たばこ産業 塩専売版  1990.06.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

食塩摂取量と高血圧性疾患その他死亡率や受療率との関係(1)

 食塩と高血圧の問題は疫学調査の結果に端を発したことである。我が国には保健問題に関する各種統計調査があり、国民栄養、健康、医療政策立案のために厚生省が力を入れて調査している。毎年発表される「国民栄養調査」「人口動態調査」の他に「国民生活基礎調査」(3年毎)「主要死因別訂正死亡率・人口動態統計特殊報告」(5年毎)「患者調査」(毎年、昭和59年より3年毎)がある。
 これらの調査報告値を食塩摂取量との関連で整理すると、一般的に考えられていることの信憑性が怪しくなっている。
 まず、食塩摂取量の1番多い東北地区と1番少ない近畿T地区について高血圧性疾患、脳出血、脳血管疾患について整理すると図1のようになった。

食塩摂取量最高地域と最低地域の疾患死亡率の経時変化
 図1 食塩摂取量最高地域と最低地域の疾患死亡率の経時変化

 高血圧性疾患については年々低下しているが、食塩摂取量の少ない近畿T地区の方が死亡率が高い傾向にある。脳出血については食塩摂取量の高い方が、死亡率が高い傾向にある。脳血管疾患については明らかに差があり、東北地区の方が高い死亡率を示しているが、近畿T地区との差は急速に縮まってきている。
 訂正死亡率は都道府県別に記載されている。一方、食塩摂取量は地区別に記載されている。したがって、食塩摂取量のデータと地域を合わせるために、都道府県別のデータを地区毎に単純平均して、食塩摂取量の地区別データと組み合わせて昭和55年度、60年度について図2に示した。この図から食塩摂取量と高血圧性疾患は関係ないことが分かる。若干の関係がありそうなのは脳出血であり、かなり関係のありそうなのは脳血管疾患である。

食塩摂取量と関係疾患死亡率
        図2 食塩摂取量と関係疾患死亡率

 ところで脳血管疾患は、実は脳出血、脳梗塞、その他の脳血管疾患と三疾患に分類されている疾患の合計値である。高血圧性疾患も高血圧性心疾患とその他の高血圧性疾患の合計値である。したがって、個々の疾患との相関をみる必要があるが、次の機会に譲りたい。
 ここでは、脳出血だけが独立した疾患であるので、これについてさらに詳しく年齢別のデータを図3に示した。

食塩摂取量と年齢階級別脳出血死亡率
    図3 食塩摂取量と年齢階級別脳出血死亡率

 この図を見ると、高年齢になるほど食塩摂取量との相関はなくなる傾向にあり、80歳以上のデータでは昭和55年度は逆相関、昭和60年度は相関なしの結果である。
 このように食塩摂取量と疾患死亡率との関係は意外な結果となっている。