そるえんす、2005, No.66, 16-19

財団運営を振り返って

 

橋本壽夫

()ソルト・サイエンス

研究財団専務理事

 

 財団を退職してから早くも半年になろうとしている。長年整理もしないで溜めてきた書籍や書類を片付けることと、自分のホームページを立ち上げ(筆者の名前で検索できる)、内容を充実させることに没頭してきた。ここで先が見えてきたことから、少しはゆとりが出てきた。
 11月から来年度助成研究の公募が始まる。財団運営の舞台回しをしていた頃、不本意ながら説明不足から応募者にご迷惑をかけたこともある。この場を借りて補足し、応募書類の作成が無駄になることがないようになればと思う。
 併せて、舞台裏をご披露し、今後の財団発展のために皆様のご理解とご協力を仰ぎたい。

財団の設立目的

 今さら財団の設立目的を説明するまでもないが、応募に当たっては案外読んでいなくて理解されていないため、応募が無駄になることがある。どの財団でも設立目的があって、それに沿った事業を行っているのであるから、公募研究も目的に合わなければどうしようもない。ちなみに財団案内では次のように謳われている。
  「塩に関する研究の助成・委託とこれらに関する情報・資料の収集、調査・研究等を行うことによって、我が国塩産業の振興と基盤強化に寄与し、広く我が国経済・文化の進展と国民生活の充実に資することを目的としています。」
 ここで、第一は、我が国塩産業の振興と基盤強化に寄与することであり、第二は、広く我が国経済・文化の進展と国民生活の充実に資することである。この観点に沿って応募して頂きたい。

助成研究の採択

それでは具体的にはどういうことか?ここで、「塩に関する研究の助成」をどこまで考慮した内容で応募するかが問題となろう。応募者と財団の採択基準の考え方が一致しておれば問題はないが、応募者によっては塩を口実にしているだけの応募がある。また、実用性や応用性もなく、基礎的にも重要性が乏しく、明らかに予算取りの為であろうと考えられる応募がある。これらは不採択になる確率が高い。
  助成研究の成果は原則として学術誌に発表してもらうようにしている。助成研究の成果を学術誌に公表することが財団の設立目的の一つである「広く我が国経済・文化の進展と国民生活の充実に資する」ことに合致する。しかし、応募内容の成果が既に口頭発表されていたり、学術誌に発表されていることがある。悪辣な応募である。たまたまこれまでに事務局が気付いたことがあった。このような応募は失格である。
  各分野に要望課題が設定されている。この課題に沿った応募内容は採択になる可能性が高い。但し、要望課題に沿っていても、他の分野に応募すると、その分野では審査の対象外となるので、注意を要する。また、これは財団の考え方であるが、助成の機会を多くの応募者に与えることにしているので、連続4回以上の助成は行わない。したがって、連続3回の助成を受けると1年間は休んで頂いて、その後に再度、応募して頂きたい。但し、例外は、プロジェクト研究に応募し採択された場合である。この場合には、4年、5年と連続して助成を受けられる。
  一時期、大学に所属しない教育者にも助成することが研究運営審議会で議論・決定されたことがある。このような応募者の研究発表は、あまりにも他の応募者の発表内容との差がありすぎて異質な印象を与える。なぜ、そのような研究に対して助成したのか視聴者には理解されにくい。今ではこの観点からの公募もしていないし、応募があっても採択されない。

研究運営審議会

 財団の運営で研究助成費は運営資金の約40%を占める。この助成方針を決め、公募研究を評価し、助成研究の採択案を決定する重要な役割を担っているのが研究運営審議会である。各委員の協力的な活動で財団は支えられている。プロジェクト研究の課題設定についても議論される。プロジェクト研究は各分野内で行われてきたが、各分野間を横断したプロジェクト研究を行うことも必要ではないかとの提案で、初めての試みである特定課題研究の「ソルトゲノミックス」が生まれた。マイクロチップアナライザーを用いて、植物、動物、微生物における塩の代謝,生理に関連した遺伝子を検索する研究である。
 金利の低下に伴って助成金総額も低下してきた。このままであれば、1件当たり300万円の助成件数を減らすか、件数を維持するとすれば一件当たりの助成金を減らさなければならないことについて審議していただいた。各委員は助成機会を出来るだけ多くすることを望まれた。その結果、助成金額を減額すると共に、AB2通りの金額を変えた区分を作り、応募者が選択するシステムとした。このシステムで、最初はA区分に応募が多く、B区分は少なかったので、両者の採択率に大きな差が現れ、A区分は非常に競争率が高くなった。しかし、公募時に過去の採択率を公表したことにより、最近では大きな差が現れることはなくなった。
  相変わらずの低金利が続いているが、安全かつ有利な資金運用と経費の節減努力の結果、幸いにも平成9年以来、助成金総額は維持されている。
  この審議会は財団の学術的な活動を行うことについても検討、審議する。例えば、シンポジウムの開催である。財団が設立されて15年を迎える間近の審議会で、研究助成するだけでなく、講演会、シンポジウムのような形で情報の発信をすべきではないか、との問題が提起された。これを受けて事務局では、シンポジウム開催案を作成して審議して頂き、平成15年から毎年開催されている。

