そるえんす、1998, N0.39, 2-13
インタビュー
第8回世界塩シンポジウムについて
−ビアマン大会会長とデヨング大会事務局長に聞く−
世界各地の、塩に関する研究者と業界関係者が一堂に会する国際会議「国際塩シンポジウム」は、1962年からこれまでに7回開催されています。当財団は平成4年(1992年)4月に、京都で開催された第7回国際塩シンポジウム(京都大会)を主催しました。
この京都大会の閉会式で「次回は20世紀中にオランダで」との予告があり、その後現地で準備活動が進められてきました。当財団におきましても、前回主催した経験をもとに、求めに応じてできるだけの協力をしています。
本年8月未にオランダから、次回大会の準備活動を中心になって進められていますアクゾ・ノーベル・ソルト社のビアマン(F.A.Bierman)社長と、主催財団事務局長のデヨング(J.M.de
Jong)博士が、意見交換と日本からの参加者勧誘のために来日されました。両氏のこの目的での来日は、平成7年9月以来3年振り2回目になりますが、当財団ではこの機会に両氏から最新の準備状況をお聞きして、読者の皆様にお知らせすることにしました。
☆次回大会の正式名称は「第8回世界塩シンポジウム」で、この大会が2000年5月に開催の予定であることから「ソルト2000」と略称されていますが、この記事の中では「第8回大会」とも呼んでいます。
☆第8回世界塩シンポジウムは、アクゾ・ノーベル・ソルト社が主スポンサーになって新たに設立さ
れた財団「第8回世界塩シンポジウム財団」が主催し、オランダのハーグで開催されます。
☆これまでの国際塩シンポジウムの推移と、前回の京都大会の詳細につきましては、本誌第13号(第7回国際塩シンポジウム特集号)をご覧下さい。
塩の大切さをテーマに
──過去最大規模が目標
── 今日はお忙しい中をインタビューに応じていただきまして、有難うございます。私達財団関係者は、これまでに第8回大会のご準備の状況を逐次ご連絡いただいていますので、それなりに承知している積もりですが、このインタビューの記事は『そるえんす』の読者の皆さんに、第8回大会全体を知っていただく、という狙いがあるものですから、基本的な構想から細かいことも含めて、改めてお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
ビアマン こちらこそ財団には、当初からいろいろと「ソルト2000」の準備にご協力をいただき、有難うございます。今日のインタビューの記事は、私達にとっても、日本の関係者の皆さんに「ソルト2000」を知っていただく良い機会だと思っています。このような機会を作っていただいたことに感謝しています。
「ソルト2000」の基本的なところは、お陰様でほとんど固まりました。具体的な事柄も、もちろん発表論文の応募の様子を見て修正するところがあるとは思いますが、大体固まってきたと思います。たくさんの方々に関心を持っていただいて、盛会にできればと願っています。
デヨング 3年前にも2人でこちらにお邪魔しました。私は、前回の京都大会に出席しなかったこともあって、こちらにお邪魔した時には、まだ次の大会のイメージがほとんど描けなかったんですが、資料をいろいろ準備していただいたり、その後も相談に乗っていただいて、お陰様でここまでは比較的順調に準備を進めることができたと思っています。もちろん大会のイメージは、最初はその人その人で違いますから、それを調整するのに大変でしたが……。(笑)
── 第8回大会は、2000年5月でしたね。
デヨング そうです。「ソルト2000」そのものは、ハーグの国立会議センターで5月7日から11日までの5日間開催する予定です。「そのもの」というのは、あとからお話ししますように、専門家会議の一部とか展示会の中に、この会期とは別の計画で行うものがあるからです。
── 大会のテーマとロゴは……。
ビアマン 大会のテーマというのは、大会のすべての企画を考える上で基礎になるものですね。それからまたこのテーマは、大勢の人が参加したくなるような、人々にアピールするものでなければならない。長い時間をかけて、いろいろな案を出し合って議論をしました。その結果決まったのが、「塩:いのちと生活を支えるもの(Salt:Life depends on it.)」です。
