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2017.01.01

 

減塩政策に疑問を呈したマスメディア

 一律の減塩政策に対して、それを勧める科学的根拠がないこと、減塩には危険性があることなどが発表され、海外のマスメディアはそれを取り上げて社会に伝達する役目を果たしている。しかし、日本ではほとんど全くそのような情報を発信しないことを筆者は機会あるごとに述べてきた。

 この度、初めて週刊誌で減塩政策を批判する記事が掲載された。それを機に塩と健康問題を2誌の週刊誌が取り上げた。それらを紹介し、コメントする。

 

1.週刊ポスト

昨年、週刊ポストの1125日号で「塩分を減らせば血圧は下がる」は間違いだった、その健康の常識、今では大間違い!と題する記事が出た。この記事は基本的に塩が高血圧の原因として勧められている減塩に対して批判していた。この記事を書くにあたって、私は電話を受け、減塩すれば誰でも血圧が下がると考えるのは嘘で、多くは変わらず、逆に上が人もいることを話し、その根拠となる学術論文を紹介した。

記事内容、小見出し62年前のままの「塩分犯人説」の中で塩摂取量が高血圧の原因ではないかという塩仮説を立てる基となったダールの疫学調査の結果に触れている。しかし、その記述には多少の誤りがある。この論文は古く入手が困難であるが、幸いにも2005年に国際疫学学会誌(Intern J Epidemiol 2005;34:967-972)でこの論文がリプリントとして意見を加えて発表された。その中で摂取量のデータを次のように明らかにしている。「エスキモーが1日当たり平均4 g以下の食塩摂取量であり、マーシャル群島では約7 g、アメリカの白人男性では約10 g、南部日本の農民と労働者では約14 gであった。北部日本の農民は、日本の友人で研究者の千葉大学福田博士によると平均26.3 gであることがわかった。」として下記の表を発表している。

表1 1日当たりの平均食塩摂取量

    1日当たりの平均塩摂取量

ここで、少し変だと思うのは1954年に発表された論文にそれ以後のデータが出ていることである。実はこの表をグラフにしたダールの有名な図は1954年には発表されず、1960年に開催された国際シンポジウムで初めて発表されたことを筆者は後で知った。

この節で減塩が心筋梗塞で危険性が高くなると初めて指摘されたアルダーマンの論文はHypertension 1995;25:1144-1152であると思う。ポストに記載されているランセットには発表されていない。ミラーらによって減塩による血圧応答がHypertension 1983;5:790-795に発表された時、減塩により血圧が上昇する人がおり、減塩が危険な人々がいることが分かったが、そのことは問題にされず、減塩による血圧応答は不均一で複雑である、としかコメントされなかった。

1週間後の同誌122日号にも、前の週に発表した記事の反響を受けて、「そうだったのか!」驚きの声、続々!「塩分を減らせば血圧は下がる」はやっぱり間違いだった、との記事を出した。その中では、前述の論文を引用して小見出しで「17%の人は減塩で血圧が上がった」と減塩の危険性を書いている。アメリカの医学研究所が2013年に発表した「集団のナトリウム摂取量 事実の調査」を引用している。この報告書では減塩の健康改善効果は不明確であるとしている。また、全死因との関係で塩摂取量を見ると、現状の塩摂取量が一番適正とのグラウダルの論文も紹介している。

この号では純度の高い塩事業センターの塩よりも純度の低い天然塩(天然塩、自然塩という表現は消費量に優良品と誤認させるので塩の公正マークが表示されている塩商品では使わない。) を賛美しているが、天然塩を賛美する科学的根拠は全くない。含有量が少なくあまりにも微量しか摂取できないからである。また、同号で記載しているナトリウム以外のミネラル成分の数値は市販の塩商品には含まれていない。   

白澤抗加齢医学研究所所長の白澤卓二氏の話として「…海水を元にした天然塩に含まれるミネラルの成分は、塩化ナトリウム約78%以外に、便通を良くするマグネシウムが69%、ナトリウムを体外に排出することで血圧を下げるカリウムが約2%含まれている。…」と書かれているが、どこからこの数字を持ってきたのであろうか?海水をそのまま乾燥させた3種類の塩商品がある。その商品を分析した結果を発表している塩事業センターの市販食塩の品質()によると、それらの商品のマグネシウム含有量は3.173.63%であり、カリウムは1.001.27%しかない。推察するに、多分、これらの過大な数値はウィキペディアの海水の構成成分から持ってきた数値であるように思われる。それには塩化ナトリウム77.9%、塩化マグネシウム9.6%、硫酸マグネシウム6.1%、塩化カリウム2.1%とある。元素のマグネシウムやカリウムと、それらの化合物である塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウムは全く別物である。ちなみに、海水に含まれる主要なイオンとして化合物の下に掲載されているイオンの質量から計算したマグネシウムとカリウムの%はそれぞれ3.721.11%であり、前述した塩商品中のそれぞれの含有量とほぼ一致する。

