たばこ産業 塩専売版  1994.11.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

食塩と高血圧に関する海外の報道(9)

食塩の悪いイメージを払拭

 食塩と健康に関する問題が海外のマスコミでどのように報道されているか、これまで何回か紹介してきたが、今回は今年53日付けのコロンブス・ディスパッチで報道された記事を紹介する。

食塩の取りすぎは高血圧の原因となる。本当か嘘か?

多くのアメリカ人は本当であると信じている。その結果、食塩の摂取量を減らすように促す国民保健運動が10年以上も続いてきた。しかし、本当のところ大多数の国民は食塩を恐れることは何もない。
 高血圧の危険性を下げるために、アメリカ人の食事ガイドラインは食塩の使用を程々にするようにいっているけれども、アメリカの人口のわずか1015%だけが食塩感受性であると考えられる。残りの人である8590%と高血圧である人の半分は食塩を制限しても何の変化もないか、逆に血圧が上がることがあるかもしれない。
 カリフォルニア大学の栄養学者ブロンツは明らかに大部分の人々にとって、食塩は問題ではない。我々が知っている限り、程々の食塩摂取量にする必要のある人々は16人に一人である≠ニ言っている。
 オハイオ州立大学の栄養学教授オールレッドも同じ意見で、食塩感受性の人はほんのわずかな人たちだけである″と言っている。その数は全人口のわずか25%であろうと推定している。それにもかかわらず、食塩に何の問題もない数100万人の人々が塩味を楽しむことに罪悪感を感じている。
 高血圧はアメリカ人3人のうち1人に影響を及ぼし、アメリカ政府は高血圧を重要な国民保健問題であると考えている。高血圧は主要な死因である心疾患や脳卒中と関係している。アフリカに祖先を持つアメリカの黒人は最高の高血圧発症率を示す。
 科学者たちは、アメリカ人が1日当たり815グラムの食塩、すなわち推奨値6グラムをはるかに超えて摂取していると推定している。
 食塩と高血庄との関係は1944年頃に気づかれた。通常のアメリカ人の食塩摂取量の20分の1しか食塩を含まない食事を高血圧患者に食べさせたところ、3分の2の患者で血圧が低下した。食塩をほとんど食べない集団の調査とともにラットによる動物実験が続けられた。結果は食塩摂取量と高血圧との強い関係を示し、アメリカ人は食卓で食塩を使わないようにと国は勧めてきた。
 しかし、1988年に32ヶ国から1万人を調査したインターソルトと呼ばれる科学的な調査は食塩と高血圧の仮説を強打した。高血圧に食塩が何らかの役割を果たしているとしても、それは弱いものであると研究者たちは主張した。
 インターソルトの結果が発表されてまもなく言われた意見で、オレゴン保健科学大学のマッカロン教授は体重調整、過剰なアルコール摂取の中止、毎日の運動、喫煙の節制で生活様式を変え、専門家が勧める栄養を取ることで血圧をかなり低下できる可能性があると言っている。インターソルト・スタディから5年経ってもアメリカの社会はまだ食塩を避けるように勧めている。
 昨年、アメリカの食品医薬品局は、全国民が食塩摂取量を下げるべきであることを再強調した。食塩と高血圧との関係についての健康表示を食品に義務づけることを決定するに当たって、食塩摂取量は生物学的要求量(10.3グラム)より過剰で、中程度の食塩摂取量は何の悪影響もなく、国民の大部分は利益を得るであろう。食塩感受性の人を確かめる簡単で実際的な方法はない。したがって、公衆保健局は、すべての人々が中程度の食塩を使うことを勧める〃と当局は述べた。
 カリフォルニア大学の生物学教授ソルトマンはその勧告に反対した。問題があっても、それを社会の他の人々に負わせてはいけない〃と述べている。肥満、喫煙、高いストレス、腎臓機能の弱い人のように高血圧になりやすい人や遺伝的に高血圧になりやすい人は食塩摂取量に注意する必要がある。しかし、そうでない人々に生活様式を変えるように脅迫すべきではない。科学的無知は非難されるべきである。我々の国は科学と数学の世界では18番目にランクされる。アメリカ人は良い健康を達成させるためには何が必要であるか、体がどのように機能するか学ぼうとしない″。その結果、政府は簡単なドグマで国民に誤った食事をさせるように踏み出す。
 以上のような記事であるか、日本人も多くの人が、食塩の取りすぎは高血圧の原因になると思っているのではなかろうか。しかし、少なくとも高血圧の家族歴がなく、肥満しておらず、アルコールもあまり飲まず、たばこも喫わないで健康な人は十分に塩味を楽しんでおいしい物を食べられそうである。