デヨング ロゴは、海水のブルーと海水中の塩や岩塩の白、それから塩が広い範囲で使われているというか、私達の生活を支えているんだといったこと、そんなことを総合してS字で表して、全体を動きのあるデザインでまとめたものなんです。
ビアマン このテーマやロゴを、どう思われますか。
── なかなかすばらしいと思います。Sl(アメリカ塩協会)関係のテーマに、似たようなのがあったようには思いますが……。
ビアマン ああ、「塩はいのちを支える(Salt saves lives.)」ですね。
── ところで大会の規模ですが、どれぐらいを想定されていますか。
デヨング 1962年にアメリカのクリーブランドで第1回大会が開催された時が、参加者ははっきりしませんがおそらく400人以下、講演数が67件でした。それが少しずつ増えて前回の京都大会では、たいへんご苦労されたと思うんですが、参加者が611人、講演数は181件と過去最高になっています。私達は何とか頑張って、参加者は750人位、講演数は200件位を目指したいと思っています。
ビアマン そのためにも、できるだけ幅広い方々が参加できるようにしたいと思って、いろいろな会議や会合を一緒にやりましょうと呼びかけてきました。これは、またあとから話が出ると思いますが……。
共同開催で幅広い「集会」に
──発表にも産学協調を
── ちょうどビアマン社長からお話が出ましたので、共同開催などを含めて、この大会の構想の特徴といったことでお話をいただきたいと思います。
ビアマン まず大会の持ち方の特徴というか基本としては、塩に関連があるようなシンポジウムやイベントを、できるだけ幅広く共同して開催したいと考えました。まだ全体がきちんと決まったわけではありませんが、だんだんと固まってきています。
それから発表プログラムの特徴は、いわゆる専門家の最先端の「サイエンス」の発表ばかりではなくて、もっと「塩産業」全般にわたる発表もミックスしたものにしたい。そしてその中に、「過去」や「未来」も含ませるようにしたいと思っているのです。
── 大会を幅広い情報交換の場にしたいということですね。
ビアマン そうです。私達はこの大会を開催する目的として、4つのカテゴリーを決めました。第1はいうまでもなく、塩に関連した技術的な進歩やノウハウをできるだけ広くカバーして、情報交換をするということですね。そして第2と第3は塩関係のビジネスに関することで、第2は塩産業のビジネスに対する脅威だとかチャンスの情報を共有すること、第3は、塩産業のビジネス・プロセスの進歩に貢献することです。最後の第4は一般の方々が対象で、塩が人類にとって非常に大切なものだということを、再認識してもらうことです。
デヨング そのためには、まず大会の視野を広く設定して、広い範囲の方々に参加を呼びかける。科学者や技術者だけではなくて、会社のビジネス関係の方々、それに企業のビジネスに関係があるコンサルタントや官庁関係の方々にも参加を呼びかけたいと思っているんです。ですから幅広い皆さんにアピールするようなテーマが必要というわけですね。それから大会を組織する上でも、大会でこのような目的が十分に通せられるように、気をつけなければならないと考えています。
ビアマン 共同開催については、まだこれから固めなければならないところが残っています。ところで日本海水学会の年会もどうですか。(笑)
── とてもとても……。(笑)年会は無理ですが、学会では発表者のミッションを組んで参加しようと、特別の委員会を作って準備しています。
ビアマン それはそれで、たいへん有り難いと思いますが、年会のほうもよろしくお願いします。
(笑)
── それでは共同開催について、もう少し具体的にお話し願えますか。
ビアマン これまでの塩シンポジウムに関わってきたESPA(ヨーロッパ塩生産者協会)、SI(アメリカ塩協会)、SMRI(溶解採鉱研究協会)はもちろん、ほかの塩に関係する団体に、広く呼びかけてきました。日本海水学会も含めましてね。(笑)
デヨング 「ソルト2000」を主催するのは「第8回世界塩シンポジウム財団」ですが、この財団の主スポンサーはアクゾ・ノーベル・ソルト社で、ESPAが協賛しています。ですから、もちろんESPAの2000年の年次総会は、「ソルト2000」に併せて開催することになっています。
