塩から微量ミネラルを有用に摂取できると本気で
信じている愚かな科学者達 1
塩から塩化ナトリウム以外のミネラルを意味あるほどに摂取できると本当に思って著書に書いている科学者が多いことに驚く。これらの科学者は塩からどれくらいのミネラルが摂取できるかの具体的な数値を示していない。先に述べた白澤卓二氏がその一人であるが、その後調べてみると、白澤卓二氏のような自然塩信奉の学者が何人かおり、それぞれの著書でそのことを書いている。目に止まった学者の著書を出版された順に取り上げ、その内容を取り上げコメントしたい。
1.平島裕正 1928年生 医学博士 私立女子大教授 公立病院院長
著書「日本人の健康と塩」1986年出版、三晃書房
フェイクな記述:塩は、ことに日本のように「海塩」を用いている場合、海水中にはたくさんの微量元素が含まれていて、海塩にはそれらが自然のバランスと量で結晶させられ、かつての塩は、そういう塩であったのです。25ページに記載。
コメント:海水中には全ての元素が溶存していると考えても良いが、主要元素であるナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、塩素、硫黄(硫酸イオンとして)の各イオン濃度を除いた各元素のイオン濃度は非常に、あるいは極めて低い。いくら多くの元素があってもその元素が体に有効に働くほどの量があるかどうかが問題である。海水が濃縮されて塩が析出し収穫される製塩工程中に析出してくる塩類は硫酸カルシウム(CaSO4)だけでこれが塩の中に混入する。(但し、塩が析出する前に酸化第二鉄Fe2O3、炭酸カルシウムCaCO3とCaSO4が析出する) この化合物は胃で分泌される胃酸(塩酸)でも溶けないので、体内に吸収されることはなく役に立たない。
塩の中に混入して来るのは塩の結晶の周囲に付着している母液(塩を生み出す液という意味で、製塩工程の最終段階ではニガりと言う言葉になる)の中に存在している元素である。その主成分は概略塩化マグネシウム(MgCl2)20%、硫酸マグネシウム(MgSO4)5%、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、臭化マグネシウム(MgBr2)である。塩に付着している母液量は塩を積み置き放置しておく場合4~10%、遠心分離にかけると1~2%程度になる。
毎年厚生労働省から発表される塩の摂取量は10 g/d程度まで下がっており、そのうち家庭で購入されて使われるのは10%の1 g/d程度である。1 gの塩にニガりが10%付着しているとすると、ニガり量は0.1 gとなり、さらにその中の塩化マグネシウムは0.02 gとなる。塩化マグネシウムの1/4がマグネシウムですから、一番多く含まれているマグネシウム量でも0.005 gにしかならない。このように実際の数値を計算してみると、塩からマグネシウムを摂取することは期待できない。
それにもかかわらず、著書では「海塩には海水中に含まれている沢山の微量元素が含まれていて、海塩にはそれらが自然のバランスと量で結晶させられ、かつての塩は、そういう塩であったのです。」と書かれており、極めてあいまいな表現で自然のバランスと量で結晶させられとあるが、自然のバランスや量が具体的にどのような数値かは書かれていないし、微量元素が結晶となることはない。エビデンスを示さないで印象や思い込みだけで書かれている。
ここで沢山という表現の中身は量ではなく種類であり、あいまいな表現で量が沢山あるように誤解されかねない。
2.八藤眞 1959年生 栄養士、調理師、衛生管理士 FLI食と生活情報センター所長
著書「塩と水の聖なる話」1996年出版 青春出版社
フェイクな記述:『塩』は純度99%、全てのミネラルを削ぎ落したNaCl、塩化ナトリウムの結晶にすぎません。同じ『塩』とはいっても、それは、かつての海と太陽のめぐみをたっぷり受けた天然の『塩』、自然の『塩』とは、全く違ったものなのです。16ページに記載。
コメント:最初に記述されている『塩』はイオン交換膜製塩法で製造された塩の「食塩」という商品を指している。この塩が全てのミネラルを削ぎ落したNaCl、塩化ナトリウムの結晶にすぎません、と記述されているが、果たして本当か?下の図を見ると全くの嘘でフェイクであることが分かる。かつての海と太陽のめぐみをたっぷり受けた流下式塩田時代の塩と大差ない。
フェイクな記述:健康を損ねる悪者としての『塩』――。そんなものは、本来、あり得ないと、私も実は、声を大にして叫びたいのです。健康を害するような『塩』は、この世に存在するはずがないと。しかし、残念なことに、それがこの世に存在するのです。本来の『塩』に似て非なるもの。はっきり申し上げますと、精製された塩がそれなのです。精製塩?耳慣れないなあ。そんなもの私たちには関係ないだろう。と、思っていらっしゃる読者がいたら、大間違い。『塩』悪者説の主人公は、実はこの精製塩で、その精製塩は、日本中の家庭の食卓やキッチンにパック容器に入ったり、赤いキャップのガラスのビンに詰められたりして、常備されており、日常的に使用されているのです。44‐45ページに記載。
コメント:精製された塩が本来の『塩』と似て非なるもの、との認識だが、私に言わせれば精製された塩と筆者が本来の『塩』と言っている物は似たり寄ったりのもので、大差があるとは言えない。精製された塩の成分変化は上の図に示した通りであるし、本来の『塩』の表示が消費者に優良誤認させる表示になっていたので、公正取引委員会の指導で是正され、塩の公正な取引商品であることを保証する公正マークの表示をするようになった。
