たばこ産業 塩専売版  1997.02.25

「塩と健康の科学」シリーズ

(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与

橋本壽夫

腎臓における血圧と食塩排泄量の関係

 摂取された食塩量のほとんどは腎臓において尿中に排推される。腎臓における食塩排泄量は血圧によって決まる。血圧が極端に低くなると、尿も食塩も排泄ができなくなり、尿毒症を起こして死に至る。腎臓における血圧と食塩排他量の関係をモデル化して示し、食塩摂取最が血圧に及ぼす効果によって正常血圧、食塩非感受性高血圧、食塩感受性高血圧になる様子を説明する。

血圧と食塩排泄量関係のモデル (図1)

 腎臓における血圧と食塩排泄量との関係は図1のL線のように表される。この図から、平均動脈血圧の上昇とともに食塩排泄量は高くなることが分かる。

腎臓における血圧と食塩排泄量の関係
 図1 腎臓における血圧と食塩排泄量の関係

 食塩排泄量は食塩摂取量とほほ等しいから、通常の食塩摂取量を1日当たり6グラムとすれば、その時のL線上の点nが食塩排泄の平衡圧力となり、血圧は図示されている値でいえば100 mmHgの平均動脈血圧(正常血圧)となる。
 食塩摂取量が増加して1日当たり20グラムとなれば、その時の食塩排泄の平衡圧力はh点の160 mmHgの平均動脈血圧(高血圧)となる。
 このように食塩排泄量(食塩摂取量)によって血圧が変わるので、血圧を低く維持するには食塩摂取量を減らした方が良いといわれる。

正常血圧、高血圧、食塩非感受性、食塩感受性のモデル (図2)

 ところが図1のL線は腎臓の機能()によって図2に示すようにN線、H線、SS線と、いろいろに変化する。

腎臓における血圧と食塩排泄量応答の関係
 図2 腎臓における血圧と食塩排泄量応答の関係

 N線は最初の血圧が低く急勾配で立ち上がっている線で、食塩排泄量(摂取量)が増加しても血圧はそれほど変わらず、しかもその値は正常である。したがってこのような腎臓機能を持つ人は正常血圧者で食塩摂取量に対して非感受性である。
 N線を右に平行移動して、最初から血圧が高くなっているH線は食塩排泄量(摂取量) にはN線と同様あまり関係ないが、平均動脈血圧が高いので、このような腎臓機能を持つ人は高血圧者である。
 しかし、食塩に対しては非感受性である。すなわち、食塩非感受性高血圧者の腎臓の食塩排泄量機能はH線で表される。
 食塩排泄量(摂取量)によって平均動脈血圧が大きく変わる。すなわち、緩やかな勾配で上昇するSS線は食塩摂取量が低い間は血圧も低く、正常血圧者であるが、食塩摂取量が高くなると血圧も高くなり高血圧者となる。
 したがって、このような腎臓機能を持つ人は食塩感受性であり、食塩摂取量によって正常血圧者にも高血圧者にもなる。すなわち、食塩感受性高血圧者の腎臓の食塩排泄機能はSS線で表される。

減塩が有効な人

 腎臓の食塩排泄能力は血圧に依存しており、腎臓における食塩排泄機能の典型的な例としてN線、H線、SS線の三種類を示した。しかし、実際にはこの線の形、勾配はいろいろ様々で、それに応じて人の食塩摂取量に対する血圧応答も異なってくる。
 ここで、減塩が有効な人SS線型の人であり、N線型、H線型の人では減塩しても血圧はそれほど下がらず、効果がない。しかもそのような人が大半を占め、SS線型の人は少なく、1020%程度で、多くとも30%までであろう。