それからアメリカのSIとSMRIですが、SIは年次総会を、SMRIはヨーロッパ会合を、「ソルト2000」と結合して開催することになっています。これらはこれまでに決定済みですが、今ビアマン社長が言われましたように他にも声をかけていまして、かなり話が進んでいるものや、話がまだ緒についたばかりのものなどいろいろです。
── 海水学会は別にして、(笑)他のところというと……。
デヨング ーつはCIHS(塩の歴史国際委員会)のシンポジウムで、この委員会とは話がかなり進んでいます。このシンポジウムは2年ごとにやっているんですが、今年の9月にサルジニアで開催されます。実はこの歴史の委員会からは、「ソルト2000」でのシンポジウムの持ち方で提案を受けているのですが、私としては満足できないところがあるので、サルジニアで責任者と具体的に話し合う予定になっています。もう一つはMBS(塩の力学的挙動)シンポジウムで、これは京都大会の講演集の編者のお一人のハーディー(H. R. Hardy Jr.)教授が主催されているんです。こちらは正直いってあまり話が進んでいなくて、ペンディングの状態です。話し合いは続けることにしていますが……。
── 幅広い分野の方々がこの機会に一堂に会するようにしようという主旨は分かりますが、大会全体の運営という面では難しくなるんではないですか。
デヨング 実は私達も、少し心配しているんです。ESPAはもちろんSIやSMRIは問題ないと思いますが、CIHSやMBSは、規模も大きくタイトに組織された「ソルト2000」の中に組み込むと、それぞれの特性が失われるのではないかということですね。これからそれぞれの方々と討議しようと思っていますが、例えば「ソルト2000」の場所とか時間帯の枠の中で、「サテライト(衛星)・シンポジウム」の形にするのも一つの有力な方法ではないかと思います。
それからもう一つ、ヨード欠乏症対策に関連したプログラムを「ソルト2000」の中で行う予定にしていまして、ご存じのICCIDD(ヨード欠乏症対策国際委員会)や他の関連した非政府組織(NGO)、特にPAMM(微量栄養素失調対策プログラム)やMI(微量栄養素イニシヤティブ)などの関係者が、プログラム作りを独自に進めています。
魅力的な首都ハーグ
──機能性も抜群な会場環境
── それでは日本から大勢の方々が参加するように、ここでひとつハーグ会場の宣伝をしていただきたいのですが……。(笑)
ビアマン そうですね。ハーグはオランダの首都ということは、よくご存知のとおりですが、人口は
約70万人でオランダで3番目の都市です。1番がアムステルダム、2番目がロッテルダムでその次ですね。ハーグからはアムステルダムまで車で35分位、ロッテルダムまではほとんど同じですが少し近くて30分位です。ハーグには写真のような政府機関がありますが、海にも近いたいへん美しい町です。
── 空港から会場へのアクセスはどうですか。
ビアマン 「ソルト2000」の会場は国立会議センターで、ハーグの中央駅からタクシーで早ければ5分くらい、10分まではかからないと思います。アムステルダムのスキポール空港からハーグ中央駅までは、列車で30分以内です。空港から直接会場までタクシーに乗っても同じくらいの時間で着けますが、道の混み具合次第ですね。この頃は交通渋滞が、場所によっては朝の7時頃から1日中続いているようですから……。それから会場から海までの距離も、駅までとほとんど同じ位です。
── ホテルの方は……。
デヨング 現在全部で910室を仮抑えしてあります。もちろん全部ハーグ市内です。
実は会場の国立会議センターの上の階はホテルになっています。それとごく近くの、歩いて行ける範囲のところに、合わせて585室抑えてあります。残りはハーグの中心部と海岸の近くです。
── 12年ほど前に、食用塩の国際規格の会議がこの会議センターでありまして、私も出席したのですが、ずいぶん立派な施設に変わったようですね。
デヨング 国立会議センターはとてもきれいな施設で、全体会議に使う大会議場と分科会に使う小会議場が十分にあります。後でお話ししますように、技術展示会を考えているんですが、その会場もセンターの中に置くことにしています。それから、別に計画している公開展示会という移動展示会の会場も、センターから歩いて行ける博物館を予定しています。
ビアマン ハーグは、このように全体をコンパクトに配置できることと、海岸にも近くてツアーの企画にも便利なところで、それがここを選んだ理由なのです。
