戻る

東京日本橋東ロータリークラブ例会講話

201736

於:ロイヤルパークホテル

 

「塩と健康」に関する講演のレジメ

 

1.      塩なしで生存できない理由:塩(ナトリウム塩化物の化合物)の生理学的役割

    腎臓のナトリウム排泄量調整で体液のナトリウム濃度を一定に維持。浸透圧が一定に維持され細胞機能が正常に働く。

    酸・塩基平衡の維持。呼吸による酸素の炭酸ガス化で体液が酸性になることを重炭酸ナトリウムの緩衝作用で体液のpHを一定範囲に維持し、病態化を避ける。

    塩化物は胃液の成分である塩酸となる。

    栄養素であるブドウ糖、アミノ酸の体内吸収にナトリウムが必要。

    神経伝達では神経細胞のナトリウム出入りで生ずる電位差で微小電流が発生。

 

2.      全ての人々に対して塩が悪者にされてきた経緯

    疫学調査でダールは非常に相関の高い塩摂取量と高血圧発症率との図を示した。

    1954年に塩が高血圧の原因との塩仮説を立ててラットで証明する実験を始めた。

    その結果、1962年に塩感受性ラットと塩抵抗性がいることを発見した。

    岡本らは1963年に自然発症高血圧ラット(SHR)1973年に脳卒中易発症SHRを選抜し、高血圧が遺伝性の疾患であることを示した。

    1978年に川崎はヒトでも塩感受性があることを発表した。

    塩仮説は証明されていないが、1977年に米国で塩の目標摂取量8g/dが設定された。

    日本では1979年に目標摂取量10 g/dが設定された。

    1982年に米国週刊誌タイムで「塩は新たな悪者か?」と題する論文が発表され、塩が悪者にされた。

    1996年にイギリスの減塩運動推進団体CASH(Consensus Action on Salt & Health)結成

    2005年に世界減塩運動推進団体WASH(World Action on Salt & Health)結成

    2012年にWHO(世界保健機関)が「成人と子供のナトリウム摂取量」ガイドラインを発表。塩摂取量5 g/dを設定。

 

3.      全ての人々に対して塩は必ずしも悪者ではないとされてきた経緯

    1987年にミラーらは減塩で血圧が上昇する人達がいることを発表した。

    1988年に32ヶ国、52ヶ所で合計1万人以上の被験者で厳密な疫学調査が発表された結果は、文明社会では塩摂取量と高血圧発症率は関係なかった。

  1995年にニューヨーク市アルバート・アインシュタイン医科大学のオルダーマ

ンらは減塩には心筋梗塞を起こす危険性があることを発表した。

    1998年のサイエンスに発表された「(政治的な)塩の科学」と題するトーブスの論文で減塩を勧める根拠がないことが明らかにされた。

    2013年にアメリカの医学研究所は減塩の有益性を支持しておらず、行き過ぎた減塩は危険であるかもしれないとした。

    2014年にグラウダルらは全ての死因による死亡率と心臓血管疾患による死亡率は現状の塩摂取量(6.7 – 12.6 g/d)以上、または以下で大きくなると発表した。

 

4.   減塩政策を巡る塩論争

 前述した経緯から、万人に一律の減塩を勧める減塩政策を巡って海外では専門誌で激しく論争されている。減塩に有益性がない、危険性があると専門誌で発表されると、いくつもあるインターネットのサイトで直ちにニュースレターとして情報が流され、新聞・雑誌などのマスメディアも取り上げて流す。科学を専門とするジャーナリストの解説記事を掲載する。日本のマスメディアは残念ながら、ほとんど情報を流さない。情報封鎖の状態。

 

5.      塩感受性の確認法

 減塩で血圧が低下する効果を示すのは塩感受性の人だけ。その人達は一般的には30%程度、高血圧者でも50%以下。塩感受性は簡単には分からない。血圧が高いため降圧剤を服用し、普段から家庭で血圧を測定している人が10日以上入院する機会があれば、6 g/dの減塩食を食べさせられるので、血圧計を持ち込み入院中にも測定して、入院前測定値の10%以上下がれば塩感受性である。下がらなければ塩抵抗性の体質で塩摂取量は無関係。

 

6.      塩化カリウム(例えば、ライトソルト)の危険性

 悪者の塩のナトリウムを半分カリウムに換えて減塩を勧める製品がありますが、危険な場合があります。カリウムはナトリウムと同様に必要な栄養素ですが、野菜や果物から摂るべきで、塩化カリウムが半分入った塩製品(例えば、ライトソルト、減塩しお、やさしお、お塩で減塩など多数あり)から摂るべきではありません。血液中のカリウム濃度が上がり高カリウム血症になって心臓が止まってしまうことがあるからです。

 

参考資料:塩に関する情報提供サイト「橋本壽夫の塩の世界」

下記に20117月から 2016年の年末までの閲覧回数の高いサイトを紹介します。

表         題

累積閲覧回数

ナトリウムとカリウム 働きと血圧に及ぼす影響

104,566

渇きに苦しむときなぜ海水を飲んではいけないのか

74,967

塩の対比効果と抑制効果

35,711

塩の浸透圧が果たす役割

31,261

腎臓のナトリウム排泄

29,758

塩と人 生命維持のメカニズム

29,339

塩が融氷雪剤に利用される理由は?!

29,201

特定用途食品について -塩化カリウム添加食塩の問題点-

24,110

「麺の腰を強くする」塩の役割

23,880

塩の性質と作用

23,025

塩と食中毒菌

22,266

なぜ塩は水に溶けるの

22,058

様々な形に変化する塩の結晶

18,674

塩は高血圧に関係しているか?

17,789

耐塩・好塩微生物の性質と応用 -食生活を豊にする微生物たち-

16,595

動物飼育と塩の役割

16,461

見直されつつある「味噌汁」の効能

15,374