著者が精製された塩と称している商品はイオン交換膜製塩法で製造された食塩という銘柄の商品を指していると思われるが、赤いキャップのガラスのビンに詰められている塩はイオン交換膜製塩法で製造された塩ではなく、メキシコやオーストラリアから輸入された天日塩を水に溶かして、カルシウム、マグネシウムを除いて煮詰め直して作られた塩で、混乱して認識している。
『塩』悪者説の主人公は、実はこの精製塩であるとする全くの間違いである。この精製塩よりもっと純度の高い塩が医薬用の生理食塩水、リンゲル液、腎臓透析の液に原料として使われるが、これを悪者として認識していることが正しいのだろうか?これは常識で見違っていると誰でも判断するであろう。
フェイクな記述:『塩』本来の塩とは、塩化ナトリウムが少なくとも80~90%以下の、残りをカリウム・カルシウム・マグネシウムを始めとした多量のミネラル群が占めている塩のことなのです。それらの塩は海の水をそのまま天日にさらし乾燥させた“本当の塩”であり、しかも、乾燥後は、さらに1年もかけてじっくり熟成し、その過程で、よけいなニガリやアクを取り除くという、文字通り手塩にかけて作られた食品だったのです。これからは、そうして手間暇をかけて作られた、本当の塩のことを熟成発酵塩と呼ぶことにしましょう。45‐46ページに記載。
コメント:ここで記述されている本来の塩の成分、塩化ナトリウムが少なくとも80~90%以下の、残りをカリウム・カルシウム・マグネシウムを始めとした多量のミネラル群が占めている塩を通常の方法で作ることはできない。その理由は下の図を見れば分かる。海水と塩の組成を示しており、上の棒グラフは水分(右側の目盛)を表し、下の棒グラフは塩の組成(左側の目盛)を表している。例えば、1902年(塩の専売制度が始まる(1905年)前)の塩の組成は水分が16%ほどもあり、それを除いた乾物基準での塩の純度は86%で、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硫酸カルシウム(CaSO4)、その他がそれぞれ4.5, 3.5, 2.5, 3.5%くらいに読み取れ、非常に純度の低い塩であった。一番左側のグラフは海水組成であり、塩の純度は78%低度で共雑物が22%ほどあり、海水を噴霧乾燥、ドラムまたは鉄板乾燥させる特殊な製塩法ではこのような塩が製造できる。
著者が述べている本来の塩とは水分込みで塩化ナトリウムが少なくとも80~90%以下で残りを他のミネラルが多量に含まれていると述べているが、他のミネラル量が具体的に示されていないので本来の塩の組成を判断できず、曖昧な表現で逃げている。図からは戦前の平釜式の塩くらいまでが該当するのであろうか。
海水をそのまま天日にさらして乾燥させた“本当の塩”は世界のどこの塩田でも作っていない。海水を濃縮すると塩が析出てきて、さらに濃縮して硫酸マグネシウムが析出する前に液体として残っているニガリを排出して塩を搔き集めるからだ。搔き集めた塩は乾燥されていない状態で山積みしてニガリを出来るだけ切る。乾燥後はとあるが、乾燥工程はない。さらに1年もかけてじっくり熟成し、とあるが日本で1年もかけてよけいなニガリやアクを取り除くということはしなかった。そのようなことをする屋内の場所もないし、倉庫料のかかる時間をかけるゆとりはなかった。この間のことを熟成と称しているが、無機化合物を熟成すると言う表現はない。熟成とは微生物や酵素が関与して有機物の性質、品質が変わる時に使う言葉。塩に熟成と言う言葉を使うことによりさも塩が良くなるような印象を与えて、消費者に誤認させている。
文字通り手塩にかけ手間暇かけて作られた、本当の塩のことを熟成発酵塩と呼ぶことにしましょうと、とんでもないことを書いている。塩を熟成発酵で製造するなど聞いたこともない。発酵は酒、醤油、味噌などを製造する工程で使われる言葉で、いずれも微生物が関与している。微生物が関与しない熟成発酵で塩が出来る理由はない。衛生管理士である著者は、塩は腐る物と考えているのであろうか?
フェイクな記述:塩化ナトリウム、NaClという、精製された塩。純度、95%以上、現在、私たちの身近にある食塩は、そのほとんど全てが精製塩であり、きわめて高純度な塩化ナトリウムです。これは本来“食べるための塩”ではありません。NaCl=塩化ナトリウムを食塩、食べるための塩としたことが誤りなのです。輸入原塩は、もともと食べるためのものではなく、ソーダ工業に使われているもので、輸入原塩の95%以上は工業用です。47ページに記載。
コメント:精製された塩の純度が95%以上としているが、これは単なる間違い。食塩、食卓塩(赤いキャップのガラス瓶)の純度はいずれも99%以上であるからだ。これらは本来“食べるための塩”ではない、とは無茶苦茶な認識である。その理由はフェイクな記述の二番目にコメントした。輸入原塩は食品製造や加工でも幅広く使われている。醤油、塩サケ、塩蔵ワカメなどの製造には原塩が使われる。
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以上、二名に著者の著作に記述されているフェイクな記述を指摘したが、いずれの著者もエビデンスを確認しないで思い込みだけで記述しているように思われる。そのため、全くの認識不足で誤った記述をしている。