時期的にはチューリップ・シーズンの終わりに当たっているので、京都の見事な桜と比べられるのをちょっと心配しているんですが、(笑)ツアーでは、アムステルダムのチューリップを見ていただいたり、ダイク(海岸の大堤防)での散策などを考えています。ロッテルダムも近いですから、候補地の一つに入れています。
── 有田焼や伊万里焼きの影苧を受けたといわれる焼き物で有名なデルフトも近いんですね。
デヨング ハーグとロッテルダムの中間位でしょうか。ロッテルダムヘの途中で寄るコースも候補の一つになっています。
6分野並行の科学プログラム
──発表時間はたっぷりと
── それではまた話を元に戻していただきまして、一番大事なそして多分ご苦労が多いと思われます、科学プログラム関係のお話を伺いたいと思います。
ビアマン 科学プログラムでは、大きく分けて3つの問題がありますね。一つはどんな基調講演を選ぶか、2番目は一般の発表の課題や区分をどうするか、そしてさっきから話が出ています、例えば「健康」とか「歴史」などの分野の扱いをどうするか、といったところでしょうか。それぞれについて、議論はかなり詰まってきていると思っています。程度の差はありますが……。
デヨング 実は近々出す予定の第2回案内に、基調講演についての記事を載せようと思っていたんです。しかし委員会で、「未だ早過ぎる」「リスキー過ぎる」という意見が出て、今回は見送ることにしました。第3回の案内には、テーマと講演者を載せることになりますので、またアドバイスをいただければと思います。
── 一般の発表についてはいかがですか。
デヨング 発表を募集する課題ですが、私達は塩の起源から、塩の利用や応用の間蔑までのフローチャートを作って、どんな課題があるか整理しました。課題の立て方については、「ソーラー・ポンド」とか「相律」なども入れたらどうかというアドバイスをいただき、有難うございました。
── アドバイスをしました趣旨は、発表募集の時にはできるだけ課題の範囲を広げた方がいいと思ったからで、プログラムが組めるかどうかは蓋を開けてみなければ……。
デヨング その通りですね。ですから今のところは課題を塩の起源、製造、製品、加工、応用、環境
の6つのセクションに分けて考えることにしています。京都では4セクションだったようですが、6セクションの同時並行でうまくいきますかね。
── プログラムの組み方次第ですね。興味を持たれそうな講演が同じ時間帯に重ならないようにするとか、いろいろな工夫が要るでしょうね。
デヨング 6セクションの同時並行の前提で、1件当たりの発表時間を、討議を含めて30分とろうと思っています。この発表時間は、委員会の大学の先生方のご意見によるものなんです。先生方のご希望が、あまり強いもので……。(笑)
それから口頭発表とは別に、ポスターセッションも考えています。昨年出しました第1回案内への回答の中に、「ポスターセッションを希望」というのもありましたから……。
── それも応募しだいで、発表が多いセクシヨンと少ないセクションができるのは当然ですから、どうしてもやりくりが必要になりますね。それから全員で聞く講演や技術見学などとの関係もあるでしょう。
ビアマン 全員が集まるのは、基調講演と「塩と健康」の関係ですね。この全体会議には、通訳をつけようと思っています。
デヨング 技術見学は、発表会と並行してやろうと思っています。例えば製塩関係の発表を月曜と火曜にまとめて行って、水曜に見学をするといった具合に、発表と見学をうまく組み合わせて配置することを考えています。
まあいずれにしても、最終段階までには、考え方をいろいろとかなり手直ししなければならないことは覚悟していますが、今から心配しても仕方がないんで、最初は楽観的に始めようと思っているんです。(笑)
── ところで講演集は大会当日に配られるということですが……。
ビアマン そうです。京都大会ではたいへん立派な講演集を出されましたが、私達は別の考え方……つまり中身のきれいさを少し犠牲にしても、当日に配ることを選択しました。
デヨング 写真製版にするのです。それから事項索引のほかに著者索引も付けようと思っています。アメリカの方は自分の名前が印刷されるのが好きですからね。(笑)事項索引のほうは、本体がコンピューター編集ではないのでちょっと難しいんですが、著者にキーワードを付けてもらって事務局で編集しようと思っています。