プロジェクト研究の再開

 プロジェクト研究は、財団が設立されて以来続けられてきたが、金利の低下に伴う運営資金の縮小から一時期中止された。しかし事務局では、財団が研究助成をする柱としてプロジェクト研究を、従来のやり方とは変えて再開したい旨を研究運営審議会に提案し了解された。
 従来との違いは、プロジェクト研究の目的を遂行しやすいように、プロジェクト研究参加メンバーが集まったスタート時点の発足会で、リーダーがプロジェクト研究の主旨・目的を説明することにより研究者のベクトルを合わせ、毎年の研究成果の中間発表、プロジェクト研究終了後の報告書作成の打合会を設けて情報交換、議論の場としたことである。これにより、研究発表会ではもちろんのこと、時間にゆとりがあるので、プロジェクト・リーダーの意見も加えて発表会以上に熱心な質疑応答が行われ、より良い成果を挙げられた。このようなことからプロジェクト研究参加者から感謝され、事務局としてもやり方に間違いはなかったと満足している。

研究発表会

 研究発表会でまず頭を痛めるのはプログラムの作成である。4分野があって3会場しか用意できないので、分野によっては会場が変わったり、細切れになったりする。発表者や視聴者に迷惑をかけることになるが、ご容赦願いたい。
  次に発表者の順番についても頭を痛め、基本的には日帰りが可能なように割り振る。そのために、関東地域の発表者が早朝にもってこられ、遠方からの発表者は、列車や飛行機の時刻表を見ながらお昼前や午後に割り振られる。この結果、関連した発表内容が必ずしも続かず、座長の先生方が担当する発表が適正に組まれていない場合も生じ、ご迷惑をおかけすることがある。これについてもご容赦願いたい。
 研究運営審議会で研究発表会の状況を報告するが、意見として出されるのは、研究発表会と懇親会への発表者の参加が少ないことである。つまり、発表だけして帰る助成者が多い。最後のセッションに出ると、参加者の少ないことに驚く。そのセッションに回された発表者が気の毒になる。プログラムを組んだ当事者として責任を感じる。是非、最後までの参加にご協力願いたい。
 研究発表会の発表方法も昨年から、スライドやOHPからパワーポイントに変えた。これについては、事務局としてはトラブルを起こすことなくスムーズに発表を進行させるにはどうすべきかに頭を痛めた。幸いにも経験豊富な会社が発表会の進行を請け負っていたので、心配するほどのことはなかったが、その代わり経費が跳ね上がった。しかし、発表者、視聴者には満足して頂いているものと思っている。

シンポジウムの開催

 先にも述べたように平成15年からシンポジウムを開催している。5年に一度くらいは海外の情報を得ようと考え、初回はアメリカとヨーロッパから1人ずつ招待して、塩産業界、塩と健康問題に関する情報を提供してもらった。両人とも、1992年に財団が主催して京都の国際会議場で行われた第七回国際塩シンポジウムの運営関係者であり、気心も知れていたので、準備・進行は順調であった。その他に国内から4人の先生に話題を提供していただいた。シンポジウムであるので、出来るだけ質疑応答の時間を多くした。会場から活発な質問があり、講演者の丁寧な応答があって、成功であった。それぞれの質疑応答を含めて、機関誌の「そるえんす」に特集号として掲載・発行し、事績を残した。
  昨年は午後5人の話題提供とし、あらかじめ質問表を提出して最後にパネル・ディスカッション形式による質疑応答で議論を深めるようにした。しかし、質問があまりにも多かったので時間内には消化できず、議論終了後に改めて会場からの質問を取ることもできなかった。盛況として喜ぶべきであるが、質問者に対して迷惑をかけたことになるので、後日、講演者から回答をもらい、質問者に応えるとともに、すべての質疑応答を「そるえんす」特別号に盛り込んだ。

情報誌・機関誌の発行

 毎月、情報誌の「月刊ソルト・サイエンス情報」を発行している。基本的には、データベースから情報を検索し、その中から掲載事項を選択する。他に塩事業センターから特許情報の提供を受けており、アメリカヨーロッパの塩関係団体からの情報も紹介している。昨年、ヨーロッパの塩関係組織の担当者が変わり、情報の提供が滞っている。担当者に面会し、従来通りの協力関係を確認したが、情報提供は改善されていない。
 情報を集めるデータベースの利用は検索条件となるキーワードの選択がポイントとなる。それによって的確な情報へのヒット件数が左右される。掲載件数は契約で決められているので、ヒット件数が多いと掲載事項の選定作業が大変となるし、少ないと取りこぼしの心配が生じ、掲載記事もあまりないことになる。もう一つ悩ましいことは、データベースの提供方法がしばしば変わることである。これによって折角慣れていた検索手順の見直しをしなければならず、担当者泣かせである。
 機関誌「そるえんす」の発行は四半期毎で、3,6,9,12月の末日である。この原稿は基本的には寄稿に依存しているので、原稿集めが大変である。打ち明ければ、苦肉の策として座談会記事を掲載することがあった。しかし、これも事務局としては話題、メンバーの選定、進行のシナリオと準備やまとめが大変である。言い訳になるが、話題をめぐってある程度構想はあっても、実行にまで踏み出せなかった。
 ということで、読者、助成者からの寄稿に是非協力をお願いしたい。