化学の知識があるはずの白澤氏が本当に言ったとは思えない。記名記事ではないので、誰に責任があるのか分からないが、最終的には週刊ポストの編集者にあるのであろうが、このような記事を読むと、これが読者に誤解をもたらすお粗末な週刊誌レベルの科学的認識と言わざるを得ない。

 

2.週刊文春

週刊ポスト記事の影響を受けて、128日号の週刊文春では、「塩分と血圧」の真実教えます!と題する記事が出た。ここでは、従来通りの減塩を支持するスタンスで「エビデンスに基づき脳卒中などのリスクを徹底検証」との副題を掲げて、矛先を変えて高血圧だけでなく脳卒中や胃ガンのリスクを強調している。

インターソルト・スタディで塩摂取量と高血圧には明確な因果関係なかったとした週刊ポストに対して、研究結果を完全に読み間違えていると指摘している。つまり52ヶ所の調査集団(各集団には200以上の被験者がいる)の中で39ヶ所については塩摂取量と高血圧発症率との間には正相関があり、その内の15ヶ所は統計的に有意であった。言い換えれば52ヶ所の集団間でみた10,000人以上のデータでは、正相関はなかったが、15ヶ所の集団内でみた200人以上のデータでは有意に相関関係があったとしている。それであれば、多くの論文があるインターソルト・スタディ関係の論文の中で強調して書けばよいと思うが、そのようには書いていない。

塩摂取量と脳卒中との関係は昔から言われている。現在では心血管疾患の罹患率や死亡率との関係に焦点が置かれており、減塩で心筋梗塞を含む心血管疾患に悪い影響を及ぼすことが発表され、そのことで論争が始まっている。中央公論2月号に「脳卒中死亡率全国2次医療圏別全リスト」が発表され、テレビの深層ニュースでも放映された。脳卒中死亡率が高いのは東北地方に限らず、鹿児島県、島根県、鳥取県でも高く、東京都でも地域によって大きな差があることが分かった。これは主に医療体制の違いによるためのようだ。要因として塩摂取量は取り上げられていないが、その後の記事「なぜ、西多摩、茨木、栃木は死亡率が高いのか」では小見出しで「喫煙、塩分過多が脳卒中のリスクを高める」と塩摂取量に推測で疑いをかけている。この件については稿を改めて検討してみたい。

塩摂取量と胃ガンの関係について塩は胃ガンのイニシエーター(発がん性物質)ではないが、プロモーター(ガンの増殖に寄与)である。いくつかの食品添加物が発がん性物質として話題になる。実際に発がん性が実証されれば、食品添加物から除外される。発がん防止対策としてはピロリ菌の除去が勧められている。塩と胃ガンとの関係についてのエビデンスはあるが、まだオーソライズされていない。

 

3.週刊現代

さらに1週間後に週刊現代の1215日号で「気を付けろ!減塩し過ぎると「認知症」になる」と題し、「知らないと寿命が縮む新常識」と副題を付けた記事を出した。内容は減塩の危険性に重点を置いていた。減塩は誰にでも血圧を低下させる効果があり、減塩すればするほど良いとの認識から一転して、減塩には危険性があることをエビデンスに基づいて述べ、特に2013年にアメリカの医学研究所から出された厳しい減塩に対する危険性に対する警告を発している。

「この報告が出て以来、減塩がリスクを高めるという研究が続出している」と記載し、心血管疾患の危険率は塩摂取量の摂り過ぎでも、減塩のし過ぎでも高くなると言ういわゆるJカーブ(J字型)を示すことを解説している。

この記事では、愛媛大学社会共創学部小原克彦教授、白澤抗加齢医学研究所白澤卓二所長に取材し、減塩の危険性を専門誌に発表したエビデンスを紹介し、食と正確情報センターの八藤眞所長、共立女子大学家政学部上原誉志夫教授は体に良い物として味噌汁を勧めている。