たばこ塩産業 塩事業版  1997.07.25

塩なんでもQ&A

(財)塩事業センター技術部調査役 

橋本壽夫

 

限りなき豊かな塩資源

 

 新聞「たばこ塩産業」(塩事業版)を読んで、私たちが日頃使っている塩は海水から採取していると知りました。聞くところによりますと、塩は海水からのほかにも地中に埋まった岩塩もあるといいます。岩塩は埋まっている分だけでしょうし、海水も一見無尽蔵にあるように思いますが、考えてみれば地球上にあるだけの限られた資源という気もします。よく、「石油はあと何十年で掘り尽くしてしまう限られた資源」などという話を聞きますが、塩も取り尽くしてしまうことがあるのでしょうか?一体この地球には、どんな形で、どのくらいの塩が存在しているのでしょうか、そしてどのくらいまで人間が利用できるのかを教えて下さい。                       (東京都・団体職員)

すべては海水から

地球上の塩資源
 地球上で最大の塩資源は海水です。塩資源はすべて海水から始まっています。海は地球表面の約71%を占め、136×1016 tの海水中に4.93×1016 tの塩が含まれているそうです。1016 tという桁数は10億の1千万倍という途方もない大きさです。
 海水中の塩は、地球内部のマントルから海に放出された物や、火山によって陸地に放出されたものが雨水によって溶かされ海に集められたものです。海ができてから海水の塩分濃度は大きく変わっておらず、少なくとも過去2億年間はほぼ一定であったといわれております。地球上の塩資源には、海水が蒸発してできた岩塩鉱床、岩塩になる前に濃い塩水のまま地中に閉じ込められたかん水、または岩塩が地下水によって溶かされてかん水となって地中に溜まっているもの、内陸の湖に流れ込む川から塩分が運び込まれ塩湖になったものなどがあります。
 塩づくりはこれらの資源、すなわち、岩塩、かん水、海水、塩湖の水などを原料として行われています。

ソルト・ドーム形成

岩塩の形成
 岩塩の形成については、19世紀末ごろにオクセニウスが砂州理論を提案しました。それによると、数億年前に陸地で囲まれた海水が乾燥した気象条件により蒸発して干上がり、塩分が析出して層を成したものと考えられています。この状況はカスピ海からの分離が進行しているカラバガス湾で今でも見られるそうです。
 深さ100 mの海が完全に蒸発すると1.5 m程度の塩の層ができます。岩塩鉱床は厚さ1 mのものから330 m以上にも達しているものもありますが、一層だけでなく、何層にも分かれてできている場合もあります。これは一度できた岩塩層の上に、新たに海水が入ってきて粘土が沈積し、その上に岩塩層ができたものです。

岩塩ドーム

 岩塩形成には砂州理論の他に、2, 3億年前に一つの大陸であったゴンドワナ大陸が割れて今の大陸に分かれてとき、大陸内部の海水面より低い所に流れ込んだ海水や、裂けた谷間に流れ込んだ海水が蒸発して岩塩ができた、との説もあります。
 大陸が海の方へ広がった結果、岩塩層は大陸の周辺にあることが多く、地下に埋まっている岩塩が地表に出れば、溶解して海に戻るといった循環を繰り返しているそうです。約8億年前にできた岩塩鉱床は数が少なく、2, 3億年前のものが沢山あり循環が進んでいることを示しているといわれます。
 岩塩層は、最初には地表に水平な形であったものでしたが、地殻変動や火山活動、岩石の堆積によって地下数千m以上に閉じ込められたものもあります。塩の比重2.16よりも重い岩石が岩塩層の上に8mもの高さで乗りますと、岩塩層は高い圧力を受け、温度が200 ℃以上になりますとプラスチックのように流れ、圧力の低いところを通って岩塩層は上に伸び、ソルト・ドームといわれる塩の柱を形成します。年間0.1から1 mmの速度で数百万年をかけて上昇し、その高さは1m以上に達するものもあり、メキシコ湾岸には300個以上ものソルト・ドームがあるといわれております。

枯渇する心配はなし

岩塩の埋蔵量?
 岩塩の正確な埋蔵量は、石油や石炭と同じように分かりませんが、岩塩鉱床の広さと量は想像を絶する程で、ドイツだけでも200tあると推定している文献があります。このような岩塩層はヨーロッパ、北アメリカ、旧ソ連、中国にたくさんありますので、まさに無尽蔵な資源という言葉が当てはまります。 ちなみに現在、世界で生産されている塩は、海水を原料にして製造されている天日塩も含めて、1年間に2t足らずですから、石油や石炭のように将来、枯渇してしまうという心配はありません。

岩塩採鉱の様子

大半は純度約90

岩塩の品質
 岩塩は白く透明できれいなものというイメージを持っている人が多いように思いますが、実はそのような品質のものは非常に少なく、鉄、マンガン、銅、鉛、銀、金などの微粒子や化合物が含まれているためにさまざまな色をしています。
 例えば、桃色、橙色、赤色、黄色、緑色、青色、灰色といった具合です。純度については、100%近い純粋なものは少なく、大半は90%前後と低いものです。結晶の質は固い岩石のようなものもあれば、触れればぼろぼろと崩れていくものまでいろいろです。
 前述した岩塩の出来方を考えてみれば、純粋なものができる条件はまれで、さまざまなものができるのが当然のように思われます。

ソーダ工業の原料

岩塩の利用法
 岩塩は石炭を掘るように、岩塩層を発破で爆破し採鉱するか、または岩塩層に管を通して水を注入し、塩を溶かして採鉱します。このようにして採鉱された岩塩の多くはソーダ工業の原料として使われます。 次に多い用途は、主としてアメリカやヨーロッパで冬期の雪や氷を溶かすために道路に撒くことです。この場合には、純度が低くてもかまいませんので、そのまま粉砕されて年間2千〜25百万tも使われます。
 非常に品質の良いものは粉砕して食塩として使われるものもあるようですが、食塩として使われる物の大部分は、一度溶解して薬品で精製した後に真空蒸発缶、または加圧式蒸発缶で煮詰められてつくられます。
 その他に、純度が低くても粉砕した岩塩にさらに不足しているミネラルを添加して塊にしたものが、家畜になめさせるためにつくられています。

溶解再製法の概念図