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2019.02.01

 

高血圧の原因は塩ではなく砂糖?

 

塩が高血圧の原因ではないかと仮定され、そうではないらしいことが明らかになるにつれて、減塩政策の可否を巡って盛んに論争が行われている中で、同じ白い結晶である砂糖が原因であり、塩より砂糖の方が悪いという論文が発表された。そのことを紹介しよう。イギリス医師会雑誌(BMJ)は医学分野の研究成果を早く提供できる場としてBMJ Openを創刊し、1914年から始まった心臓関係の研究誌BMJ Journals openheartで心臓の危険因子と予防をレビューした「悪い白い結晶:高血圧と循環代謝疾患の原因として塩ではなく糖質」と題する論文をJames J DiNicolantonioは発表した。彼は2017年に出版された書籍The Salt Fixの第三章「塩に反対した戦争-どうして我々は白い結晶を悪者にしたか」でも砂糖を悪者にした経緯を述べている。ここでは前者のレビュー論文の内容から紹介する。

このレビューを発表した問題意識として現状を次のように書いている。

  心血管疾患は先進国における早死の主原因で、高血圧は最も重大な危険因子である。

  高血圧を管理することが公衆保健政策の要点であり、そのための食事管理では歴史的に塩に置かれてきた。つまり減塩政策を勧めてきた。

このレビューで分かってきたことを次のように書いている。

  食事における塩摂取量の最大の給源は加工食品であるが、それには一般的に砂糖も多く加えられている。砂糖の摂取量も比較的多く、それは高血圧と心臓代謝の危険率と直接的に関係している。

この結果を受けて医療業務にどう生かすべきか、あるいは社会にどのような影響を及ぼすかについて次のように書いている。

  医者は塩の摂取量からもっと重大な食品添加物である砂糖の摂取量に焦点を移し、それに大きな注意を払うべきである。

 

 現在勧められている全人口に対する減塩政策の結果として、高血圧、肥満、二型糖尿病、脂質異常症の発症率を増加させるとか、総合的な脂質代謝の危険性をもたらすと言った意図しない結果をもたらしていることを図1のように推定している。

ラットに砂糖を与えると交感神経系が活性化する。そのことは心拍数、レニン分泌、腎臓ナトリウム保持、血管抵抗を増加させることになる。これらの効果の全ては血圧を上昇させるように相互作用する。事実、ラットに砂糖を与えると血圧は上昇する。

論文の表題では砂糖となっているが、必ずしも砂糖として特定している訳ではなく糖類と表現されており、砂糖はグルコースとフラクトースが結合した化合物である。この糖類の中で特にフラクトースは様々な機構を通して総合的な心血管の危険率増加に寄与しているらしいことをエビデンスは示唆しているとして図2の機構を提示している。

 

 

2 フラクトースの高血圧発症機構。矢印は中間体を通して直接的効果または間接的効果を現す。中間体を次のように示す。NO, 酸化窒素;RAS, レニンーアンジオテンシン系;RNS, 反応性窒素類、ROS, 反応性酸素類

 

 レビュー論文の結論として、高い糖含有量の食事は実質的に循環代謝疾患(二型糖尿病、肥満、肝臓病)に寄与するかもしれない。果物の糖類は関心を持たれないが、疫学的、実験的エビデンスでは、加えられた糖類(特にフラクトースの多い加工食品)が問題で、循環代謝と一般的な健康を支える食事ガイドラインで明快に添加糖量を目標とすべきである。高血圧について加えられた糖類は多分塩摂取量よりも多分大きな問題であり、特にフラクトースは代謝障害を起こし、血圧変動、心筋酸素要求量、脈拍数、炎症を増加させることにより心血管疾患の危険率を独自に増加させるかもしれない。このことから将来の食事ガイドラインは加える糖類の許容量をもっと明快に制限すべきである。

 重要なポイントとして下記の事項を示している。

  砂糖は塩よりも血圧により意義深く関係しているかもしれない。

  加工食品の減塩は循環代謝疾患の高い発症率を引き起こす糖類の摂取量増加につながるかもしれない(図1)

  高い砂糖摂取量は8週間以上の試験で収縮期血圧(6.9mmHg)と拡張期血圧(5.6mmHg)という意味のある上昇を示す。砂糖産業界からの資金を受け取った研究を除くと、この効果は7.6/6.1mmHgに増加する。

  680 mlの飲料摂取は15/9mmHgの平均最高血圧上昇と9 bpmの脈拍数上昇を引き起こすことを示してきた。

  加えられた糖類から25%以上のカロリーを摂取している人々は心臓血管疾患による死亡危険率をほぼ3倍に増加させる。

  フラクトースは交感神経系感受性に直接的に刺激し、インスリン抵抗と高インシュリン血症を引き起こすことにより間接的に刺激することを示してきた。

  フラクトースの過剰摂取からの交感神経系感受性の上昇は、砂糖の能力が脈拍数、心臓拍出量、腎ナトリウム保持、血管抵抗を上昇させる機構の一つであるようで、それらの要因の全ては血圧を上昇させ、心筋酸素要求量を増加させることと相互に作用するらしい。

  2週間の高いフラクトース食は24時間歩行時血圧を有意に増加させ、脈拍数を8(4 bpm)上昇させるだけでなく、トリグリセライド、空腹時インシュリン、ホメオスタシスのモデル調査指数も増加させる。過剰なフラクトース摂取量はメタボリック症候群の発症率を2倍にすることも示されてきた。

  現在のアメリカ人で加えられた糖類の一人当たりの摂取量は、アメリカ心臓協会とWHOによる現在の勧告値よりも約2 – 8倍高い。特に青年を考えると、現在の摂取量は6 – 16倍も高い。

  自然物(例えば、果物)にあるフラクトースを含めた糖類の摂取量は有害ではなく、有益であるらしい。

 

 今のところ、高血圧の原因は塩ではなく砂糖であるとする学者は非常に少ないが、このようなレビュー論文が発表されたことを契機に糖類と高血圧との関係を研究する研究者が増加するであろう。