── 出版社はエルゼビアですね。京都大会の時には、「エルゼビアから出るのなら発表の募集に協力する」と言われた方もいましたが……。
デヨング だいたい同じ理由で、エルゼビアから出すことにしています。ただ、例えば論文をほかの専門誌に掲載するために、講演集には載せたくないという理由で提出しないという場合も考えられますので、対策を考えています。
「塩と健康」は別立てで
──重要性と専門性の両立に工夫
── 「塩と健康」の課題はどのように扱われるんですか。
ビアマン この課題は、塩ビジネスにとってもたいへん重要な課題だと思っています。そして一方でこの課題では、専門的な議論が深まってきているとも感じています。正直いって専門的な議論は、私を含めて専門外の人にはとても手に負えるものではないでしょう。(笑)反対に専門家の方々も、研究発表の場で一々素人にも分かるように解説をするのでは、議論の妨げになるでしょう。ですからESPA(ヨーロッパ塩生産者協会)の医学顧問委員会といろいろ議論をして、専門家同士でじっくり議論をしていただく場を別に設けるようなスタイルを考えました。
デヨング 京都大会では「塩と健康」の課題を大きく取り上げたことが一つの特徴でした。「ソルト2000」ではスタイルを変えて、「ソルト2000」のプログラムの中では、一般の参加者にも分かるように噛み砕いた言葉での総括的な講演と、質疑応答の場を組み入れることにして、専門家だけの討議の場は別に設けることにしたんです。
── ということは、具体的には……。
ビアマン 医学の専門家のシンポジウムを「ソルト2000」と分けて開催して、その中で出た話題を「ソルト2000」で、招待講演として解説していただこうということです。そして医学の専門家のシンポジウムは、「ソルト2000」と連携して開催されるということで、「サテライト(衛星)・シンポジウム」と呼んでいます。先ほど同時開催の関係で話が出た、歴史関係や力学的挙動関係のシンポジウムも、同じ場所、同じ時間帯でのサテライト・シンポジウムという形を、選択肢の一つにしているというわけですね。
デヨング 医学のほうのサテライト・シンポジウムは、恐らく2000年の早い時期に、ベルリンで開催されると思います。このサテライト・シンポジウムにつきましては、さっきも申しましたように、長い時間議論をしました。先ほどのビアマン社長のお話の繰り返しになりますが、この問題はたいへん重要な課題なので、専門家の間では議論を深め、私達には分りやすく解説していただくという考え方が基本です。
その結果が、京都大会とは違ったこのやり方で行こうということになったんですが、正直なところうまく行くかどうか心配しています。もっとも、サテライトの運営のほうは、ESPAの医学顧問委員会のドゥルッケ(T. B. Drueke)博士が責任者で、企画も資金関係も、私達の事務局とは全く独立ですが……。
── そうなると医学の専門家以外は、「塩と健康」についての発表はできないということですか。実は私も第1回案内で発表を申し込んでいたのですが……。
デヨング 「塩と高血圧」や「塩とストレス」などの医学的な課題は、すべてサテライトの方で扱うことになります。ただヨード欠乏症対策の関連は、これから塩産業の貢献を話し合っていく活動を始めようということで、「ソルト2000」のプログラムに、その課題を組み入れることにしています。
頭が痛いのは、第1回案内の回答で、「塩と健康」に関連した発表がしたいという意志表示をされている方々に、どう対応するかということです。「申し訳ありませんが、サテライト・シンポジウムのほうでどうぞ。」ということで済むのかどうか……。近々出す第2回案内でははっきりさせなければなりませんので、今悩んでいるところです。
技術展示会で大会に付加価値を
──ロングランの公開展示
── それではお話を、展示会とかイベントのほうに移したいと思います。展示会では技術展示会と、公共的な公開展示会を計画されているようですね。
ビアマン そうです。技術的な展示会は「ソルト2000」の参加者が対象で、塩産業界への技術的な刺激を狙っているんです。つまり「ソルト2000」に、付加価値を付けるという狙いですね。それから公開展示会は移動展示会で、「ソルト2000」のテーマでもあります塩の重要性を、幅広い皆さんに再認識していただくことを狙っています。
── 技術的な刺激といいますと……。
