たばこ産業 塩専売版  1990.03.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

国民栄養の現状調査 食塩を中心に

 国民栄養所要量によって約5年間にわたる栄養指導、食生活指導の指針を定め、毎年の国民栄養調査によって、どのくらい栄養所要量に到達しているかを厚生省は把握し、指導の根基としている。もう一つ国民栄養調査に影響を及ぼす要因として、昭和60年に厚生省が発表した「健康づくりのための食生活指針」がある。その指針は次のようになっている。
1. 多様な食品で栄養バランスを
      130食品を目標に
      主食、主菜、副菜をそろえて
2. 日常の生活活動に見合ったエネルギーを
      食べすぎに気をつけて、肥満を予防
      よくからだを動かし、食事内容にゆとりを
3.       脂肪は量と質を考えて
      動物性の脂肪より植物性の油を多めに
4. 食塩を取りすぎないように
      食塩は110グラム以下を目標に
      調理の工夫で、無理なく減塩
5. こころのふれあう楽しい食生活を
      食卓を家族のふれあいの場に
      家庭の味、手づくりのこころを大切に
  さて、先般、昭和63年の国民栄養調査成績が発表された。その中で食塩摂取量はに示すように12.2グラム/日となっており、前年と比べ0.5グラムも上昇した。それまでの10年間で1.7グラムしか下がっていないのに、1年間で0.5グラム上昇し、昭和59年と同じ水準になってしまった。厚生省としては目標摂取量に近づけるために、今後一層の食生活、栄養指導を強化することになろう。

食塩摂取量の年次推移
     図 食塩摂取量の年次推移 (全国平均1人1日当たり)

この2月に日本海水学会主催の海水技術研修会で、東邦大学豊川裕之教授の「塩と健康」に関する講演を聞くことができた。その折、控室での雑談で食塩摂取量が11.7グラムから12.2グラムに上昇したことが話題となった。先生は食塩摂取量が増加するのは当然のことと言われた。先生も委員の一人として携わった「健康づくりのための食生活指針」の中で定めた、130食品を目標に多様な食品で栄養バランスをとろうとすれば、食塩の摂取量は増える、というのである。
  ちなみに、昭和61年の摂取食品数は22品目で、目標の30品目にはなっていないが、その後の調査では摂取食品数の整理はされていないので、先生が言われていることが本当であるかどうかについては分からない。しかし、厚生省の栄養行政の中では矛盾しているようにも思え、今後の傾向がどう出るか関心のあるところである。
  ところで、食塩摂取量の求め方であるが、栄養調査の方法とも合わせてよく把握しておく必要がある。数値が決まるまでのことを中心に要約してみる。63年の調査では、全国から無作為に抽出した300地区内の約6千世帯の世帯員2万人を対象としている。祝祭日を除く11月中の連続した三日間を選び、その間の食事状況(家庭食、外食、欠食の区分)と食べた食事の料理名、食品の名称と数量を調査用紙に記入させる。秤を用いて秤量できないほど少ないものは目安量を記入させる。調査期間中に少なくとも11回以上、調査員である栄養士は被調査世帯を訪問し、記入状況を点検するとともに不備な点の是正や記入要領の指導にあたる。
  各世帯が記入した食物摂取状況記入帳の三日間の摂取食品を各地区の調査員は三日分取りまとめて各食品別に純摂取量を累計する。全食品を97食品群にまとめ、昭和56年度の食品群別摂取量を基礎にして作った食品類別加重平均成分表を使用して全ナトリウム量を算出する。全ナトリウム量を2.54倍して食塩量に換算する。厚生省では、提出された各世帯別、個人別に作成された調査表を審査し、1人1日当たり栄養摂取量、その他を集計、製表する。国民栄養調査における栄養摂取状況調査成績は被調査世帯総数の総摂取量を単純平均して、1人1日当たりとして算出し、毎年発表されている。
 諸外国には、このような詳細な調査から出された数値は見当たらないが、参考までに目に触れた文献値を示すと、フィンランド12.6グラム、スェーデン8.0グラム、アメリカ1012グラム(以上O. vander Veer)、西ドイツ10グラム(ECHO No.37)、アメリカ810グラム(ACSH資料)、アメリカ618グラム(JAMA VOL.258)といった数値がある。