戻る


3.塩の脱水作用

 塩には脱水作用がある。卑近な例はナメクジに塩を振り掛けると、ナメクジの体内から水が外に出て脱水され死んでしまう。野菜の漬物は塩の脱水作用を利用した食品加工法である。塩が食物保存に利用されるのも塩の脱水作用により腐敗を起こす微生物が脱水されて繁殖できないためである。塩蔵は野菜だけでなく魚、肉の保存でも行われる。冷凍や冷蔵技術が発達してきた今日では食品保存に塩蔵技術が大々的に使われることは少なくなった。

 塩の脱水作用で腐敗性微生物の繁殖が抑制されるのは食品の中で微生物が繁殖に利用できる水が少なくなるためで、利用できる水の量を表す言葉として水分活性値が使われる。100%利用できる場合の値は1であるが、塩分濃度が高くなるにつれて利用できる水分量は少なくなるので、値は1よりも小さくなっていく。飽和濃度の食塩水では0.75となる。

 塩が脱水作用を示す理由は塩溶液の高い浸透圧に基づいている。半透膜を挟んで塩水と真水があると、真水が半透膜を通して塩水の方へ移動する。つまり、塩水に浸かった野菜では、その細胞膜を通して細胞内の水が外に引き出される、つまり野菜は脱水される。

 かつて鰻の養殖でえら腎炎による大きな被害で困ったことがあった。この時、治療のために使われたのが塩であった。その後、塩の代わりに海水を使うようになった。鯉や金魚の養殖でも病気治療に0.5%の塩溶液が使われる。塩の浸透圧により病原菌は繁殖を抑制される。