デヨング 技術展示会の目的をもう少しブレークダウンしますと、一つは学問と企業とが接触して、協力し合う環境を作ること。第2には技術的な進歩を、実用化に結びつけること。そして第3にはベンチャー企業に、彼らの技術を宣伝する場を提供することです。
「ソルト2000」の参加者は、展示企業にとってみれば現在のお客さんと潜在的なお客さんですから、展示会の会場を「ソルト2000」と同じ会議センターの中に置いて、休憩時間とか空き時間を有効に使って交流ができるようにしています。
── といいますと、例えば製塩会社からの展示は……。
デヨング もちろん製塩企業からの展示もOKです。この7月に、展示への参加を呼びかける相手先のリストを大体作り終えましたので、10月にはパンフレットを送る手筈になっています。展示に参加されなくても、資金提供だけでもいい。実はうまく運営すれば、「ソルト2000」の収入源にもなると期待しているんです。(笑)
── かなり参加が見込めそうですか。
デヨング 塩メーカーはまだこれからですが、それ以外でこちらであらかじめ目星をつけた機関の大部分は、非公式ですが参加を約束してくれています。今年度の第4四半期には、正式な取り決めをすることになります。
── 運営は……。
デヨング 方針とか内容を決めるのは技術展示委員会で、実行はESC EXPO社という専門業者に任せることにしていて、業者とは契約の合意が済んでいます。
── 公開展示会は、「ソルト2000」の時だけの展示会ではないんですね。
ビアマン そうです。「地の塩」というタイトルの展示会で、先ほども言いましたように一般の方々、特に子供さんに、塩の大切さをよく知って欲しいというのが狙いですね。ですから長い期間をかけて、アメリカとヨーロッパの各地で開催することになっています。
これは今年の2月から、アメリカのミッドランドで始まっていまして、アメリカでの展示会は、1999年中に終わります。そしてヨーロッパでは、2000年5月に「ソルト2000」に合わせてハーグで開くのを皮切りに、オランダ、フランス、ドイツの各地で4カ月間開催することにしています。
── 大規模なんですね。
ビアマン この展示会のスポンサーは「ソルト2000」財団とSIですが、ほかにダウケミカル社も入っています。
デヨング 展示会では対話型の装置などを使って、疑問を解いたり、新しい知識が得られるように工夫しています。参観者は自分で触れたり、観察したり、実験したりする間に、塩の大切さを知って行くというわけです。
── 展示の内容を、もう少し具体的に教えていただけますか。
デヨング 現在のところ展示会は、地質、文化、化学、生理、食物の5つのブロックからならています。子供さんが主なターゲットですから、入口には大きな食卓塩の振出容器が逆さになっていて、塩が流れ出している。地質のブロックは、大きな地球儀が目印になっている、といった具合です。それぞれの内容にしても、例えば地質ブロックでは、テレビゲームをする内に、昔から現在までの塩を採るための方法が分かるとか、生理ブロックでは、ライトアップパネルを操作すると、人間の体が7オンスの塩を使って、腎臓や神経や血液などを活動させている様子が分かるようになっています。
── 面白そうですね。
ビアマン 子供さんに興味を持ってもらわないと……。子供さんが来たがると、親御さんもきてくれる。(笑)そんなことで、2月に始めてから、もういくらかの手直しをしています。アメリカが終わってヨーロッパに来るときには、例えば今はヤード・ポンドになっているのを、単位を変えて作り直さなければならない。言葉も子供達が分かるように、翻訳し直さなければならない。結構たいへんだとは思っていますが、これはたいへん強力な教育的なイベントですね。
── 紙面の都合で詳しくご紹介できないのが残念ですが、資料をいただきましたので、折を見て紹介したいと思います。
次に、見学会や行事などの企画についてはいかがですか。まだ具体的には詰まっていないかも知れませんが……。
デヨング 観光は別にしまして、(笑)技術見学会をいくつか考えています。先ほども言いましたように、科学プログラムと関連させるのが良いでしょうね。今のところ考えているのは、蒸発製塩プラント、岩塩鉱、塩の加工プラント、電解プラントなどです。例えばロッテルダム近辺の電解工場とか、ボースの岩塩鉱などを候補にしています。
