たばこ産業 塩専売版 1995.07.25
「塩と健康の科学」シリーズ
(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与
橋本壽夫
食塩摂取量と胃がんとの関係
これまで食塩摂取量と疾患死亡率あるいは疾患受療率との関係を述べてきたが、そこでは胃がんについては触れなかった。しかし、食塩が胃がんの原因になることが時々話題になるので、今回は食塩摂取量と胃がんについて調べた。
食塩と胃がん
「食塩は胃がんの原因となるか?」については4年程前にこの欄で二回にわたって取り上げた。食塩が胃がんの原因物質ではないかと疑われて30年近くになるが、いまだに仮説の段階で結論が出ていない。いろいろな研究事例があるが、疫学調査の結果は一貫しておらず、動物実験で食塩が発がん性物質を作ることを促進することが判ったという段階である、と述べた。
食事と胃がんの関係についての評価
アメリカの国立生命科学研究評議委員会で、食事と健康に関する検討委員会を設置し、検討した結果を1989年に発表した。それは日本語に翻訳されて「食事と健康」として日本食品衛生協会から1992年に出版された。その中では塩蔵食品と胃がんとの関係が示唆されているが、食塩自身との関係は明らかにされていない。
イギリスの医学専門雑誌BMlの昨年6月号に掲載されたがん予防のための食事とがんの関係では、食事とがんについての仮説で、危険因子として可能性があるものに食塩があげられている。しかし、食塩について言及されていることは、「食塩は胃がんの危険因子であるかもしれず、摂取量を下げるべきであると長いあいだいわれてきた。食塩摂取量を下げる他の理由は、それにより血圧を下げられる利点があるからである」とだけで、具体的な関係の記載はない。食事とがんとの事実関係の要約や予防戦略にも食塩は取り上げられていない。
食塩摂取量と胃がん死亡率との関係
厚生省発表の人口動態統計特殊報告と国民栄養調査の結果を組み合わせて食塩摂取量と胃がん(胃の悪性新生物)死亡率との関係を示すと、図1のようになる。5歳刻みの年齢別に食塩摂取量と死亡率との関係を3回にわたって示した図であるが、若干の傾向の乱れはあるが、ほぼ類似の傾向を示しており、結果には再現性があり、食塩摂取量と胃がんによる死亡率との間には相関がない。
図1 食塩摂取量と胃の悪性新生物死亡率との関係
食塩摂取量と胃がん患者数との関係
図2は胃がんで入院、または外来で通院している患者数と食塩摂取量との関係であるが、死亡率と同
様に3回示したいずれの年も類似の関係を示し、再現性のある結果で、食塩摂取量と胃がんの患者数との間には相関がない。
図2 食塩摂取量と胃の悪性新生物関係数との関係
以上のように、いろいろな文献を見て、整理した限りでは食塩摂取量と胃がんとの関係は明確ではなく、むしろ関係ないといえる。
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