人達は、食塩というサラサラした塩が市場に出回ると、使い方に戸惑ったことと思いますが、当時は、それに対しての苦情はありませんでした。
 サラサラした塩の苦情が出始めたのは、塩の製造法が昭和47年にイオン交換膜製塩法に全面的に変わってからです。昔ながらの塩づくりでシットリした塩が特殊用塩という枠の中で販売できるようになり、いくつかの商品が流通するようになりました。
 特殊用塩製造者の販売促進戦略と、消費者の昔ながらのシットリした塩が欲しいというニーズが一致したとき、当時の専売公社は、そのニーズに素早く応える商品を出さなかった(つけもの塩は昭和50年、家庭塩は昭和58年から販売)ことから、ことさら、サラサラした塩が悪いかのごとくいわれるようになったのでしょう。後で詳しく述べますが、製法が変わってサラサラした塩でも消費者が問題にしている成分はあまり変わっておりません。

大局的に昔と変わらず
食塩成分の変化

 海水の濃縮法は大きく変化しましたが、それによいって食塩の成分がどのように変わってきたのかグラフによって示しました。このグラフには、メキシコやオーストラリアの天日塩田でつくられ、輸入されている塩についても比較できるように示しておきました。

食塩品質の推移
 グラフをみれば分かりますように、大きく変動しているのは、低下した成分としては水分と硫酸イオンであり、増加した成分としてはカリウムです。カルシウムとマグネシウムにつきましては少し低下していますが、さほど変わっておりません。輸入された天日塩のカルシウム、マグネシウムと比べましても大きな違いはありません。天日塩と比べた場合、大きく違っているのは硫酸イオンが減って、カリウムが増加していることです。塩に含まれているカルシウムは石膏の形になっていますので、体に吸収利用されることはありません。製塩法がイオン交換膜方式に変わってから、水分が少なくなっていますので、サラサラする方向にはなっておりますが、カルシウム、マグネシウム、カリウム、などのミネラルがなくなって純粋になっていることはなく、大局的には昔の食塩と変わらないことが分かっていただけたと思います。

食塩の成分と大差なし
海外の塩の成分

 海外から輸入される小物食用塩も海水を原料にする限り、成分的には食塩と同じと考えて良いと思います。
 しかし、多くは岩塩を原料としていますし、いろいろな目的で添加物を加えれば、当然成分も変わってきますので、一概に述べることはできません。

 海外の先進国では、食用塩はほとんどの場合、岩塩を溶かしてカルシウム、マグネシウム、硫酸イオンなどを除去した後、真空式蒸発缶で煮詰め、できた塩を乾燥してつくられます。しかし、中には天日塩を粉砕して洗浄し、乾燥後に篩(ふるい)い分けして製品にしたものもたくさんあります。
 また、非常にまれですが、岩塩を粉砕して、篩い分けした商品もあります。この場合、非常に純度の良い岩塩でなければなりません(ほとんどの岩塩は純度が低く、直接食べられません)
 ヨーロッパ、アメリカで販売されている多くの商品を購入し、成分を分析した結果の中から、せんごう塩、天日塩、岩塩について、それらの成分を範囲としてに示しました。
 この表に示されている塩の純度は、一番低い値で96.439%以上になっていますが、ほとんどの製品
99%以上の高い純度となっております。グラフに示す食塩の成分と数値的には大きな差はないといえます。

世界の食用塩の成分
水分 不溶解分 CaSO4 CaCl2 MgSO4 MgCl2 KCl Na2SO4 NaCl 試料点数
せんごう塩 0.94 0.541 0.173 - 0.008 0.754 0.450 0.749 98.365 75点
天日塩 0.600 0.910 0.468 0.807 0.445 0.678 0.948 - 96.493 49点
岩塩 0.086 0.060 0.111 0.038 - 0.024 0.011 - 99.697 2点
(NaCl純度は“以上”、たはすべて“以下”の%濃度範囲で表した)