ビアマン 参加者の間の交流も大事ですね。交流のプログラムとしては、歓迎レセプションと大会晩餐会を予定しています。それと、市当局が主催するレセプションも計画に上がっています。
また、同伴者も大切ですから、(笑)そのためのプログラムも、もちろん準備を進めています。これには、オランダの中でのツアーで、楽しんでいただけるようなものを幾つか準備したいと思っています。
新設の専担財団が采配
──委員会も産学協同で
── 第8回大会の内容をお伺いしてきたわけですが、この大会を企画したり運営したりする組織について、少しお伺いしたいと思います。今回は大会を主催する財団を、新しく作られたのですね。
ビアマン 「ソルト2000」は、アクゾ・ノーベル・ソルト社が主催して、ESPAが協賛して開催します。独立の実行機関として「第8回世界塩シンポジウム財団」を作りまして、その理事会が「ソルト2000」全体の運営を統括しています。この理事会にアドバイスをする組織として参加者評議会を作りまして、アメリカからSIとSMRI……これまでずっと塩シンポジウムのお世話をされた団体ですね。それと日本からは、前回のお世話をされたソルト・サイエンス研究財団と日本塩工業会に入っていただいています。
── 大会の内容は、それぞれ委員会を作って処理されているんですね。
デヨング これまでにお話した内容ごとに、科学プログラム委員会、技術展示委員会、行事・見学委員会、それと広報担当の広報委員会の、4つの委員会が分担しています。そしてそれらを組織委員会がまとめる形になっています。
また、科学プログラム委員会に付帯する形で、講演集を編集する編集委員会と、科学プログラムに関連する専門的な事柄について、アドバイスや支援をしていただく科学顧問委員会を置いています。
── そしてこれらの組織は、もう活動をされているわけですね。
デヨング 科学顧問委員会以外の、理事会、評議会、委員会のメンバーは、これまでに決定済みで活動をしています。特に科学プログラム委員会のメンバーには、「ソルト2000」では発表の間口を拡げるという基本方針に沿って、大学と企業からのメンバーの混成チームになっています。
── 科学顧問委員会のメンバーは、人選中ということですか。
デヨング 科学顧問委員会のメンバーも、これまでにかなり固まってきています。今年の12月に出す予定の、第2回案内までには決めたいと思っています。
特に日本には、例えば電気透析とか海水中の微量元素の抽出などのような、日本独特とも言えるテーマがありますので、専門家の方にぜひ科学顧問委員会に入っていただいて、ご協力をお願いしたいですね。
── 日本から委員をというお話ですが、委員はどんなことをするのですか。
デヨング 今言いましたようなテーマの、日本からの論文の審査と、発表の時の座長をお願いしたいと思っています。またその方達のネットワークを通じて、「ソルト2000」への参加を呼びかけていただくことも期待しています。
── 座長をということならば、やはり大学の先生ということになりますね。
デヨング できれば学者と企業の混成にしたいのですが……。日本からは、3人は出していただきたいですね。
── その他に、大会のいわゆる実務についても専門家の協力を受けるんですね。
デヨング そうです。大会そのものの運営と展示会の運営について、専門の業者と協力の契約を結んでいます。それから会計士とも契約をして、全体の会計をチェックしてもらっています。
年末に本格的な発表募集
──参加呼びかけにも一段の拍車
── 大会までにあと1年半ほどになったわけですが、これからのスケジュールなどについてお伺いしたいと思います。さきほど、第2回の案内は、今年の12月に出されるというお話でしたが……。
デヨング 案内関係のスケジュールは、第1回は昨年の10月に発送して、参加や発表の意向を伺いました。第2回は今年の12月1日に発送して、参加の呼びかけと発表要旨の提出をお願いする予定です。
第3回が最終の案内で、来年の11月に発送する計画になっています。これには登録用紙と、その時点で組んだ予備的なプログラムを同封する予定です。
── 費用はどの程度でしょうか、登録料やホテル料金など……。まだこれから決めるのかも知れませんが……。
