たばこ産業 塩専売版  1995.10.25

「塩と健康の科学」シリーズ

(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与

橋本壽夫

減塩の危険性(1)

一般的に減塩は危険ではないようにいわれているが、以前にもこの欄で減塩の危険性について、いくつか心配される項目について述べたことがある。その他に、減塩で血圧が逆に上昇する人もおり、最近では悪玉コレステロールが上昇するとも報告されている。そのあたりのことを紹介する。

減塩で血圧上昇
 血圧の正常な人82(男子36人、女子46)19.2グラムの食塩摂取量から4.0グラムに12週間減塩した時の様子を表した図1は、前にも紹介したことがある。これはアメリカのインディアナ大学、ミラーらの研究で、減塩により血圧が下がるとは限らず逆に上がる人もおり、多くは減塩の効果がないことを示した。仮に±3 mmHg以内を効果がない比率とすると、それは53%となり、血圧が下がる人は30%で、17%の人は血圧が上がることになる。
    正常血圧の大人で減塩した後の平均動脈血圧の変化

 図1 正常血圧成人で減塩した後の平均動脈血圧の変化

 ミラーらは子供でも減塩に対する血圧の応答を調べている。健康で正常な血圧の子供149(男子60人、平均10.6±0.4歳、幅4.217.8歳:女子85人、平均9.7±0.4歳、幅2.619.8)12週間、食塩摂取量を通常の約半分である4.4グラム以下に維持した時の血圧応答は、図2に示したように平均動脈血圧が変わらない人を中心に血圧が下がる人と上がる人がいることを示した。前と同じように±3 mmHgで区分すると、それぞれ33%、47%、20%となった。
  正常血圧の児童に対する減塩による血圧応答の変化
   図2 正常血圧児童の減塩に対する血圧応答

 ドイツのボン絵合医科大学のレポートらも肥満していない正常血圧者163人の成人被験者(男子98人、女子65人、平均年齢38±1.2歳、幅1978)18グラムの食塩摂取量から1.2グラムという厳しい減塩を1週間行ったところ、19%の人が血圧低下を示し、66%の人は変わらず、15%の人は逆に血圧が上昇したことを報告している。

減塩でコレステロール、その他増加
 前述したレポートの報告では、厳しい減塩で血清中の総コレステロールおよびLDL-コレステロール(悪玉コレステロールといわれている)が有意に上昇した。しかし、中程度の減塩(12グラムから5グラム)ではそれらの濃度は変化しなかった。
 フリーザーらも健康で正常な血圧者の厳しい減塩(12グラム食塩摂取量から7.2グラム) で総コレステロールとLDL-コレステロールの有意な上昇を観察しており、長期間の食塩摂取量の制限は危険であるかもしれないと述べている。
 リオとロドリゲス・ビラミルは30人の軽症高血圧者で食塩摂取量11.7±2.5グラムから2.8±1.0グラムに2週間減塩し、総コレステロールの有意な上昇とその他レニン活性や尿酸、クレアチニンなどの上昇も報告している。このようなコレステロールの上昇は他にも報告されているが、必ずしも上昇するわけではなくまだ不確定であるが、あまり良いことではなさそうである。ここに報告されている減塩の程度はいずれも厳しいもので、通常の食生活ではとても達成できないので、減塩でそうなることを心配する必要はないと思われる。
 しかし、リオらが減塩について述べていることは傾聴に値すると思うので、以下に引用しておく。
 『腎臓がナトリウム収支を維持する能力を持っているので、非常に少量の食塩摂取量であっても食塩摂取量の低減は大きな危険とはならない、と一般的に考えられている。血圧を下げるために健康な人々に恐れることもなく減塩を勧めている理由がこれである。しかし、これは疑わしい意見である。第一に、人々に低塩食を幅広く取らせることから得られる推定上の利益はまだ証明されていない。第二に、年齢、健康状態、運動'労働条件、その他の要因について、かなりの部分の人々が減塩に対して影響を受けやすいことが証明されている。長期間の研究で不都合な代謝変化が確認されれば、現時点では食塩摂取量の堅実な低減は臨床上の観点から不都合な代謝変化を引き起こす可能性があることを考えておかなければならない。無差別に減塩を勧める前に、食塩欠乏の状態についてもっと情報を得ておくことが重要である』
 以上、減塩の危険性について新しい情報を紹介した。不必要な減塩をむやみにすることに正当性があるかどうかの判断材料になれば幸いである。