デヨング 登録料は、京都大会なども参考にして決めたいと思っています。まだはっきりとは言えませんが、講演集を含めて500ドルから600ドルぐらいになるのではないかと思います。それからホテルの料金は、三ツ星か四ツ星クラスを抑えてありますので、1泊150ドルから200ドルぐらいかと思います。
── 第1固の案内では、反応はどうだったんですか。
デヨング 第2回も引き続いて案内して欲しいという希望が500件、発表希望が185件ありました。これらのほとんどは大学などの研究機開からのもので、塩産業界の方々は態度を保留されているようです。この方達は業界の大切な実行グループですから、これからの活動で、特に重点的に働きかけたいと思っています。
ビアマン 業界からの反応が鈍いのは、問題だと思っています。そんなこともあって第2回の案内には、関係団体などのトップの方々に、参加を呼びかけるようなメッセージをいただいて、載せたいと思っています。
── マスコミを含めて、広く呼びかけることも必要ですね。
ビアマン マスコミ発表は去年1回やりましたし、今年ももう一度やります。そのほかに、ご存じのようにインターネットでも流しています。
デヨング マスコミのほうは去年の8月に、科学・技術関係の80誌に流しましたが、あまり反応はありませんでした。今年も12月に流す予定で、何とか「ソルト2000」が、イベント・カレンダーに載るようにしたいと思っています。
インターネットのほうは、これも去年の8月から「ソルト2000」のホームページで流しています。こちらのほうは、カウントを始めた今年の3月から今までに、700件ほどアクセスがありました。今年の暮れには記事の更新をする予定で、いま新しい記事を準備しています。
── 発表関係のスケジュールは、どのようなご予定でしょうか。
デヨング 12月に出す第2回案内で、発表要旨の提出のお願いをします。提出期限は、来年の5月1日です。発表OKかどうかの審査結果は、7月15日までにお知らせします。OKになりましたら、10月15日までに発表論文の全文の原稿を出していただきます。
── 大会当日に講演集を配るということになりますと、カメラレディーとはいいながら、かなり忙しいですね。
デヨング そうですね。カメラレディーですからなおさら、きれいな講演集を作るためには、内容も形も調整を充分にする必要がありますから……。審査のメンバーと原稿の修正などについてのやりとりをして、2000年の1月15日までには、講演集の原稿を確定させる予定にしています。そのあと表紙や目次や索引などを整えて、3月3日までにはエルゼビアのほうに渡します。これで、開幕の5月5日までには間に合うという段取りになっています。
── ところで、京都大会の時には、私達は何とか次回大会の時期と場所を予告したいと考えて、ビアマン社長をはじめ関係の方々に、早くからお願いをしました。ご迷惑だったかも知れませんが。(笑)今回はどうでしょうか。
ビアマン ある機会に、「前回が日本で今回がヨーロッパだから、次はアメリカで」という投げかけはしましたが、答えは沈黙……。(笑)国際会議には、たいへんなエネルギーが要りますからね。
── 最後に本誌の統者を含めて、日本の関係者へのご要望などがありましたら、お顔いします。
ビアマン 冒頭にも申しましたように、京都大会の関係者の方々には、いろいろ協力をいただいて、感謝しています。これからも、よろしくご協力をお願いしたいと思います。
デヨング 先ほどお願いした、各団体のトップの方々のメッセージもそうですが、いろいろなルートで、日本の皆さんに「ソルト2000」を知っていただき参加していただけるように、ご協力をお願いしたいと思います。また、これからも京都大会でのご経験を基にしたアドバイスをお願いします。それから、特に日本からの発表に対する対応や、技術展示会への参加について、ご協力をお願いしたいと思います。
── ハーグヘは2度訪れましたが、11月と2月で、いずれもシーズンオフの時期でした。今度は、オランダが一番輝いて美しい時期ですので、楽しみにしています。
今日は「ソルト2000」の概要について、いろいろお話しいただき、有難うございました。私達も日本からできるだけ多くの方が参加するように、呼びかけたいと思います。
(聞き手 橋本壽夫 (財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事)
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